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任せる勇者

遅くなりました。


「み、皆さん。トスクルさんが目を覚ましました」


 森の中の小さな平地に寝かせていたままのトスクルが小さな喘ぎと共に目を細く開けた。一番近くで様子を見ていたラスキャブがそれを全員に知らせる。


「トスクル! 大丈夫!?」


「ピオンスコ。飛び掛かるな、少し落ち着け」


 途端にオレの変身の話題は流れてしまい、トスクルの安否について全員が固唾をのんで様子を見ていた。


 そして当のトスクル本人は、虚ろな眼だけを動かして周囲を確認し、


「ラスキャブ…ピオンスコ……?」


 と、短く言った。


「トスクル、アタシ達のことわかるの?」


「…」


 その問いかけには答えない。ただ息を荒くして焦点の定まらない目を宙に泳がすだけだった。ピオンスコはかなり青ざめていたが、ルージュとアーコに宥められて何とか落ち着きを取り戻していた。


「奴らの記憶を見る限り、記憶以外にも何かの術を施されているはずだ。今は休ませて心と体を落ち着かせよう」


「そうだな。気休めかも知んねけど」


 アーコはトスクルに向かって眠りの呪文を唱えた。するとトスクルは気を失うように、再び眠りについてしまった。


 それを見届けると、アーコはこちらに向き直りトスクルの脇で未だに倒れ込んでいる魔族たちを指差した。


「それよりもこいつらはどうする? 必要な情報は全部引き出しちまったけど」


「殺したくはないが、生かしておいても得はない…難しいな」


「ならば記憶だけを抜いて捨ておくか?」


「いや、万が一にも再度レコットや魔王と接触する事があれば確実に怪しまれる。トスクルは連れて行くし、尚更放置はできないな」


「…では主は気乗りせぬようだが、仕方ないか」


 ルージュはトスクルを抱えて森の外に置いてある荷馬車まで戻るように言ってきた。それだけで、全員が何をするつもりなのかを察した。仮とは言え、今は奴らと同じ魔族の姿を取っているせいか、いつもより心苦しさを感じたものの、魔王の事を思えば確かに仕方がない。


 汚れ役をわざわざ買って出てきてくれたルージュに感謝の念を送りつつ、オレはトスクルを担ぎ、森の出口を目指した。


 すると、気の緩んだアーコが欠伸を一つだしながら、オレに尋ねてきた。


「で、これから先はどうすんだ? 一応はピオンスコとの約束が終わったんだろ」


「あっ! そっか。ありがとう、ザートレさん」


「何て事はないさ。トスクルと仲間から有益な情報を得られたのも、お前との約束があればこそだった。こっちが礼を言いたいくらいだ」


「という事は、いよいよ『螺旋の大地』を目指すという事でしょうか?」


「ああ。そうなるな。ダブデチカ以外の港町は無事なようだし、ここから一番近いルーノズアって街を目指すのが当面の目的だな」


「そのルーノズアって町はどのくらいで着くんだ?」


「順調に行けば、二日程度で到着できる」


「だったらいっそのこと夜を待って、また狼の姿で向かうか? 人目を避けた道を通ったところで、馬車を使うよりも早いだろ」


「なるほど。それもそうだな」


読んでいただきありがとうございます。


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