考える勇者
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この世界には大きく分けて五つの種族があり、それぞれが国を治めて社会を成している。
山に生き、鍛冶を何よりも誇るフォルポス族。
森に生き、農耕を何よりも尊ぶニアリィ族。
街に生き、信仰を何よりも敬うリホウド族。
空に生き、学問を何よりも慮るササス族。
戦に生き、闘いを何よりも悦ぶビーロス族。
各種族が助け合ったり、時にはいがみ合ったりしながらこの世界に生きており、当然と言えば当然だが、種族によって価値観や得手不得手はバラバラだ。だが、唯一魔族という共通の敵とそれを討伐すべきであるという認識を持っている。
だから魔王討伐を掲げるパーティの多くは、その五大部族で構成してお互いの利点を伸ばしたり欠点を補ったりしながら戦うことを良しとするか、さもなくば同じ種族だけで組み、相互理解やチームワークを最大限に発揮することを目指すかのいずれかである場合が多い。
長い間、共に旅をする上で仲間意識というのは死活問題になりやすい。価値観の相違もそうだが、そこに身体的な問題も発生するからだ。
◇
そして、五大部族はそれぞれが一つの動物の特徴を色濃く持っている。
フォルポス族は狼。
ニアリィ族は蛇。
リホウド族は猫。
ササス族は隼。
ビーロス族は鰐。
五感を始め、差異を挙げていけばキリがない。
オレの天を突かんばかりにピンっと伸びた狼の耳は、子供ころからの自慢だし、この黒く尖った鼻は敵を追うのにも待ち伏せを見破るのにも役立ってきた。反対に誰かに助けられることもあったし、ケンカの種になることもあった。それはかつての他部族の仲間たちも同じことが言える。
◆
オレは世界の部族たちのことを思い浮かべて、そしてフォルポスの女に姿を変えたルージュを見て、しばらく何も言えないでいた。色々なことが頭を巡って整理が追い付かない。
そんな中でいち早く混沌の中から抜けてきた思考があった。
仲間の事だ。
かつての仲間たちの事ではない。再び魔王の城を目指すのであれば新たに仲間を募らなければならない。
勿論、実力に不安などは微塵もない。ルージュがいるのだから尚更だ。けれども乗り越える五つの試練の中には仲間がいなければどうにもならないモノがいくつかある。一度は全ての試練を乗り超えたという優位性があったとしても、覆る問題でなかった。
それはさておき、オレはルージュに変身を解くように頼んだ。確かに美しかったが、かえって作り物の様で気味悪さがあったからだ。
その上で、オレは必死に整理した考えを伝えることにした。
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