共有する勇者
謎とか伏線ばっかり。
「ま、それはそれとしてだ。ダブデチカに入る前にカルトーシュで集めた情報をまとめておくか」
オレがそう提案すると、全員が少し目を丸くしてしまった。そしてアーコが半ば呆れたように言う。
「お前さ、俺とルージュの話聞いて、この先気になったりしないのか?」
「そりゃ気になるが、二人ともそこで行き詰まりだろ? 考えても仕方のないことを考えるのは嫌いなんだ。ただでさえ頭を使うのは苦手でね。」
「そうかも知んねーけどさ…」
「何百年も前の記憶だ、そう簡単に思い出せるとは到底思えん。二人には共通の何かがある。それが分かっただけでも十分だ。後は気長に構えて思い出すのと、魔王の城につくのが先かどうかの話だろ」
「主の言う通りかもしれんな。その上、思い出したところで有益な事かどうかも不明だ。一先ずはあの店で見聞きしたことを整理してみよう。ラスキャブ、ピオンスコ」
妙なタイミングで名を呼ばれた二人は揃って、「ひゃい」と返事を噛んでいた。
「もう少しこちらへ寄って、私に手を付けろ」
ルージュがそう言うと二人は黙って従って、手を伸ばした。すると何かを察したアーコがルージュの頭の上に胡坐をかいて乗っかった。妙な合体をした後、ルージュがオレの肩に手を乗せる。その刹那、全員の記憶が一つに繋がり、あのカルトーシュで見聞きしたことや重い考察した事などが共有されたのだった。
オレが知らなかった情報。
まず一つはメカーヒーとフェトネックの関係性だ。何となく予想はしていたが、二人は金銭で繋がり、魔族の斡旋や特殊な登録印のやり取りをして相当な利益を出していたらしい。斡旋事業とは名ばかりで九分九厘が奴隷商のような実体だった。
店の客たちも半分は同じような事を考えている連中で、残りの半分も自らの愛玩用に魔族を飼い慣らす算段だったらしい。特に質の悪かったのは、オレの身代わりに狼に変えられたフォルポス族の男だった。飼い慣らすだけならいざ知らず、犯罪行為を肩代わりさせたり快楽目的で命を奪うなどを常習していた。本来なら敵対する側の魔族とはいえども非人道的な行いを知ると、やはり腹立たしい。オレと同じフォルポス族というのが余計に怒りを助長させる。
この分ではオレが調べた他の街でも似たり寄ったりの事が行われていると考えていいだろう。フェトネックに近い魔族たちの記憶によると、フェトネックはそんな実状を知り放置していたばかりか、あまつさえそうなるように仕向けていたきらいがあるからだ。
他にも妙な記憶の断片がある。
フェトネックたちは魔族に『囲む大地の者』を恨むように故意に仕向けていたらしい。しかも、魔族たちは皆、例外なく意図的に記憶を削除されており、突如として『囲む大地』での記憶が始まっているというのだ。ラスキャブやピオンスコと同じ境遇という状況証拠から推察すると、もれなく全ての魔族が『螺旋の大地』で記憶を消され、こちら側に送り込まれてきたという事になる。
いや、そう断定するのは早計か…。だが、いずれにしても、何の意味もなくこんなことをやるとは到底思いにくい。想像以上に巨大な陰謀の末端に触れているのは確かだ。
次にオレ達は、くすねてきた登録印について調べ始めた。恐らくは、これが今回の潜入捜査で一番の収穫と言えるものだろう。
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