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学蘭の魔法使いとスーツの魔王  作者: 砂糖 紅茶
池袋編
2/20

1-1 半異世界の池袋駅

 ①

 片手剣の平面に両足を着け、少年が宙を滑るように飛ぶ。建物二階分ほどの高さから、危険の矛先が自分へ向くのか他人へ向くのか、宙から見渡しながら備えている。

 その場所が池袋駅前だと理解するのは、今は少し難しい。

 

 池袋駅周辺の灰色は緑色の支配下にある。

 五歩も歩けば木にぶつかるほどに点在する古木。木の一つ一つがふんだんに栄養を吸い取って育ったかのように逞しい体躯を持ち、樹齢は三桁に近い年数を掛けている様に見える。表面に僅かに苔を塗り、巨体の脚をコンクリートに堂々と乗せ上げている。

 地面もまた近代的な姿を隠され、土や苔、雑草や木の根に侵食される足場は容易につまづいてしまえるほどに悪い。

 森林世界の口内へ放り込まれているような池袋の木の葉を、溢れんばかりの悲鳴がガサガサと揺らしていた。


 原因は葉の中に在った。

 葉の暗がりの中で、赤い円らな光りが多く点滅し、忙しなく動き回っている。

 それは魔物の眼玉だった。

 奴らは狙いを定めると、黒から毛先に掛けて赤くグラデーションしていく身体を現わし、人々を嘴で啄もうとする。

 体長1メートル半。禍々しくも綺麗な黒と赤の身体と、鋭く曲線を描く爪。梟型の魔物。その魔物をイケミミズクと、少年は名付けた。


 足場も悪い。飛び交う魔物。錯乱交差する人々の渋滞模様。

 ────地道に走って回っていてはストレスが過多だ。そう判断を経て、少年は魔法を使って宙を滑り飛んでいた。

 その表情は必死そのものだったのだが、顔中を覆い隠す包帯によって見えない。包帯の隙間から僅かに覗く、元々備わった腫れぼったく眠そうな瞳に、余裕は感じられない。

 その瞳を阻むように、大きい星のマークが入ったパーカーのフードを深々と被っている。生地の至るところにはスタッズが施され、POPとPUNKが合わさったスタイル。下半身は学生服のズボンであることから、若者であることが伺える。

 変質者にも見える少年は、周囲に警戒を配っていた。

 ────命の危機に瀕している人はいないか。

 ────魔物は僕へ向かって来ていないか。

 刹那で状況判断を強いられている彼の横で並浮遊する、小さく丸い獏のような生物がいる。三日月型の乗り物へ、丸いお腹を引っかけるようにして搭乗し、飛行に至っている。

 身体は全身黒い様子だが、土星のデザインの入った白いパンツというか、オムツらしきものを履いていて、その生地割合が全身の四割ほどに至っている為、ぱっと見た感じでは身体が白と黒に分かれたようにも見える。

 円らな瞳が愛くるしく、忙しくパタパタと耳を動かし、少し伸びた鼻先で「あっち」とか「こっち」とか意図を示したりするような、地獄と化した池袋には、似つかわしくない程の愛くるしさを放っている。獏のような生物の目には、包帯姿の装いが滑稽に映った様子だった。

 

「ソラ様ぁ。それ暑苦しくないですかぁ?」

「暑いけど苦しくはないかな。鼻と口に隙間空けてあるからね」

「包帯に隠されても必死な表情であることは容易にわかりますねぇ」


 ソラと呼ばれた少年は、包帯の隙間から覗く瞳を怪訝に細め、やや呆れ気味に獏らしき生物へと向ける。対する獏はお腹で三日月にぶら下がりながら、前脚を叩いて厭らしく笑っている。


夢夢ムムは……僕が必死だと少し楽しそうだよね」

「えぇ!! どうやらバクは、ソラ様の軽度な不幸が大好物なようです!」

「嫌な宣言だし無駄に力強いな!」

「……そんなに正体を隠したいですかぁ?」

「──魔法を使える人間が存在する、なんて知れたら大変なことになるよ……好きに炎が出せるんだから僕は永久資源として発電所送りとか……好きなタイミングで武器が出せるんだから軍事利用とか……まぁ安易に人体実験とかに回されるかもしれない」


 言葉の意味は夢夢という獏には、しっかりとは伝わっていない。それでもソラが発した不吉な単語から包帯の重要性を理解しつつも、三日月の上で仰向けになって爆笑を繰り広げた。


「っはー! 超面白ぇですなぁ!」

「ウケるところじゃない!」

「面白いってウケるって言うですかぁ? はーソラ様超ウケますねぇ」

「あらやだこの子、学習能力高い!」


 夢夢は仰向けの体勢を再びうつ伏せに直すと、「良い方法があります」と言って、得意気に前脚を高く突き出す。


「いっそ“魔法なんか誰でも使える”ことを公言してやればいいのではぁ?」

「…………幻聴、幻覚症状で精神崩壊しそうになりますし、死にそうな目にも遭いますけど、よければどうぞって?」


 ふぁい、と夢夢は気だるそうに肯定する。


「魔法などの能力を身に着ける方法は、口頭で説明出来るんだってことを知れば、ソラ様が正体を隠す必要がなくなるじゃありませんかぁ。稀少な存在だからこそ狙われるわけですよねぇ?」


 ソラは不十分そうに頷いた。


「ごもっともだね……けど、そんな危険な目に遭ってでも能力を得ようと思う人に、良い人ばかりとは思えないかな……」

「あぁ、実際に一人居ますね」

「うん、魔王のようにね」


 会話を行いながらも周囲に警戒を配りながら飛ぶソラと夢夢の元へ、葉を突き破り複数のイケミミズクが飛び出した。応戦しようとソラは、剣の上でバランスを取りながら両手をぴんと真横へ伸ばし、手先を広げる。

 手先から少し離れた空間に、白と紫に発光する六芒星魔法陣が出現する。左右の魔法陣の中心から鈍く光る銀色の刀身が現れると、黒い握りと、刀身の同色の柄頭まで、全ての姿を現した。


 現れた二本の片手剣には見えない神経でも繋がっているかのように、ソラは柄を握り取ることなく遠隔操作を始め、身に届きかけた魔物の嘴を、剣で弾かせ防御へと転じた。


「ぉお、自分に自信があることなんか一つもないとか言ってた割に、器用じゃないですかぁ」

「夢夢! ごめん! 話すのが少し難しい! シューティンゲーム三つ同時にやってる気分なんだ!」


 次々と葉の中から黒い身体が飛び出し、ソラへ向かって滑空突進を繰り出す。魔物の嘴や爪が、ソラの片手剣とが合わさり固い音が、カキンカキンと鳴る。今のところは防戦一方。


「ねぇねぇねぇねぇソラ様ソラ様ぁ!」

「話聞いてた!?」

「剣を操るイメージは腕ですか!? 指ですか!?」

「辞めてホントに辞めて!!」

「いや、結局は全部脳ってことになるんですかねぇえ!?」

「人が最も混乱するであろう発言を思いつく速度が尋常じゃねぇ!!」

「きゃーっきゃっきゃっきゃ!」


 ────この魔物達を倒しきれば、少しは自分の胸に自信というものは宿るのだろうか。少年の心はそればかりだった。

 見えない神経に集中を寄せる。

 攻撃用に出現させた二つの剣を近距離に浮かせたまま上空で停止し、イケミミズクが飛び込んで来るのを待つ。次々と飛び込んで来るイケミミズクの嘴を一本の剣で弾き返し、もう一方の剣で斬り付けて処理していく。剣のグリップを握らずにカウンターを取る。取った先から自身が乗る足元の剣をズラし、次に突っ込んでくる魔物に備える。

 剣が魔物の黒い身体から引き抜かれた時、魔物は絶命の証に黒い塵のようなものへ変わり、風へ溶けていく。

 一〇回ほど繰り返した頃、周囲の葉の中には赤い点が見られなくなっていた。


「ぉお。ソラ様っ、お見事じゃないですかぁ」

「ヒット判定がミリ単位のシューティングゲームより遥かにマシだよ」

「知らねぇ言語が沢山ですなぁ」

「視点を上空に置くんだ。コントローラーを握ったもう一人の自分が上から見てるつもりで、剣に乗る僕を一機の機体として扱う。

 防御と回避を行った直後に、剣を飛ばして攻撃し、その行動と同時に適当な位置にズレる。その繰り返し。

 言葉にすると難しいように聞こえるけど、シューティンゲーム慣れしてる人は自然と身に染み付いてる感覚だよ」


 その説明もまた、人の世を過ごさない獏にはピンと来ない。理解を示さないまま夢夢は適当に頷いた。


「まぁ、参考になるものがあってよかったですねぇ」

「そうだね。皆無と言える戦闘経験を、魔法とゲーム感覚を掛け合わせて埋めてる感じだね」

「戦っていけそうですかぁ?」


 ソラはどうだろう、と濁して夢夢から視線を反らし、周囲に警戒を向け直した。

 速くなったり、ユラユラしたりと、覚束ないを飛行を繰り広げながら、剣に乗った少年が池袋東口方面で、人々の上を飛び回っていた。



 ②

「──そんなに自分の弱点ばかり見つけてて楽しいですかぁ?」


 周囲に魔物の様子はない。それでも僅か数分で刻み込まれた恐怖感に煽られ、人々の止まない悲鳴の真上で夢夢が聞いた。魔物を倒しても、喜ぶ様子一つ見せないソラを不思議に思ってのことだった。


「自己分析、と言い換えてくれるかな。自分の低スペックさを計算に入れてこそ、見えてくる活路ってもんがあるでしょうよ」

「……本気で言ってるですかぁ?」

「本気だよ!」

「むしろネガティブさを誇れば、右に出るものはなかなかいないんじゃないですか?ぁ」

「誇れる特技が欲しいんだよ! ……ネガティブさを誇るのは、もう卒業したんだ」

「……え。そんな時期もあったのですかぁ?」

「……あったよ。巷ではメンヘラ病という病の一種とされているよ」

「ぶふぉっ!! ソラ様精神疾患者だったんですかぁ!」

「嬉しそうに不謹慎なことを言うんじゃないよ」


 ────僕には、自慢できるものが一つとしてない。

 ────僕という人間のスペックは普通を下回る。ネガティブ何かじゃない。思い込みでも自己評価が低いわけでもない。間違いなく、自分は評価にすら値しない。


 そんな風に自分を捉えているソラがアニメやゲーム、漫画やノベルなどに没頭したのは、ある意味では敷かれたレールをひた走ったと言える。現実逃避という名の、美味しい匂いが漂うレール。

 そのレール上に、魔法に対する憧れ、魔法が存在する異世界という場所に対する憧れが存在したのも、また自然なことだった。そのような人間は少なくはない。

 その中の誰もが────魔法や異世界などは存在しない、と心得ている。

 魔法なんて、在る筈がない。それが正常な捉え方。

 

 この高校生、星都ほしみやソラは心得ることが出来なかった。この二〇一八年の現代で魔法を使いたいと、心から思ってしまった。魔法など存在しないという、持っていないほうがおかしい概念。その普遍的定説を否定して、ソラは暫くの時間を過ごした。

 ────この現代で魔法が使えたら、きっと僕の誇りになる。

 そう思って魔法の入手を目指したのが数年前のことだった。


 しかし、魔法を手にした現在も、ソラの胸に自信が宿ることはなかった。魔法を使えるからといって、いきなり喧嘩が強くなるわけでもない。手にした魔法は制限ルール付き。全てを破壊し尽くすような威力もない。大好きな紅茶に、魔法陣から氷を出して、ぽとんっと入れることはできる。

 魔法と呼ぶには、あまりにも万能ではない。だからこそ相も変わらず、自分に自信などというものは湧かない。


 自己否定の様子は現存であり、葉を突き破った魔物の一〇匹ほどを討伐したところで、自信などはソラに宿らなかった。

 

「他者に羨ましがられてこそ、自慢は成り立つと思うんだよ」

「魔法を使えるなんて誰でも羨ましがるんじゃありませんかぁ?」

「言えれば、ね」

「あぁさっき言ってた通り他言無用なんでしたっけ」

「それと、もう一つは、誰でも手に出来るものを持ってても、自慢にならないと思うんだ」

「まぁ確かに、苦労さえすれば、誰でも使えますからね。魔法なんてものは」


 話ながらも、イケミミズクに追われ走る中年男性がソラの目に入る。すぐさま剣を飛ばし、魔物を黒い塵へ変えると、事なきを得た中年男性は一度ソラと目を合わせ、引き続き怯えた素振りで走り去って行った。

 夢夢は「ソラ様のほうがよっぽど悪者らしいですね」と、ソラの包帯で覆われた容姿を茶化した。


「ま、まぁいいんだ……あはは……僕は別に正義の味方じゃないしね」

「でもソラ様に救われた人の中で、そう思う人も居ると思いますよぉ」

「立場の話じゃなくて精神の話だよ。僕は別に、人助けそのものが目的で異世界化するって分かった池袋に来たわけじゃないからさ……」と、ソラは包帯の下にある、大きく垂れさがった目を細め、どこか自傷的に言った。


「優しい少年くらいには映っても良さそうですけどねぇ」

「優しさって衝動的なことを言うんだと思う。僕は明確な下心があるわけだし」

「あぁ。自信を得たいんでしたっけ? 魔法を手に入れる前は、魔法があれば自分に自信が持てると思ってたら違ったとか、出会った時に言ってましたよね」


 ソラは寂しそうに頷く。


「将来の夢っていうのを叶えたら、自分に自信が持てる、だなんて考えていた自分は、何と初心だったんだろうと思い知ったよ」

「長い道のりだったでしょうに」

「誰でも使えるものを手にして、誰にも言えない現状。流石に誇れないよ」

「ソラ様…………………………………………超ウケる」

「空気読め!!」


 言い合っていると。

 視界の端で、一匹のイケミミズクが避難する男の子の身体を爪で掴んで攫った。追いかければ、其処はサンシャイニー通りの入り口で、イケミミズクは通りの中へと真っ直ぐ飛び込んで行く。


 サンシャイニー通りは、軒並み並ぶビルが、雲を挟む景色が見慣れた景色であり、最近ではサブカルチャーを推しだした店が多く点在し、賑わいを見せる場だった。

 

 しかし、現在。池袋のメッカは、雲を失っている。


 ビルの身長を追い越した大木の数々の、その枝と枝とが手を結び、そこにはアーチ状の屋根が完成していた。昼間の光りは僅かに零れるばかり。逃げ出した人々によって倒された看板の数々が草木に寝転ぶ。上部で飛び交う魔物。屋根が作り出す、暗がりは不気味さを放つ。

 其処はもう街ではなく、ダンジョン。


 避難の為、逃げ惑う人々の上を、男の子を掴んだイケミミズクは飛んで行き、ソラもその後を追う。掴んだ男の子を傷つけないようにとビビりながらも、食い止めようと放った剣は羽先を掠めた。

 外した。そう思ったソラだったが、イケミミズクにバランスを崩させていたらしい。空いた地面に一度着地したところへ、すかさずソラはもう一本剣を放って魔物を貫いた。魔物は黒い塵へ変わり、男の子は地上で解放された。

 

 男の子は、空中に浮くソラに向かって感謝の旨を叫んだが、ソラが彼に近寄ることはなかった。


「──よし、行こう夢夢」

「いいんですかぁ? ありがとうございますーって叫んでますけど」

「…………うん。爪に掴まれてて気付かなかったけど、あの制服、僕と同じ高校だ。顔に見覚えはないけど、向こうは僕に見覚えがあるかもしれない。僕の正体が割れる危険がある」


 夢夢は成程と相槌ながら、普段と違うソラの様子に今になって気づきを見せる。


「あれ? そういえば上着はどうしたんですかぁ?」

「学ランのこと? 駅のコインロッカーだよ。学ランから高校が特定出来たら身元特定に繋がっちゃうと思って」


 夢夢は再び厭らしく目を細め、片口端を釣り上げる。


「ソラ様ぁ、抜け目ないですねぇ。犯罪者に向いてるんじゃないですかぁ?」

「失礼が止まらない奴だな」

「しかし、有難うの一言くらい、バクは感謝を受けたいもんですなぁ」

「えーいやいや。感謝なんかされたら…………病む」

「救急車ぁあああ!! ここにメンヘラ疾患者が居るぞぉおお!!」

「失礼が湧き出る奴だなぁおい!!」


 ソラは身を翻し、他に危機に瀕している人はいないかと、ダンジョンの奥へと足元の剣先を向け、再び宙を滑り出す。

 人を救おうという、必死な瞳をあちこちへ向けるソラを見て、夢夢は労いを見せる。


「──まぁしかし。逃げずにこんな戦場に来たのは褒めてあげましょぅ」

「はは……ありがとう。でも夢夢と会わなかったとしても、魔王を捕まえようとしてたとは思うんだ」

「おや、それはまた不可解な」

「僕さ────異世界に凄く憧れてたんだ」


 酔狂な、と夢夢は言った。


「うん。今となっては僕も、何て不謹慎な想いを馳せていたんだろうと思ったよ。

 いつか僕にも“お決まり”ってのが来て、原因不明の気絶を経て、気付いたら異世界だったとか。

 それこそ交通事故なんかで死んでしまって、霊魂状態時に女神様と出会って、スキルを割り振られて、別の世界に記憶を持ちこして再誕したりしてさ。現実にあまり未練が無かったんだと思う。

 そんな中、異世界化が起きて、こうして沢山の人が死んだ。前回の異世界化じゃ、何万という人間が死んだ。そして魔王の犯行声明が、全世界で読み上げられた。その内容は全ての人間を殺すと宣言したものだった。

 僕はその時、どう思ったと思う?」


 三日月の上で顎を摩りながら、少し考えて夢夢は「異世界ってやっぱり怖いから無理~とかですかぁ?」と返した。


「……異世界は、また来てくれるんだ、って思ってしまったんだ」

「どうしようもねぇ奴ですなぁ」


ははは、とソラは自分に呆れ笑いを向けた。


「……うん。僕もそう思ったんだ。そんなことを一瞬でも思った自分は、何て糞野郎なんだと思った。そして同時に、端的に善い行いをしなければという焦燥感に駆られたんだ」


 夢夢は冷静に、「まぁ今はそれくらいのほうが頼もしいですけどねぇ」と言った。


「……ありがとう。でも僕の糞野郎っぷりは、実は今も続いてる。

 こうして人を助けることで、誰にも誇れなかった魔法にも、遅れながら価値が出てきてる気がしてきてしまっているんだ……」

「別にいいじゃないですかぁ。誰が損してるわけでもないですし」


 ──いや、とソラの自責に駆られた瞳が遮る。


「一回死んでも良いと本気で思うほど……別の人生をスタートさせたいと思うほど、あの頃の僕には何も楽しいことがなかった。あぁ、死んでるって、こういうことを言うんだなって思ったんだ。

 けれど、こうして異世界化が起きた場所に、足を運んでいる自分には、死ぬかもしれないほど危険な場所に来てるのに、確かな充実感がある。つまり────」


 ソラは一旦言葉を止め、そして自分を責めるように、

「全人類を殺すと言った魔王に────人殺しに、僕だけは救われているんだ」と言った。


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