企む勇者
「…それはどういう意味だ?」
「言葉の通りですよ。この町は元々『囲む大地の者』の町だったけど、今じゃ僕達魔族のモノだ。早い話が、街全部があなた達の味方です。隙を見て逃げ出しましょう」
街に魔族が溢れているというのは、少し敏感な者なら既に気が付いているだろう。話に信憑性はあるし、そうでなくともオレ達は既にその事には気が付いたうえで侵入してきているのだ。
いずれにしても、向こうから平和的なアクションを入れてきたのは助かる。戦闘になれば色々と厄介事の方が多いのだから。
とは言えども、相手の信用を得るまで簡単に話に乗る訳にはいかない。少し泳がせなくては。
「悪いが俄かに信じられる話じゃない。この宿屋の主だってフォルポス族だったぞ?」
「彼は協力的な『囲む大地の者』だったので特例だそうです。この隣のフォルポス族は見るからに魔族を見下している様子…きっと極刑にすることだってできますよ? あの態度の女と一緒いたのなら、さぞ怨みも溜まっているのでは?」
などと、言葉巧みにこちらを煽ってくる。普通の関係性のパーティなら、確かに魅力的な話に聞こえるのかも知れない。現にアーコは、
「そいつはいいねえ」
などと、本心なのか芝居なのかは知らないがナハメウの話に乗っかる様な事を言った。
「折角だが、やめておく」
「なぜです?」
「オレ達の主は耳が敏い。このくらいの壁の厚さならないのも同じだ。お前の企みもこの町の秘密も筒抜けだぞ、残念だがな」
「大丈夫です。今は強力な防音の魔法が施されています。この会話は聞こえてはいません」
ニヤリと笑って見せたナハメウだったが、オレ達の頭の中には別の方法で声が届いていた。
『確かに声は聞こえてこないぞ、声はな』
ともすれば、ここまで手の込んだことをする以上、やはり魔族の為に何かしらの救済活動を行っている奴がいると見て間違いないだろう。
だとするならば、やはり安易に返事はできない。一度時間を貰う意味でも、ここは断るしかない。
「悪いがお前の話を鵜呑みにはできない。オレ達を具体的にどう助けてくれるつもりだ?隣の主に聞こえていない保証だってない。少なくとももう少し時間を貰わないとな」
「ええ、もちろんです。今まで何人にもこうして声をかけてきましたが、即答されることはなかったですから。少なくとも僕の話が本当かどうかは、この後の隣にいる女の態度でわかるでしょう」
幸いにも大人しく引き下がってくれるようだ。しかも、今まで何人も助けてきたという新
たな情報も漏らしてくれた。相手が無条件にこちらを信頼して油断してくれるというのは
有難い状況といえる。
「また折を見てこちらに伺います。部屋を分けてくれる奴で助かりましたよ」
そう言ってナハメウは部屋を出て行った。
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