有難がる勇者
今までどの町を旅してきても、魔族の傍らには必ず『囲む大地の者』がいた。現代において魔族は奴隷といって差し支えない扱いを受けての生活を余儀なくされているからだ。
しかし、今見えているように魔族だけを、それも門衛に使われている魔族を独立させるなんてことは通常ではあり得ないはずだ。街の入り口は人通りの要。必要であれば税を取ったり、犯罪者の捜索をしたり、外敵からの攻撃や侵入を防いだりと町民の安全の基盤となることは子供だって理解している。
それほどまでに重要な役割を魔族だけに任せるというのは正気の沙汰とは思えない。ドがつくほどの田舎町ならまだしも、ここは世界五大湖校に数えられるルーノズアだ。どう考えても緊急事態という結論に至ってしまう。
だが、同時に先ほど感じ取った違和感の正体とも合致することにオレは気がついた。今なお、ルーノズアから『囲む大地の者』の気配は感じ取れない。
その上にダブデチカで見た光景がフラッシュバックする。すると、とんでもない仮説が生まれてしまった。
思い浮かんだ仮説とは、既にルーノズアがダブデチカのように何者かに襲撃され崩落した。そこに他意本意は別にして魔族たちが押し寄せ、占領したという考えだった。しかし、その考えは頭を巡らせれば巡らせるほどに現実味を帯びた結論のような気がしてきたのである。
幸いにも、夜という事で門番たちは道を行くオレ達に気が付いてはいない。仮に気が付いていたとしても、顔までは判別できていないだろう。
あくまで自然に道をそれて一つの岩や茂みに覆われたところに身を隠すと、全員が黙ってそれに従った。オレは短く、ルージュに頭の中を全員に共有するように命じる。
そうしたところ、初めてテレパシーでのやり取りを経験したトスクルが目を丸くしながら言ってきた。
「…これは便利ですね。ザートレ様の考えが齟齬なく共有できます」
「ああ。できる事なら一度探りを入れたい。オレが狼になるか、もしくは二手に分かれるかだな」
「いえ、ここは私にお任せください」
トスクルが自信ありげにそう進言してきた。全員の目がトスクルに集中したが、数間考えれば、何をするつもりなのか想像することは簡単だった。
案の定、手の平から数匹のイナゴを召喚した。
それは虫とは思えない統率された動きでトスクルの手元を離れ、ルーノズアの町を目指した。ラスキャブと初めて出会った時に召喚士だと勘違いしていた事を思い出す。屍術はそれはそれで便利だが、トスクルの能力も汎用性がかなり高い。
オレ達はどちらかというと戦闘に向いた能力や魔法が得意だ。だからこそ、トスクルのように支援型の能力や特技を扱える奴が加わってくれたことの有難味を今更ながらに理解していた。
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