思い付く勇者
※あとがきにお知らせアリ。
◇
「こうして手に持ってみると、込められている魔力がお前たちの付けているモノの比じゃないぐらい強いな」
「何?」
オレはルージュに登録印を手渡した。全員がそれに手をかざして潜在的に眠っている魔力を感じ取り始める。
魔力の波長というのはそれを扱う術師や場所によって特徴が色濃く出る。気配を察知することに長けている奴なら、それを辿って人物の特定などを行う事もできると聞く。生憎とオレにはそこまでのセンスはないが、代わりに知識と経験が登録印から滲み出る魔力に一つだけ合致する場所を連想させた。
オレが感づくのと同じタイミングで、ルージュとピオンスコがハッと気が付く。反面、ラスキャブは喉まで出かかっているのに言葉が出てこない様な、そんなリアクションを取り、アーコに至ってはまるで見当がつかないというような顔になった。
それだけで、オレの連想した場所と他の面子が感じ取った場所とが一致していると確信を得た。そしてピオンスコが無邪気に真実を口にする。
「これって、魔王の城で作られたのかな?」
「ああ。その可能性が高いな」
けれども、フェトネックと魔王に繋がりあることは明白なのだ。今更、これが魔王の城で作られた品だとしても新しい発見や驚きはない。むしろ、今までの話で浮かび上がった謎や疑問が深まるばかりだ。
その時、ラスキャブが恐る恐る手を上げて言った。
「これって何かしらの仕掛けがあるんでしょうか?」
「まあ、そう考えるのが普通だな。これだけの魔力が意味もなく込められるという事はないだろう。あの店にあったものだけでも相当な数だった訳だし」
「わ、私達についているコレも何かの仕掛けがあるってことはないですか?」
「「・・・」」
全員についている登録印は購入した街は違えども最も格安の品だ。だが、微小ながらもやはり魔力は込められている。だが残留している力が小さすぎて、同じように特定することは出来ない。ただ、くすねてきた登録印が魔王の城で作られている事がはっきりしている以上、登録印は同じ場所で作られていると考えるのは自然だ。ともすれば、ラスキャブの言う通り何かしらの仕掛けはあるとみていいだろう。
「全員、登録印を外せるか?」
言うが早いか、ルージュとアーコはすぐさま首についたそれを引きちぎるようにして取りさった。が、ラスキャブとピオンスコはあくせくと苦戦している。魔力の強いものは強引に外せるが、そうでないものはうまくいかないらしい。ところがオレが触れると何事もなかったかのように簡単に外れてしまった。
「恐らくは登録主と照合しなければ外れない仕組みになっているのだろう。魔力の量から考えても、仕掛けはその程度の事だったのかも知れん」
「だが、危険と不安は残る。これは処分してしまおう」
「けどよ、俺達四人は登録印を付けてない方が怪しまれるし、制約も増えちまうだろ」
その時、ラスキャブ達が処理をしたトンセンコの肉が目に入り、オレはひとつの妙案を思いついた。
「トンセンコの皮をなめしてダミーを作ろう」
丁度ルージュたちにつけていた登録印も革製のものだ。形を取り繕う事なら比較的容易だし、遠目には判断は付けられないはず。
それからは食事を素早く済ませ、腹ごなしも兼ねて偽の登録印造りに尽力した。カルトーシュでの情報収集が振るわなかった以上、ダブデチカに入る前に憂いの一つでも取り除かないと焦りに潰されそうだと思ったからだ。
やがて気力と魔力を十分に回復させると、オレ達は再び一介の旅のパーティを装ってダブデチカの入口を目指した。船に乗ることができれば、かなり自由度が増す。願わくはラスキャブとピオンスコの仲間のトスクルという魔族をここで見つけ、うまくパーティに引き入れられることを祈るばかりだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
再開後、連続投稿に努めてきましたが、ネタ切れの為一時休載とさせて頂きます。確約は出来ませんが、一日でも早く投稿できるように頑張ります。
楽しみにしてくれいる方には申し訳ありません。再開しましたら、またご愛読賜りますようによろしくお願い申し上げます。




