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学蘭の魔法使いとスーツの魔王  作者: 砂糖 紅茶
池袋編
1/20

prologue

 新宿は眠りにつく。

 大都会新宿。その姿はクリーン化が進む昨今においても、眠らないとの形容に恥じず、絶えず人と近代が大きく出囃子を賑わせている。

 夜間であっても建築物たちがこぞって身体を光らせれば、そこはまるで昼間の装い。自動車や店先から流れ出る音の数々、溢れ返るほどに交差する人間量と、そこから生まれる会話──代表的都会は、二〇一八年においても、中々に瞼を下げない、眠らない。

 その都会を満たしていた音と灯りが消えるという事件が起きた。

 文字通り、一瞬。瞬き一つの間で、新宿は眠った。


 全ての電気系統が停止すると、近代の真上から緑の草原が乗っかった。

 膝丈ほどに生い茂る草の絨毯は、新宿駅を中心に半径1キロ先まで敷かれた。上空に手を掛けるようだったビルディングには青々しい蔦が這いより、新宿ALATAの巨大スクリーンは暗転後、その顔を蔦で隠された。立ち並ぶ店先には大木、大岩が置かれた。

 新宿は緑化したのだった。

 その様子は、幻想世界が現実世界を丁度半分、口に入れているといった様子だったという。

 無音の都会という終末的雰囲気の中、取り残された人間が困惑しているのも束の間、新宿を賑わせていた華やか声は、大量の悲鳴に変わった。

 新宿は、その瞼の下で悪夢を見ることになる。


 半分を幻想的世界に変えた新宿に、空想生物が現れたのだった。突如現れた魔物に、人々は襲われた。生存者の何人かが、その生物を“ゴブリンのようだった”と語っていた。


 日本国における被害状況。

 軽傷者一四〇八名。

 意識不明及び重傷者八六五名。

 死傷者──三五三三名。


 惨劇は地獄絵図と形容され、歴史的扱いとなった。

 この一連の“犯行”を────【異世界化】と呼ぶ。


 犯行日時、二〇一八年、五月十三日、日曜日、午後五時から午後六時まで。推測されている【異世界化】の範囲は、新宿駅を中心として半径1キロメートル圏内。一時間の時間が経った時、幻想的世界と空想的生物は、黒い塵のようなものへ変わり、現実世界を返上した。

 帰って来た現実に残ったのは、灰色を隠すほどの血の赤だったという。三〇〇〇を越える遺体を残し、血の雨が降り注いだ後のような溜まりを残し、現実世界は帰還した。

「皆、ゴブリンに殺された」

 生存者の信じ難い発言を、軽視出来ないほどの惨状だった。


 ────同日、午後六時半。

 全テレビ局が報道を開始した。各局は不自然なほどに足並みを揃えて、状況説明を一時間掛けて行い、共に揃って終了し、再び一斉に同一内容の報道を行った。全てのチャンネルが、全て同じ内容の報道を。その内容は、新宿を幻想的世界へと半分変え、空想生物を放ったとされる“犯人”から届いた書面────犯行声明文だった。


「────傷害、暴行、器物破損、そして殺人。数えればキリがないほどの罪を犯した私は、“犯罪者”にカテゴライズされることと思う。

 しかしながら幻想的世界、空想的生物を作り送り出すことが可能である私には、“容疑者”や“犯罪者”といった呼び名ではなく、【魔王】という総称が相応しいと思い、名乗ることとする。並びに、今回のことが先述のように“犯罪”であるとされると思うのだが、其方も【異世界化】と呼ぶことにしているので、諸君らにも揃えていただけると幸いである。

 では先ず────私が【異世界化】を行った動機に関して述べる。金銭的要求と、名声や地位を獲得する為の行動であることを否定する。テロ行為も同様である。私の目的は、君たち人間全ての死滅である。支配にはない。

 殺したい。全ての人間を殺したい。唯それのみである。

 それ故、今回の【異世界化】は五カ国同時に行い、この文書も現在、五カ国それぞれに対応した言語で送り、現在、同時に読み上げていただいている筈だ。今後もそのように、効率よく進めていきたいと思う。こういった文書を、毎回送りはしない。

 賢い諸君らであれば、そんなことが可能ならば、私という【魔王】と名乗る者は、もしかしたら同じ人類なのではないかと推測の一つとして浮かぶことだろう。

 その通りである。

 私は人間だ。日本という国で暮らし、背広に袖を通し、電車に乗り会社へ通う、社会人である。そうはいっても、私が何処の何者かはわからないだろう。

 正体も不明、【異世界化】の方法も不明、痕跡もない、手がかりも見つけられない。そんな諸君らが起こしやすい行動の一つとして、日本国以外の国々は、日本に向けてミサイル等の兵器攻撃を仕掛け、関係のない日本人諸共、私を殺そうと、日本自体を滅すという手段を取るかもしれない。

 それは────大変お薦めである。 

 私を殺せるかもしれない可能性に加え、私の目的である人類の死滅を手伝っていただけるのだから、大変お薦めである。

 というのも。私は【魔王】などと人類を超越した存在を名乗りつつも、決して万能ではなく、今直ぐに全ての人間を殺すことが可能ではない。その為、数年の月日を掛けて人類抹殺を行う予定である。日本国だけでも滅し、その時間を短縮していただけるとあらば、それは大変に有難い。


 以上のように、私の人類死滅への意思は固く、交渉の余地は決してない。

 必ず、一人残らず、殺す。絶対に殺す。

 かく言う私も人間ではないのか。諸君らから飛び出しそうな疑問であるが、それはその通りだ。

 私は、自分が人間であることに我慢出来ない。故に、全ての人類を殺せる段階に至った後、誰でも良いので二人ほど人間を残したいと思う。その二人を放っておけば死ぬように拘束しながら、私の自殺を見届けていただく。


 本当は一人だけ生き残るつもりだろうという、諸君らが抱えやすい愚考を否定する為である。『本当に自殺したね』といった風に、残った二人に私の決意を分かち合いながら死んでいただきたい。そういった予定である。


 最後に。

 この先、諸君らも黙って殺されはしないことと思う。私を止めようと、捕まえようとするだろう。そしてその努力を、私は決して無駄には思わない。

 だが、諸君らはこの後、私を批判するという、成り行きとして自然な行動を取るだろう。そして私も君たち人類を嫌いである。これはお互いを嫌い合っているということになる。

 痕跡のない犯罪も辿りようがないのだから、私を捕まえることも出来ない。

 そうやって【異世界化】も止められない。


 つまるところ、私には諸君らを殺さない理由はない上に、死の回避は不可能と知るべきだ。

 既に殺されると決まっている諸君らの、その最期の時間を、私を止めることに充てていいのだろうか?

 僅かばかりの、優しい助言を、最後に残しておきたいと思う────」


 ────全てのチャンネルでキャスターは文書を読み上げた。後に、【魔王】は全テレビ局に対し声明を送りつけ、時刻を揃えて文書を読み上げなければ、直ぐに再度【異世界化】を行うと、脅迫していたことが発表された。


 五カ国で描かれた地獄絵図と、全チャンネルが報道を行った異様な光景は、全人類に「これは夢ではないのだ」と思わせるには十分だった。


 ────迅速に、日本を除いた国々は首脳会議を設けた。

 そして魔王の言った通り、日本へ向けて兵器攻撃を行うか否かの会議を行った。

 賛成する国は多くはないが、少なくもない、といった状況で保留のまま少しの時間が過ぎた────。


 ────新宿の異世界化から一週間半後。

 五月二三日、水曜日、正午。

 二度目の異世界化が行われた。日本は一度目に続いて【異世界化】の被害国となり、その都市は池袋が犠牲地となった。


 二度目の【異世界化】が行われた時も、予め被害地を告知されない諸国にとっては軍隊派遣も間に合わず。終了後においても、近代世界を一瞬で幻想世界へ変える、などといった方法に見当がつく筈もなく。

 少しの痕跡も掴めず、人類は沈黙したまま魔王による虐殺を待つばかりと思われていた。


 しかし。

 日本だけは少し違った。


 二度目の【異世界化】の被害状況は、米、中、独、仏、日の五カ国で行われた中で、平均死者数は四〇〇〇近く。

 しかし、日本での死者数は一八二三名。約半分に被害を抑えるという、やや謎の残る結果となった。


【異世界化】圏内では、監視カメラ等の電気系統が停止していた為、謎が生み出された要因の特定は困難だったが、生存者から多数の証言が上がった。


「魔法使いに助けてもらった」

「魔法使いは顔を包帯で覆っていた」

「顔に包帯を巻いた少年らしき者が剣を出現させ、モンスターを倒した」


 日本へミサイル攻撃を行おうと考えていた各国が、噂を聞き「唯一の魔王への対抗手段をも殺してしまう」と判断し、ミサイル攻撃を一時保留。

 こうして。

 日本を始め、世界中で「魔法使い」の存在が噂されるようになったのであった────。

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