怯む剣
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やがて二人の出掛ける支度が整うと、私たちは共だって宿を出てセムヘノの町へと繰り出した。アーコが戻って来た時の為に置手紙を置いておいたから、もしも奴が先に戻ってきたとしても勝手に時間を潰す事だろう。
セムヘノの町は斜面に作られたかのような造りだった。町の中心に大きく緩やかな坂道があり、坂の下はやがて海に辿り着くようになっている。そのせいか露店の店々が使う屋台は坂道を転がって行かないように、後ろが鉤状になっていた。屋台を引いて坂道を行き来するのは『囲む大地の者』には中々の重労働だと思ったが、どの屋台や荷車の傍らにも魔族が佇んでいる。かつてはどうだったかは知らないが、今となっては彼らに肉体労働を任せているんだと予想できた。
男女に差はなかったが、ある程度の身なりをしているのもいれば、文字通りに馬車馬と大して差のない恰好を強いられているのもいて千差万別だ。基本的に田舎の町を見てきたから気が付かなかったが、ここまで大きな街となると魔族に対する扱いも浮き彫りになっているようだった。
私たちは三人ともが何となく居心地の悪さや視線を感じてしまい、誰となく路地裏の人気のない方へと足が向いて行った。日陰の小道にも店はあったが魔族を使役して切り盛りしている店は圧倒的に少なく、ようやくちょっとした買い物ができた。
観光地という事で土産物やアクセサリーがほとんどだったが、ラスキャブとピオンスコの二人は未だ色気より食い気と言った具合で、朝食を食べたばかりだというのに食べ物を売っている店ばかりに盛り上がっては、買い食いを繰り返していた。
「ねえ、ルージュさん」
「ん? どうした?」
まるで犬の散歩するような距離感で歩いていたが、ふとピオンスコが立ち止まり振り返ってきた。何かの串焼きをもぐもぐと頬張りながら、私に尋ねてくる。
「ルージュさんって本当に何も食べないの?」
「ああ。知っているだろうが、私の本体は剣だ。武器が食事を取る訳がないだろう」
「食べないの? それとも食べられないの?」
その質問にはピオンスコの口の周りに着いたソースを拭ってやりながら答えた。
「食べないだけだ。口にすれば味だってわかる」
「あ、味が分かるんでしたら、ルージュさんも一緒に食べませんか?」
「何?」
「前に一度だけご一緒しましたし・・・」
「え、そうなの?」
「あれは親睦の為に付き合っていたのだ。食べられると言っても味が分かるだけ、その為だけに金銭や食料を浪費するのは愚かだろう」
「なら、アタシ達とも親睦しようよ、ね?」
「何を・・・」
いかん。昨日のニドル峠での一件以来、どうにも私のペースはピオンスコに乱される。あまつさえ、それはラスキャブにも波及しつつある。主が仲間への情というもので判断を違えそうな可能性を示唆されているのに、私までもが篭絡する訳にはいかない。
そんな事を考えていると、私たちに声を掛けてくる者があった。
「ねえ、あなた達。主人はどうしたの?」
その声に振り向くと、見知らぬ魔族の女が立っていた。
肩を越すくらいの青い髪を後ろで一本にまとめている。くるぶしまで隠すロングのタイトスカートを履き、両手にはそれぞれ手甲を付け中指で止めていた。肌の露出は極端に少ないのに、体つきのせいで妙に煽情的な印象を受ける。腰には矢立を装着しているのに、何故か弓を持っていない。そして背中には鴉を思わせる漆黒の翼を生やしていた。
女はニコリと笑いながら、私たちに近づいてくる。
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