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ガラスの世界  作者: 旧式突撃歌
1章 おとぎ話はこうやって始まる
23/36

孤高の戦い~繋がる想い~

 砲弾の雨が降り注ぐ。所狭しと降り注ぐ砲弾は、地面を抉り、爆風を巻き起こす。俺は、その只中をジグザグに飛び続ける。


 砲弾は一定の感覚と放物線を描きながら着弾し、リズムを奏でる。そのリズムは、非常に単調だ。狂いもせず、淡々と撃ち続けられる。見た目が派手なだけの花火だ。


 香月はこういう単調な動きに直ぐ飽きる性格をしている。変化は唐突に、突拍子もなく、本人すら気付かない些細な動きの変化すらやってくれる。砲弾を実際に撃ったわけではない。単純に、動きの問題だ。あれに馴れるのは、最高に苦労した。だからかーー


 眠くなるほどに一定のリズムの砲弾を掻い潜る事など単調過ぎて、ダンスのステップを踏み外さないか、心配になるほどだ。そもそも、俺はこんな遊びに付き合ってる場合ではない。


 どうして、こんな馬鹿げた事を平然とやれるのか?余りにもふざけた思考に、怒りしか沸いてこない。だからだろうか?目の前に、怒号を上げる集団が数えるのも面倒なほど迫り、それに対して、拳を握ってから飛び込む。


 正面に並ぶ銀色の群れ。頭部を守護するように兜を被っていて、槍や剣を手に持ち、俺へと振りかざす。ほんの少し、地面を蹴る。振りかざした剣を見ながら、掌底。


 遅れて、銀色の群れが何人か吹き飛ぶ。直ぐ様反転、軸足からの回し蹴り。囲むような銀色の群れが、背後に見える大木にそれぞれ激突。休む間もなく、肘撃ち。


 背後から槍を構えた図体が、地面に沈む。即座に裏拳。兜をぶち抜き、顔が見えるようになったまま、後方へと吹き飛ぶ。即座に掌底。正面に迫る銀色の鎧が、けたたましい音と共に、同じ鎧を着た走ってくる集団へとボーリングの玉のように突っ込み。集団もろとも、視界から失せる。


 ようやく地面に足を下ろし、タバコに火をつけ、紫煙を吐き出す。迫る怒号は勢いを増すかのように、俺へと迫る。地を蹴って紫煙を吸い込む。


 顔面を殴り飛ばす。地面に叩きつけ、兜が粉砕。紫煙を吐き出す。左右からくる剣を前進して避け、空を切った所で、右側を後ろ蹴りで蹴りとばす。瞬時に片方の足で地面を蹴る。バックステップからのストレート。


 銀色の鎧が完全に埋没。地面に沈む様を見ながら、地を蹴る。次の集団は弓を引き絞り放つ。飛来する矢はスローモーションのように飛び、手刀で矢をへし折る。銀色の籠手は相当硬い材質のようだ。跳躍。


 直ぐに次を構えた弓矢の集団は、その体勢のまま地に沈む。その数7。タバコを口から吐き捨て、踏み潰す。再度新しく火を付け、跳躍。悲鳴のような声が木霊する中、拳を振るう。


 蹴り付け、掌底。回し蹴り、跳躍。フック、ストレート、肘撃ち、膝蹴り、裏拳。前進。掌底。


 教えこまれた技術。繰り返し、俺は何度もこれをこなした。動きがスムーズでなければ、スムーズにする方法を体に叩き込む。何がダメか解らなければ、解らない理由を探るよりも、ダメな部分を徹底的に排除した。


 秋月龍人は凡人だ。俺は解っているんだ。ただの、一般的な男性で、天才でも無ければ、超人でもない。故にーー


 迫る軍勢を、教えこまれた技術と会得した只の格闘のみで、ひたすら叩きまくるしか方法がない。剣等どうせ使えない。そんなものは必要ですらない。


 裏拳を放つ。周囲を取り囲む何人かが悶絶するように地に沈む。直ぐに剣を振り抜いた相手の腕を掴む。引き寄せ、そのまま側頭部を肘撃ち。バイザーをつけた銀色の兜が、肘撃ちの衝撃で砕け散る。足を蹴り抜き、地面に叩き伏せ、即座に跳躍。


 遅れて、銃声。殺気が透けて見えるほど強いせいで助かった。当てずっぽうで撃ち鳴らしているのが解るように、見当違いを撃ちまくる。どうやら、俺の動きが見えていないようだ。視線が行ったりきたりしているのがわかり、懐へと飛び込み。掌底を叩き込む。


 タバコに火をつけ、それと同時に吹き飛んだ銃使いは、後方の大木にぶつかり地面に顔面から落下。紫煙を吐き出し、駆ける。俺の姿を捉える度に、敵から悲鳴があがる。もう、何人叩き伏せたか解らない。


 解らないが、俺の目的はこの先にあるはずだ。大丈夫だ。辛うじて誰も殺してないはずだ。目覚めて動き出す前に、事を終わらせないと行けない。こんな馬鹿げた事を止めさせる為にだ。


 だから、地面を蹴りこむ。ひたすら前進。来るものは拳と蹴りで粉砕。爆発が木霊する。魔術仕のようだ。彼女よりも遥かに遅い構えに、即座に飛び込み殴り飛ばす。ただ一人で、最も多いと言われた敵陣を切り崩す。


 後ろは振り向かない。振り向いた所で、誰も立っていないからだ。目の前に来たのは全て叩き伏せる。それだけだ。


「ナンデスカアレ?本当に人間ですか?アタクシはビックリですー」


 背後から追い付いて来たのか、呑気に喋るアリサさんが並行して俺と駆ける。


「軍師が最前線にいることが驚きだぞ?」


「敵の位置を把握しようとしたんですよ~そうしたら、あそこまでの敵の陣営を素手で殴り飛ばすとか、人間じゃないですね。連隊規模の第一波を、えーとーおよそ10分?素手で??異界ってこんな人ばっかりなんですかね?」


「連隊とは何人か知らん。それと、俺は平凡な一般市民だ。出くわしたから眠って貰ってるだけだ」


 俺の声に、声を上げて笑うアリサさん。可笑しい事を言ったのだろうか?


「連隊って言うのは、大体5000人ほどの規模のことですね~まあ、ざっと第一波なので3000人ほどかも知れませんが······それを素手で、しかも殺してないとかーー笑うしかない強さです」


「誰でも出来る事だ。俺はただ、教えられた事をこなしただけだからな」


 そう。俺はただ、救いたいと願った事を実現する方法で、叩き伏せただけだ。ただの努力の結果であり、どうすればいいかを思考し、それをする為の肉体を作り上げ、最適化させた行動をとっただけの事だ。


『天才でも無ければ、超人でもなく、正義執行人にすらなれない。凡人が、努力と時間と、犠牲を払った結果なだけだ。誰がどう見ても、俺はただの凡人だ』


 答えなど解りきっている。凡人は、誰も殺さず、排除する能力は、ただの徒手空拳。


 理想を掲げ、突き進む背中は、理想を願った強さを具現化。平穏と平和を求め、全てを背負う覚悟で戦う事を決めた強さは、俺の非ではないのだ。


「面白い人ですね。アッキーは、道化なんですね~」


 アリサさんの声を聞きながら、新たに迫る軍勢へ真っ向から突っ込む。重厚な盾を前面に、後方からは矢が飛来。横からは人の顔ほどの炎の塊が追従。


 俺へと全ての攻撃が集中し、真っ直ぐ駆ける軌道を加速。飛来する矢を避け、斜めに跳躍。迫る炎の塊が跳躍した場所で爆発。斜めに飛び込んだ先に迫るのは、銀色の騎槍ランス


 跳躍した着地点への突撃を全力で体を反らせ、合わせるように籠手で穂先の軌道を変化。歪な音を奏でながら、俺の体は衝撃を緩和出来ず後方へ背中から落下。


 合わせるように俺へと飛び込むのは、二対の剣を持った剣士。側面からは、炎の塊が再度飛来。咄嗟に横ーー


 転がろうと動いた先には、両手にベレッタのような物を構えた姿を捉え。起き上がろうとして、正面に迫る巨大なハンマーに気付くことすら出来ない。全ての攻撃が一点に集中し、防ぐ事も、避ける事も出来ない。


「単独行動で、勝手に逝くような人はーー」


 そんな声が聞こえ、俺の周囲が光に包まれる。真っ白の、暖かい光だ。周囲を取り囲む全ての攻撃が、光によって弾き飛ばされる。


「あたし達がーー」


 巨大なハンマーを持った巨体が、一瞬で吹き飛ぶ。直後、走り込むのは赤い髪。


「助けるしか無いだろうな」


 閃光が駆ける。本当に一瞬何かが閃き、それだけで巨体の半身が裂ける。鍔を鳴らす音と共に残心。


「ばっかやろうが!!」


 聞き慣れた声が、俺を取りまく。飛び込んだ二対の剣士が、目の前で何かに当たり、表情すら見えずに爆散。


「秋月君!!怪我は!?」


 光が収まり、俺へと駆ける小さな背が泣きそうな表情を見せる。その背後から銃声。


「ーーヒュード!!」


 銃声は、俺達を包み込む巨大な盾が防ぐ。大木が揺れ、黒光りする巨大な大剣が振り抜かれる。銃声を放った兵士事、真後ろにあった大木を両断。


「ワリイな、遅くなっちまーー」


 茂みから突貫するように、騎槍ランスを持った騎士が突撃。ヒュードさんは反応しようとするが、相手のリーチが長すぎる。


「ーーはいはい、皆揃いましたねっ!!と」


 大木の上から、忍者が舞い降りる。突撃を掛けた相手の得物が、腕ごと落下。即座に返しで、ヒュードさんが首を撥ね飛ばす。


 聞きなれた駆動音が響き。空を見上げれば既に射撃の構え。各々が、即座に動きーー


「私を忘れてもらったら困るわ」


 今まさに撃ちこもうとした姿勢で、空き缶を潰したように、圧縮。地面に鮮血を撒き散らせながら落下。


「忘れられたら困るのは、自分わたしもだよ。いやー君は何時でも無茶するなあ」


 おどけた声を出しながら、空中から片桐目掛け飛来した飛翔士を、蹴り飛ばす。飛翔士の頭部が綺麗に砕け飛び。残った胴体を蹴りつけ、後方宙返りで片桐の横に着地。


「龍人さん。単独行動は止めて下さいね?捜しましたよ。捜し過ぎて、私は疲れました」


 空から舞い降りるのは、天使。いや······理想を叶える背中を持った、少女だ。


「······お前ら」


 言葉が出なかった。俺が守ろうとした世界の、欠けてはいけない人達が、ここに揃っている。各々が、俺をただ見つめ、静かにーー


「「一人で行くな」」


 全員がそう言うのだ。そう言って、無事だったことを知ってなのか。ただ、笑う。笑って、俺を見る。


「「このバカ野郎」」


 笑ってしまう。守りたいと願ったコイツらを、戦わせたくないと、死なせたくないと、願った俺をーー


 だから、思うんだ。秋月龍人はーー孤独ではないんだと。そして······こうも思うんだ。


『優しい世界は、俺が思っているより。遥かに近くにあるのかもしれない』


 だから、俺は、立ち上がる。立ち上がって、皆を見てから、反転。


「······皆、頼みがあるんだ。お願いがあるんだ。聞いてもらえないか?」


 剣を手にし、抜刀。抜いた刀身を眺める。人を殺す道具を、殺戮の兵器を俺は握る。


「俺の成し遂げたい事を、皆にーー協力してほしいんだ。俺は、どうしてもやらなくちゃいけないからさ」


 忘れていた。秋月龍人は、強がっていたんだという事を。誰かに癒しを求めることも、誰かに手を差し伸べてもらうことも、誰かにーー【救って欲しい】と願った心も、忘れていたんだ。


 振り返る。背中には、皆がいて、俺はだからこそ······この願いを口にする。


「だから、俺と一緒に来てくれ」


 大きく頷く。全員が頷いて、俺は剣を戻すと、真っ直ぐ走り出す。その背を追うように、各々が駆ける。


『正義の味方は、孤独ではない』


 故にーー俺は、俺の全てを持ってして、俺の理想を叶えるんだ。その背を、守ってもらえるからだ。


 さあ、行こう。駆け出した、新しい世界へ。


『俺のおとぎ話は、ここから始まる』

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