男を寝とるなら事前調査をすべし!
浮気されたら普通はどうするっと思って書いて見ました。
視点が途中変わります。
夜勤の仕事が終わるといつものルーティン。正確に言うと、お気に入りの喫茶店でお気に入りの席、いつものカフェオレを注文し、最初のひとくちを飲みこむ。
彼女は「終わった」と思えて落ち着く。
自分で選んだ仕事。やりがいがある。喜ぶことがある。悩むことも多い。一生続けられる仕事。でも、きつい。今、この瞬間が、彼女にとってのリセット。
失敗したことは、繰り返さないように細心の注意をする。
上手くいったことは、知識と感覚を覚えておく。
問題点は、原因を見つけ改善するしていこう。
作業忘れは、こまめなメモ。
よし、大丈夫。彼女は自分に言い聞かせるように、うなずく。リセット時間が終了すると、喫茶店をあとにする。
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今日はこのまま出掛ける。
久しぶりに恋人とのデート。
予定時間より少し、いやかなり早いが恋人の家に行く。いつも部屋を散らかしているので、デートの前に部屋を片付けるのはいつものこと。夜勤明けなのでシャワーも借りたい。
恋人のマンションに着いた。
一応1階で部屋の番号を押す。反応なし。間違いなく寝ている。
バックから合鍵をだし1階のオートロックドアをあける。いつものこと。
管理人に挨拶。いつもの風景。
エレベーターに乗り7階のボタンを押す。エレベーターが7階に着く。
恋人の部屋の前へ行く。手に持った部屋の鍵を鍵穴に差し込む。全ての動作に無駄はなく、一連作業。そこに迷いはない。なぜなら全ていつものこと。動きを止める要素などない。
が、止まった。
玄関を開けるとハイヒールがある。部屋が薄暗いのは普通。
この部屋の借主は男性。女装の趣味について確認したことはない。取り敢えず静かに玄関のドアを締める。玄関入ってすぐがDK、左に洋室がある1DKのマンション一室。薄暗い部屋を電気をつけないで確認する。
テレビの前にあるテーブルの上には缶ビール、ピザの残骸。これはいつものこと。
同じテーブルの上にサラダがある。箸がある。ハイボールの缶がある。これはいつもと違うこと。
彼女の心は穏やかな波のない湖面のように冷静。
バックから携帯電話を出す。写真いや動画の準備をしてスイッチを押し靴を脱いで部屋にやっと踏み入れた。
まず。ハイヒールから流し台、テーブルの上、ソファーの上にある脱ぎ散らかした女物の下着、女物の鞄がテーブルとソファーの間においてあった。
左にある寝室として使っている洋室のドアの前に近付く。静か。部屋の主は起きていないと思われる。部屋のドアを静かに開けて入る。少しだけ彼女の心臓の鼓動が彼女自身にも聞こえる。
寝ている。
男と女が。
大きなタオルケットが二人の上にかかっている。多分裸だと思うが。
女物の下着はソファーの上だったが、服はここにあった。取り敢えずかかっている大きなタオルケットを剥がして、裸であることを動画に撮って、再びタオルケットをかけなおす。
彼女は携帯電話をバックに戻し、今度はボイスレコーダーのスイッチを入れる。準備はできたので、声をかける。
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今私は親友『藤原優』のお気に入りの喫茶店でランチをしている。
「見た目は『ぽわ~ん』としている可愛い小動物系で、『守ってやりたい』て男心をくすぐるタイプに見える。うらやましい。」
私は、三日ぶりにあった親友にそういい放った。うらやましい、男にモテるこの親友が。今日の服装も白がベースの袖無しマキシ丈ワンピースにデニムのボレロに麦わら帽子。対して私はグレーのTシャツにブラックデニムのパンツにカーキのキャップ。女子力の差が半端ない。
「なんで?私、彼氏に今、浮気されたばっかりなんだけど。」
確かに親友は浮気された。たった今。浮気現場でひと悶着後に私に連絡をしてきて今に至るのだ。
「で、傷付いた?」
「勿論、涙でハンカチが水びだし。」
「嘘をつけ。」
親友はモテる。美人ではないが雰囲気が優しく庇護欲をそそるらしい。
だが、実際は違う。逆境に強い、恋愛に対しては淡白。天然なところもあるがしっかり者。将来のこと、仕事、給料、ちゃんと考えている。しかも空手の有段者だ。庇護欲などそそぐ必要はない。
「涙で水びだしは嘘だけど、傷付いたよ。」
拗ねている。可愛い。私はアイスコーヒーを飲みながら目の前の親友を見る。
親友はモテるが身持ちは硬い。小学校から友人の私が言うから間違いない。高校の時に付き合っていた彼氏が初めてできた彼氏で、手を繋ぐ、デートをする、キスをする、で終る。結果彼氏は大学に進学後浮気、そして別れ。
ショックを受けた親友は以来彼氏を作っていなかった。言い寄る男は多かったが浮気男の件から立ち直っていないという体裁で断り続けた。
仕事も始め、付き合いも広がり、合コンなどもあったが誰とも付き合わなかった。
そのうち合コンで知り合った「付き合ってくれなくちゃ泣く」というなんとも女々しいことを宣言した男に一年粘られて、根負けして付き合うことになった。
顔は可愛い系の男だった。予想外だが性格は真面目だった。隠れて遊んでいるかと思ったがそれもなかった。付き合った女の数も年齢から鑑みると少ない。今時古風だが親友は結婚するまで一線を越える気はないと言ったら、あっさり承諾。親友に対してとても誠実だった。
「で、浮気の理由は?」
「昨日合コン。お持ち帰り。」
「合コン?」
「職場の合コン。営業部と総務部で合コンを計画したら、営業部の参加者がひとり不参加になって急遽ヘルプで。ラインで連絡あったから。前にもあるの。だからお付き合いは大事だと思って『いってらっしゃい』ってラインした。」
「で、翌日のデートの約束を忘れて、お持ち帰りね。」
「その時は忘れてなかった。『明日楽しみ』てラインあったもん。」
「じゃあ、女の方が彼狙いで、わざと酔っぱらって、仕組んだ。」
「その通り。」
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眠っていた二人を起こし、そのまま寝室で説明を求めたところ、彼は状況が理解できていなかった。昨日、合コンも終わり、二次会に参加せず帰ろうとする彼に、彼女が話しかけて来たそうだ。私も帰りますと。電車で帰れる時間なので、普通に駅までならと思って話していると、なんと同じ駅、しかも同じマンション。マンションに戻り、彼女は5階、彼は7階なのでエレベーターで別れ部屋に戻る。シャワーを浴び、ジャージに着替えテレビを見ようとするとチャイムが。
インターホンを見ると先ほど別れた彼女がいた。
玄関を開け何か用かと問いかけるとベランダに人影があると言われ、酔っぱらっていたからかもしれないが、なぜか退治できると思い彼女の部屋のベランダに。実際は誰もおらず、ベランダのドアに鍵をかけて帰ろうとすると彼女が怖いといって、一緒にいて欲しいと言う。
それは流石に不味いと思い断ると、今度は彼女が彼の部屋に行くと言い出した。明日は彼女が朝から来るから困ると伝えると、小一時間でいいから、少しだけ落ち着くまで、と言い出した。小一時間おしゃべりでもしたら解放されるし、このままほっといて何かあったら責任を感じると思った彼は、深く考えず彼女を部屋に案内したそうだ。
部屋についたあと、彼は缶ビール、彼女はハイボールを飲んだ。
そして今とのこと。
「缶ビールに盛られた?」
「間違いなく。何故なら気になって訊いたの。ハイボールなんて彼の部屋にない。缶ビールも彼は普段旭だけど今回は希林。そしたらお礼にって彼女が自宅の冷蔵庫から持って来たって。」
彼は説明の間ベットの上で正座。彼女はタオルケットを自分の体に巻いて親友を睨んでいる。
親友は状況を確認後、今度は彼女に向き合って、でなんで裸?と問いかけると彼女は顔を真っ赤にして、ビールを飲んだあと話していたら、そうなったと。
昨日の夜、彼女と別れるって、私と付き合いたいって、だから···。彼女はうつ向いてとうとう肩を震わせ泣き出した。
でも私の親友は強かった。泣くより最後まで説明して。そうなったって何。ビール飲んで、服脱いで、裸になって、何もせずお布団で寝た。何かして寝た。どっち?
彼女はまさかそこまで聞かれると思わなかったらしく、ビックリした顔をして親友を見たそうだ。
「さっきまで、肩震わせてうつ向いて泣いていたのに、実際ビックリして、上を向いた顔は全く涙のあとがない。嘘泣きで涙ひとつ流せないなんて駄目よね。」
「続き続き、早く早く。」
避妊はしていないって言ったそうだ。
さあ、今度は彼氏が真っ青。やった記憶はない。別れるとか付き合うとか言った記憶もない。別れたくない。彼女のことなんてなんとも思っていない。
横にいる彼女はひどいひどいって言って前屈みにかがんでまた泣きだす。初めてだったのにっと言い出す始末。
そこで親友は彼女に言う。
「酔っぱらって覚えていないということは完全に遊びね。私と別れる気はないって言っているから。貴女も初めてを遊びって言われて可哀想だけど勉強だと思って諦めてね。」
そしたら彼女、このまま捨てられるのは嫌って言いだした。そこで親友は彼氏に提案。
「性犯罪を訴える?記憶にないなら彼女が無理やり、ことに及んだかも知れないよ。」
彼女はひどいっと大きな声で叫んで、夕べのことを何も知らないのに。別れたくないからって、どうしてそんなひどいことが言えるのとか何とか他にもいろいろ。
「彼女何かいろいろ言ってたけどそこまで覚えていない。」
「修羅場修羅場。早く早く。」
下手な三文小説より面白いから早く教えなさい。
親友は喉が渇いたからっと言ってティーソーダを注文した。私もついでに同じものを注文した。
彼氏が目を輝かせて、うん、うん、訴える。優ちゃんと別れたくないから訴えるって言い出したらしい。それには彼女もビックリして呆然としていた。
結果、親友はとどめを刺した。
「犯罪現場は現場保管が基本、動かないでね二人共。記憶がないならもしかしてビールに睡眠薬が入っていた可能性もあるし、あ、隣の部屋にあった下着の指紋も調べないとね。鞄の中身もそのままにしないといけないし、あ、動かないでね。警察に電話するから。」
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「彼女逃げた?」
「何もされてません。何もなくただ寝ていました。って言ってあわてて服着て出ていった。」
親友は楽しそうに笑いながらティーソーダを飲みはじめた。彼女に勝ち目はないだろう。なんせこの親友は逆境に強いのである。そして、彼女の兄弟はもっと怖いのである。
実は彼女、物凄い大財閥令嬢。しかし、跡を継ぐのは長男のみと言う家訓にのっとり、手に職をつけるため看護師なる仕事を選んだのである。
そのたくましさは一般人から大財閥へ嫁いだ母から、ボイスレコーダーを準備なるしっかりしたところは大財閥総帥の父から受け継いだもの。変な男に誘拐されないように空手を習い、お金目当ての男に捕まらないように家族のことは一切伏せて生きている。実にしっかり者。
女子しかいない小学校で5年生の時に同じクラスになり喧嘩をした。何回も。でもおかげで気取らない親友になった。私の家に遊びに来ることもあったが、私が親友の家に行ったことはなかった。理由は父親が浮気をして母親が家出したと言っていた。
高校生になって初めてお宅訪問して顎が外れた。門がでかかった。玄関まで何分もかかった。でも浮気の話しと家出の話は真実だった。今は母親は家に戻っているそうだ。
そして親友の兄弟。長男、長女、次男、親友がいて、三男。上の三人が天才だった。世界が違う人種だと本能で悟った。三男は親友と同じ人種。今でもよく三人で飲みに行く。
親友の家の家訓にのっとり、彼氏に三男は紹介済み。三男は『誠実な人』と評価した。次は次男に紹介する予定だったが、今回の件で当分無理だろう。兄弟全員から好評価を得られなければ両親に紹介出来ないそうだ。
兄弟に認められないものは家族になれない。
彼氏は親友の実家のことはまだ知らない。
そして親友の家の家訓には『やられたらやり返せ』もある。
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1週間ほど経って親友のお気に入りの喫茶店に行った。親友の弟つまり三男と待ち合わせのため。私はいつものアイスコーヒーを注文して外の景色が見える席についた。景色を眺めてゆっくりとした時間を過ごしていく。10分程して喫茶店のドアが開く。
「ごめん、なっちゃん待った?」
「いや、今来たところ。」
ちなみになっちゃんとは私『高橋夏希』のニックネームである。
「この前の件でしょう。一番上に確認したよ。」
一番上とは親友の兄、長男のことである。
「うんとね総務部から商品管理倉庫へ異動になったって。」
やはり怖い兄弟である。
裏で動いた。裏で権力を使った。裏で他社に圧力かけた。
私が彼女に会うことはない。でもあえて彼女に言えるとしたら『男を寝とるならせめて相手のことを事前調査すべき』であると。
もしかしたら他の兄弟のことを書くかも知れない。