計画立てる勇者
四人が早々と襲撃を抑えてくれたお蔭で、商隊が撤退をする前に合流することが叶った。
メカーヒーは馬車の外に出て事の顛末を気にしており、『果敢な一撃』のメンバーはオレがバズバを抱えて戻ってきたことに感涙しながら感謝してきた。オレはその流れで、一体何が起こっていたのかを一から説明して聞かせた。
意外にも全員がスピリッタメーバの知識はあったようで、尚更自分たちの身に迫っていた危機を理解して冷や汗をかいていた。
当然、どうやってそのスピリッタメーバを討伐したのかという話題にはなったが、面倒な事になりそうな予感がしたのでオレは機密と嘯いて誤魔化すことにした。オレ達のパーティに何かしらの事情があることは全員が雰囲気で悟ってくれていたらしく、大きく追及されることはなかった。
まあ、オレも逆の立場であったら奇妙と言えるほどの実力や頑なに魔族を連れて従えている奴の事情を言及する気にはならなかっただろうと思う。
それからしばらく。
メカーヒーの提案で、崖沿いの道半ばであるが長めの休息を取ることが決まった。護衛も商隊も予想外の事が起きすぎて困憊の色に染まっていたので、有難い判断だった。その休憩を利用して、オレはこれからの事を話し合おうかと思った。少なくとも明日にはセムヘノに到着し、任を解かれて再び自由な行動スケジュールを立てられる。時期的にも丁度良い頃合いだと思った。
そう思って切り出そうとすると、ピオンスコがタイミングよくそんな話題を振ってきた。
「ねえねえ、セムヘノってところについたら、その後はどうするんですか?」
「まずは正式に護衛の任を解いてもらって町で拠点となる宿を探すつもりだ。下手をすると何日間か滞在しないといけないからな」
「なんで?」
そう言えばピオンスコには護衛の為にセムヘノに向かっているとは説明したが、そもそもセムヘノを目指すことになった理由を言っていなかったことを思い出す。
「少し気になる噂話が合ってな、それの発信地がどうやらセムヘノにあるらしいんだ。それを確かめに行く」
「へえ」
「だが主よ。具体的にはどうするつもりなのだ?」
「セムヘノでどのくらい流布している噂話なのかはまだ分からないからな。取りあえずは『煮えたぎる歌』の支部に出向いて情報収集しようかとは思っている。オレの名前を出せば面白がっていろいろと教えてくれるだろうしな」
すると、アーコが何とも意味深な事を言ってきた。
「なあ。セムヘノに着いたらよ、オレは少し別行動してもいいか?」
「え?」
オレがそんな声を出すと、アーコは悪戯な顔をしながら返してくる。
「心配するんなよ。今更逃げ出したりはしないって」
「いや、そんな事は心配してないが・・・ま、好きにしてくれ。どの道、皆には悪いがギルドへの情報収集はオレ一人で行こうと思っていたしな」
「それが良かろう。『煮えたぎる歌』は魔族への差別が残っているギルドだからな」
多少乱暴だがセムヘノについてからの行動予定を決めると、オレはもう一つはっきりさせておきたい事を思い出す。
「ピオンスコ、そう言えばお前の言っていたもう一人の魔族がいるかも知れない場所というのはどこなんだ?」
「あ。ええとね・・・「ダブデチカ」って町らしいんだけど・・・」
「! ダブデチカか」
「知ってるの?」
「ああ。『囲む大地の者』には半ば常識的な町だからな」
『囲む大地』と『螺旋の大地』の間を隔てている「輪の湖」には五つの港町が大体等間隔に五つほど点在している。ダブデチカはこの世界を代表する五大湖港の内の一つだ。『螺旋の大地』に向かうには、どこかしらの港町から船で渡るしか方法がない。そして、何の因果かダブデチカはかつてのパーティが『螺旋の大地』に出向く際に立ち寄った港町だった。
いずれにしても都合がいい。
セムヘノでの情報収集が終われば、魔王の元に向かう算段だったのだ。ダブデチカは最寄りの港町になるし、ピオンスコの事がなくとも次の目的地になる場所だ。
噂の真相の確認とトスクルというラスキャブ達の仲間の魔族の探索。
どちらも明確に決着の付けられる時間が算出しにくいところが怖いが、手掛かりが全くないわけでもないので少しは心が楽だった。
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