一変する勇者
次話より新章です。
オレは魔族になった身体を動かしてみた。爪がない分、物を掴むのが幾分楽と感じる程度で、それ以外に不便さを感じることはない。
そうしていると、ルージュたちが何とも言い難い視線を送ってきているのに気が付いた。
「? どこか変なところがあるか?」
その問い掛けにピオンスコがハッとした顔を浮かべてから返事をする。
「ううん、何処もおかしくないと思う」
「そうか」
「でも、アタシ達と同じような顔だから変な感じがする」
「鏡がないから何とも言えないが、どんな顔つきなんだ?」
「うーんとね…カッコイイ!」
…。
褒められているのか、皮肉で馬鹿にされているのか、理解に困る返事だ。尤も、ピオンスコの事を思えば言葉の裏など詮索するだけ無駄だと思うので、素直に褒められていると捉えておこう。
「特別サービスで、魔族にとっては男前に見える様な顔にしといたぜ」
「また余計な事を…」
「余計か? 一緒に行動するなら、顔がいいに越したことはないだろう、ルージュ」
「あ、主よ…?」
ルージュは心底驚いたような、困惑したような顔でオレを見てきた。構わずに歩み寄ってみると、毛皮のない箇所を風が撫でて通り、初めての感覚に身震いした。
「そうか、お前らは毛が薄いから少しの風でも涼しく感じるんだな」
「まあな。とは言っても、そっちは寒くなったら暖かい毛皮付きの姿に戻れるんだから、デメリットにはならないだろ」
「ああ。でも寒くなったらこうした方が手っ取り早いんじゃないか?」
「え?」
と、有無を言わさずにオレはルージュを懐へと抱き寄せた。流石のルージュも何をされているのか咄嗟に理解できずに、戸惑いを見せた。
「今更だけど、暖かいんだな。剣に戻った時はそれこそ金属みたいに冷たいのに」
「な、何を!?」
「お前はオレの剣なんだから肌身に当てても不思議はないだろう? 握るか抱き寄せるかなんて大した違いじゃない」
そうしてオレはルージュを抱く腕に少しだけ強めの力を込める。元は冷徹な剣とは思えない程、暖かく肉肉しい感触が伝わってくる。
オレの変貌ぶりとルージュの慌てる様を、三人は呆然と眺めている。
「お、狼になった時とはまた違う性格ですね…」
「思ってたよりもやべえな…下手すると俺達全員食われちまうかもしれないぞ」
「え? それなら狼になった方が食べやすいんじゃない?」
「…ま、狼に食べられるってんなら当たらずとも遠からずだな」
アーコのそんな冗談を真に受けたピオンスコは、また何かに気が付いたようにハッとした表情を浮かべる。
「アタシ達、用済みだから殺されちゃうって事…?」
「心配すんな。そういう意味じゃない。流石にこんな子供にまで手を出すようだったら、無理やりにでも術を解いてやる」
「よく分かんないんだけど」
アーコとピオンスコがずれた掛け合いをしている事など露知らず、ルージュは懸命な抵抗を色を見せていた。
「主よ、嘆願する。フォルポスの姿に戻ってくれ」
ルージュから悲痛な声が出ると、計ったかのようなタイミングで気を失っていたトスクルが、目を覚まして重々しい身体に鞭打つように起き上がった。
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