軍師と計画~戦術論と推測と彼の意志~
俺達は最初に入って来た壁の内部にいた。アリサさんが、十中八九海岸から来ると告げたからだ。根拠もあるようで、それに従うように全軍が移動を開始。
隊列を組むように兵士が陣形を整え、空から舞い降りる天使が、天使守護石で作られた壁の一番上に降り立つ。兵士からどよめきの声が響き、エリスは剣を兵士へと向けながら叫ぶ。
「総員聞いて下さい!!敵の軍勢は、我々より遥かに人数が多いです!!圧倒的とも言えます!!」
エリスの叫びに、兵士の一部でどよめきが起こる。エリスはそれを聞きながらも、剣を兵士に向けたまま言葉を繋ぐ。
「ですが!!我々が倒れた後、ここの民を守るべき者は誰もいません!!我々が死力を尽くしーー帰る場所を守らないで、どうする気ですか!!」
兵士は沈黙する。帰る場所。生き残り、元の幸せな時間を過ごす場所。平和で、穏やかな時間。
「戦う術を知らない人々を!!新しい命を!!我々が守らないで、どうすると言うのですか!!聞きなさい!!今も、逃げ惑う音が聞こえてくるじゃないですか!!我々が望む国はーーこんな事を許していいのですか!?」
兵士の一部が、武器を掲げる。それに習うように、全ての兵士が武器を掲げていく。アリサさんも、アクルさんも、ヒュードさんも武器を掲げ、エリスを真っ直ぐに見つめている。
「見なさい!!私は立ち上がります!!あなた方の、全てを預かり!!守り手として!!私はここに立っています!!ドライ国王女としてではなくーー」
俺は剣を引き抜く。静かに、透き通るような刀身を頭上に掲げる。それぞれが、俺に習うように、腕を上げていく。片桐ですら、傘を頭上に掲げているのだ。
「私個人の!!意志を貫く為にです!!我々は······勝利するのです!!」
剣を振り抜く。自らの意志を示す剣が、エリスの真横に下ろされる。翼がはためき、純白の羽が舞い落ちる中、全ての兵士はこう叫ぶ。
「勝利万歳!!」
木霊する声の反響は、士気の高さを物語る。誰一人、負ける事を信じていない。希望を信じる顔つき。それは、昔何処かで見た光景だ。
ああ、そうか。俺は思い出す。これは、おとぎ話の1ページに刻まれた光景だ。希望に溢れた、物語。
「総員!!出撃準備です!!私達の国を!!帰る場所を!!失ってはなりません!!」
木霊する歓声を背に、エリスは海岸を見つめる。表情は見えない。手にした剣が、日の光を反射し、歓声を背に受け続ける。
神々しい姿で立ちすくむその背は、何もかもを背負う覚悟があると、逃げはしないと、その先にーー
『希望がある。そう信じさせる背中に見えるのだ』
「総員聞け!!アリサ副参謀より、お言葉がある!!」
アクルさんの声に全員が振り向く。アリサさんは咳払いをしつつ前に進み出て、マイクメガホンを持ちながら、全員に聞こえるように口を開く。
「帝国の軍勢は、ここから攻めて来るのは間違いないです。そもそも、他国がここを攻める際に、最大の障害はこの壁です。この壁を壊す事が可能な何かを、敵は使ってくるでしょう」
「遠距離は不可能です。ここの壁はそもそも、遠方の攻撃は全く意味を成しません。ご存知の通り、この壁は、天使守護石を敷き詰めたような物です。遠方の攻撃には無敵と言えます。とすれば、狙いはただ一つーー」
アリサさんは一度言葉を切って、大きく息を吸い込み。続きを口にしていく。
「零距離からの、何らかの方法です。相手は飛翔士も使ってきます。ですが、基本的戦術は歩兵の運用です。とすれば、海からの零距離戦法は、まず有り得ません。皆さんご存知の通り、ここの海域は天然の要塞のようなものです。特定ルート以外では、船は確実に渦に巻き込まれ粉砕されてしまいます。地の利を生かした、こちらからの一方的な攻めを、無理に掻い潜るとは思えません」
「敵艦隊の構図を見ても明らかです。損耗が確実にあると考えた場合、こんな大勢で来ることはまず無いでしょう。共倒れの危険もあります。仮にーー飛翔士がこの壁にたどり着いたとしても、飛翔士ではここの壁を壊す事は不可能です。絶対にそれは有り得ません。なので、皆さんにしてほしい事は、凄く簡単なんです」
長い説明で疲れてきたのか、少し息を荒くしながら、アリサさんは頑張って説明を続ける。
「接近する歩兵。並びに、魔術士を必ず仕留めて下さい。他の外敵はとりあえず無視でいいです。特に飛翔士には、魔術が無ければ対抗手段が無いので、歩兵の皆さんは十分注意してください。それから、何らかの装置を使う可能性も視野に入れ、敵進軍ルートのおおよその場所に、ちょっとしたプレゼントを用意してあります。装置を運んでいるようだったら、伝令をお願いします。海の防衛は、念のため人員を増やしてはおきました。後ろは気にしないで、前だけ凌いで下さい」
長い説明を終え、アリサさんはため息を吐き出し、俺達へと向き直る。爽やかな笑顔を見せ、ピースサイン。
「最後のあれは嘘ですね?アリサ、士気の向上はもう済んだのではないですか?」
アクルさんは小声でそう言い、アリサさんは困ったように頬をかきながら口を開く。
「あーお見通しですかー。士気の向上······と言うよりも、物量で相手は押してきます。戦争は、基本的に数の有利は覆りません。数が多いと言うことは、それだけでも、一つの戦術より遥かに重要な部分ですね。相手側からすれば、こちらの数を以下に効率的に減らすかをしなくてはいけません。戦況は、本当に一瞬で様々な観点から変化します」
「例えば、アタクシ達側。この壁を主体として戦います。防備もあれば、高低差もあり、視野も広ければ、後方の憂いが無いので、アタクシ達側はまずここを起点にします。前から迫る群れを、最適化して叩くのが一番手っ取り早いからですね。ただーーここの壁が、あまりにも広大な敷地を埋めているのが、大問題なんです」
アリサさんは、解説するように指で地面に壁を描き、構図を図解で俺達へ示す。
「いいですか?ここの壁の正確な長さは、実はアタクシ達も把握していません。何故かと言いますと、侵入不可区域と呼ばれる魔術結界のようなものが、ここ。山に沿って併設された壁の通路と、反対側の海域へと繋がる通路の二ヶ所。こちらへは、どのような手段を持ってしても渡る事は不可能なんです。なのでーーここに面する区域は、防備は必要ではないのが救いです」
壁の図にバツ印を二ヶ所書き、残りの真横一直線の通路を指差しながら、今度は木を描き出す。バツ印を書いた部分の区域を指で線を引き、この線の内側へは侵入出来ない事を教えてくれる。
「こちらの図を見て頂くとわかると思いますが、書き足した線が、湾曲を描いているのが見てわかりますよね?ここの左右対称の湾曲の、開いた部分。ここが、敵もアタクシ達も、主となる戦場の構図になります。地形を把握出来ていないと思いますので、簡略ですが、木を描いた部分は全体的に森林のような物だと思って下さい」
今度は、湾曲した狭まった中心のような場所を指差し、そこに大きな丸を描く。
「見た感じですが。森林地帯は、左右に広がっているのがわかりますね?敵側もバカの集まりでは無いので、この森林地帯を進軍する可能性は十分に有り得ます。ですが、先ほど言ったように、敵側の最大の問題は、この壁をどうするか?これを解決しなくては、ただ真っ向から兵力をぶつけ合って、互いの損耗と時間を費やす結果が待っています。相手側としては、損耗は避けたいのです。それには幾つか理由があります」
「一つは、敵対国がアタクシ達だけではないこと。同時に二面戦争をしているような状態ですからね、相手側は。これでこちらと時間をかけて、損耗を続けたとして、相手側のメリットはそんなに無いのですよ。それは、二つ目の理由にも繋がります」
そう言って、俺達が真剣に聞いているのを確認すると。アリサさんは、気楽に聞いてくれて大丈夫なんでーと間延びした声を出しながら、説明に戻る。
「二つ目の理由。それは、相手側はこの壁を再利用するつもりだからです。天使守護石は、頻繁に採掘出来るような物ではなく。この壁は、相手側にとっては、貴重な財産にもなります。一部を抉じ開ける。または、損壊させずに、原形を止めたままで、入手する。損壊させた場合、破片となった鉱石を集め、それで新たな武装を作り上げることも可能でしょう。なので、広範囲を壊すのは愚策だと思われます」
「修復作業もかかるうえに、壊した部分はそのままで、もう一つの敵対勢力が制圧しにきた場合。ただでさえ広大な帝国領土を守護する兵士は、実質の数が足りていないはずです。ここを制圧し、奪取された場合。戦力を再度補填し、攻めこむまでには一定の期間が必要です。その間に、奪取した側が同じように壁を修復。武装も整え、資源もある状態の相手に、再度同じ手で攻めこむ場合。同じ手口を防げばいいのですから、奪取した側は、圧倒的有利です。一度見せてしまった手を防ぐ方法は色々ありますしね」
凄く意外だ。アリサさんがここまで考えていることに対して、あのいたずらっ子のような感じからは、想像すらできなかった。アリサさんは丁寧に図を書き、付け足すように理由を書き足していく。
「それから、同じ手口を使わなかった場合。この場合は、奪取した側の話になってしまうので、説明は省きます。三つ目の理由なんですが。それは先ほど言ったように、資源の問題点があります。アタクシ達の場合は、籠城に近い戦法ですよね?内部には食料も、水も、戦場で使うための物資もあります。相手側は、艦隊内部から持ってきた物を使うしかありません。当然ですが、お互いにここまでは、ほぼ対等なのはわかりますね?」
「······人数配分もあるが、補給の方法が互いに無い。ということか?互いに手持ちの資源を使いきったら、補給の手立ては無いからな」
俺の発言にアリサさんは笑って頷く。頷いた後で、=を中心に書き足す。
「その通りですね。ですが、それだと50点です。それだと、資源に関してのみの説明ですね。この状況だと、生産する能力はこちらが上です。生産するための人員も、在庫もあります。しかし、それには時間が必要です。相手側も同じように、再度の補給には時間を有します。これだと対等に聞こえますね?ですが、最も違う有利な点が相手側にあります」
「それはーー戦力の増強です。アタクシ達は、人数で勝ることはありません。じり貧で消耗させられた場合。相手側の補給及び兵士の増員、これが決定的な差です。とは言え、そこまで長期戦をすることは考えられません。先ほども言いましたが、相手側は二面戦争を行っています。いくら領土が広大とは言え、資源も人員も限りがあるからですね」
そこまで聞いて柳田が、おもむろに口を開く。
「なあ?だとすりゃ、オレ達側もあっちと同じように、補給の船舶を使って増強したらいいんじゃねえのか?」
その声に、アリサさんは困ったように頬をかいてから、海を書き足し、大きくバツ印を描く。
「その手段は使えません。何故かと言うと、アタクシ達側は、デメリットしかないからです。いいですか?海上を移動すると言うことは、船舶の航行を、平常通り運航する必要があります。敵対勢力がいる状況で、人員も物資も積んで、出港したとします。さてーー敵対勢力は、これを見過ごしますか?そんなわけないですね。ただでさえ、物資も人員も少ない中、アタクシ達が有利になる状況は見過ごせません。相手側は、戦闘に特化した船舶も有します。相手側が必要な物資及び人員を、こちら側に残して、その船舶へ向かうのは必然ですね」
「だからと言って、それを護衛するだけの船舶と戦力を割いた場合。アタクシ達側は、数の不利を自分達で、更に広げてしまいませんか?そして、下手をすれば、相手側に餌を送るような物になる可能性は大いにあります。拿捕された場合、人員はどうだかわかりませんが······物資は間違いなく敵側に奪われます。それを奪われた状況で、敵側の船舶を破壊する手段が不可能な場合。アタクシ達は、敵側へとプレゼントしちゃったことになるわけです」
「それからーーあまり考えられないのですが、その物資を補給しにきた船舶の人員が、敵側の人員へとなった場合。もしくは、敵側が制圧したのを知らずに内部に招き入れた場合。どうなるかーーは、想像しなくてもわかりますね?アタクシ達は、こう言った観点からも、海上からの物資補給は考えていません」
柳田は説明を聞きながら頷く。アリサさんは、図へと理由を書き足すと、次の説明へと戻る。
「えーと、長くなってしまったのですが。四つ目の理由ですね。これは非常に簡単な理由です。相手側に取って、短期決戦の最大のメリットは、これら今までの問題点を、早期に解決する事が最も重要だからです。今まで説明をしたことを繋げれば自ずとわかりますね?なので、敵側が取る手段で最速で、最も確実な方法はーー」
アリサさんは中心に描いた丸に、再度大きく丸を描く。
「ここ。皆さんも通ってきたはずですね。舗装された街路を、壁を壊す手段と共に、真っ向から物量で押しきる事です。真っ向からは、愚策でも何でもありません。要は、内部へ進行さえすれば、相手側は最大の脅威を無力化しーー制圧するだけの単純作業へ移行するからです」
「アタクシ達は、壁を主体として戦いますが、接敵されないようにしなくてはいけません。かといって、遠方への進軍は撃って下さいと言っているようなものです。何せ、相手側は艦砲射撃も可能です。広い敷地を焼け野原にしたとしても、壁は無傷のままです。遠方の攻撃は、壁には効きません。そうした場合、アタクシ達が進軍すると、兵力を無駄に減らすことになります」
アリサさんは、今度は港を描きそこに丸を書くと、三角を中に描く。
「ここ。オーシャンブルーの港から、敵側への艦砲射撃を行ったとします。さて、これは援護になるかと言われたらそうではないです。艦砲射撃の飛距離や精度は、アタクシ達側は不利なんです。敵側の位置を把握し、味方に損害を出さず、地形の有利を消し飛ばす。主にこの三点が挙げられます。それから、残念ですが······そもそもの弾薬があまり無いのも理由ですね」
「必要であれば、迷わず撃ち込みますが。仮にーー弾薬が枯渇寸前にも関わらず、軍勢に対して先制で撃ち込んだとします。その軍勢の脅威を、何割か凌げたとしましょう。凌いだ後で、アタクシ達では破壊出来ないような、何らかの装置が来たとします。軍勢を伴ってです。この場合、撃ち込んだ弾薬は無駄ではないのですが、最大の脅威を取り除く手段は無くなってしまうんです。それから、この手段が例えばーー」
「二回も三回も来たら?なので、アタクシ達は、止める手立てを小出しにしなくてはいけないのです」
アリサさんは、海岸に来るであろう敵側の艦隊を書き足し。そこに二重丸を描く。
「敵側は、むやみやたらに撃ち込んでも最悪大丈夫です。敵側で必要な事は、壁を突破し、制圧出来るほどの人員を確保して、ここを落城させることが主目的だからです」
「アタクシ達は、敵側を接敵させない。壁を壊されない。人員をなるべく減らさない。有効な手を取っておく。と言う状況なわけです。非常に無茶苦茶な事を、やろうとしているのがわかりますよね?そして、アタクシ達は兵士の人員を確保しながら、それを全て投入する事はできません」
アリサさんは城下町を描き、大きくバツ印を描く。警護の為に、と言っていたのを思いだし、アリサさんは一息つくと、説明へと戻る。
「アタクシ達の後方には、国民がいます。国民を守る人員を割かなければいけません。そして、後方支援の為の物資運搬の人員と、船舶を動かす人員。全体の数が足りない上に、背には守る者があって、海上からの進軍の可能性も少なからず考慮」
「敵側の戦力は、数も多ければ、後方に控えるのは離脱も攻めも可能な兵器。物量の差は歴然ですね。その上、壁の長さがネックになり、重点的に守る箇所へ兵を配置したとした場合。他の部分は手薄になります。手薄になった部分を、敵側が重点的に攻めたら?答えは簡単です。そこに援軍を行かせるしかないんです」
城下町から、壁へ向けて矢印を描き。壁の中心から左右へ矢印を描く。アリサさんは、この図解を見せながら、壁の中心部分を指で叩く。
「手薄な場所が落ちた場合。そこを起点に壁を壊されます。逆に中央の守りが手薄だとすれば、敵側の思惑通りであれば、中央突破は容易です。分散された兵力は、当然のように指揮系統も分散します。分散した指揮系統で、誤った情報を伝達したら?それが、そこを守護する兵士全てに行き渡ってしまったら?あっという間に壊滅です」
「そうした場合、後方の憂いは断ったほうがいいんです。アタクシ達は、正面から来る敵を、明確に叩くべき兵種を限定した上で、むやみやたらに倒さないように仕向ける必要性が重要なんです。アタクシ達が保有する物資は、無限ではありません。もしも、必要な時に枯渇したら?当然のように、アタクシ達の防備はそこで終わりです。敵にこの壁を突破されたら、終わりなんです」
長い説明を終え、アリサさんは、背筋を伸ばす。こんな考えられる人だったとは······正直あまりの意外さに俺はアリサさんを見つめる。
だが、片桐は納得していないような感じで、口を開く。
「待ちなさい。これは、一般的な戦術の論点ね。私達、異界の存在を全く考慮してないわ。これを全て覆す強さを保持していたとしたら、貴女どうするのかしら?」
片桐の問いに、アリサさんがニコリと笑いながら、指を顎に添えて返答。
「その点は問題外ですね。詳しくは、ホムホムから聞いたんですがー何でも、兵種と人数は完全に別れているみたいですね?カッキーン?」
カッキーン?ホムホム?一体何を言っているんだ?俺の疑問以前に、片桐は困惑した表情をしている。
「皆さんの名前も知っていますし、兵種もわかっています。何処に何の兵種で、何人いるかもですよ。先ほど言われた通り、この戦術論は、一般的な戦力の話で進んでいます。異界の戦士ーーこの特殊な条件を省いた点は、幾つか理由があります」
ヨイショっと言って、アリサさんは先ほど描いた図解へと座り込み、図解にそれぞれの国を書き足し、線を引いていく。そこに、それぞれの名前を記載······おいなんだ?アッキーって?それぞれの名前が、妙な略称で書かれている。
「まず、アタクシ達の国。アッキーを筆頭に、7名も異界の戦士がいます。帝国は3名、教会様は5名です。この、引いた線を見てください。これは、各国の大まかな領土の境界線です。帝国と教会様は、熾烈な領土の陣取りをしています」
「この陣取りをしている最中で、帝国が、アタクシ達の国を攻めてきます。おおよそですが、3万を超える軍勢です。これだけ大規模な人数を動かすとした場合ーー」
描いた図解へ、矢印を書き足し、相関図を描く。帝国から出立した軍勢が、こちらへ向かい。帝国と教会様と言ったな、それが互いに行き交うように矢印を描く。
「帝国は領土を奪い合う中で、こちらへ来ました。遥か遠方にある、アタクシ達の国へです。もう、言わんとしていることはわかりますね?大規模な軍勢を動かしても、領土を奪い合う構図は変化させるわけには行きません。何せーー」
「異界の戦士の数は、教会様が上だからです。最大戦力を、奪い合う構図の前線に配置したとします。軍勢が幾らいたとしても、異界の戦士の実力は未知数ですね?とすれば、異界の戦士を前線に配置するのが妥当です。各国も人数は把握していると思うので、後はーー戦力の差が如何程あるか。ここに全てが集約します」
奪い合う領土の前線に、三角を描く。アリサさんは俺達を見ながら、図解へと指を置く。
「と言うわけで、ここからはアタクシの一般的戦術から外れた、帝国の目的についての推測です。はっきり言います。今回の軍勢は、捨て駒です。異界の力を計る為の、ただの実験です。そしてーー異界の戦士の、捕縛及び人数を減らす行為、を目的にしていると思います。最大戦力であるアッキー達を、懐柔及び死亡させる事です」
「副産物として、ここの領土と資源を確保出来ればいいなー程度でしょう。なので、今回の戦は、アッキー達の為に起こされた戦ですね。アタクシからしてみたら、帝国はバカじゃないです。自分の戦力の未知数を見せずに、相手の技量を計るのですからね。それでもーーアタクシ達は、真っ向からそれを迎え撃つ事は、変わらないんです」
相関図を書き足し、理由を書きながら、次に指を置くのは城下町。
「アタクシ達は、後退は出来ません。国民がいるからです。そして、異界の戦士を、前線に出さないわけがないのです。物量で負けていますからね。ただ、これだと条件が非常に限定されています。そもそも国自体を、アッキー達が、関与しない方向で捨てればいいのです。知らぬ存ぜぬで、ここから居なくなれば、帝国の進軍は無意味になります」
「ところがーーアッキーは必ず前線に出ます。これを聞いても尚、必ず前線へ向かいます。それは、非常に卑怯な手段ですが、アッキーは人質を取られたからです。城下町。ここに住まう人々を、アタクシ達兵士をです。これは、アッキーの性格と言うか······性質を理解した上で、仕組まれた必然の結果なんです」
「なので、アタクシから言えるとしたらですね。一蓮托生なんです。アタクシ達が勝利するには、アッキー達の力が必要で、アッキーを守る為には、アタクシ達という後ろ盾が必要なんです。これは、巧妙に仕組まれたーー」
帝国を指差す。アリサさんは、帝国へ大きく丸を描くと、俺を見やる。
「アッキーを戦わせる為の、ただの口実なんです」
ふざけている。ふざけている。ふざけている!!こんな大勢を巻き込んで!!
今から死地へ迎えと言った王女の覚悟が、兵士の真剣な顔つきが、巻き込まれた戦う術が無い人々が!!
気付けば、地面を殴り付けていた。そんな俺を見ながら、アリサさんは、静かにーー
「あくまで推測です。こんなくだらない理由で、本気で攻めて来るとは思えませんが······来る以上は、やるしかないです。アタクシ達に、敗北は許されません。なのでーー」
アリサさんは、ゆっくりと、頭を下げる。唐突過ぎて理解が追い付かない。
「副参謀として、お願いします。この話を聞いた上で、アタクシ達の戦争に力をお貸しください。アタクシ達だけでは、帝国を退ける事は困難です。どうか、お願いします」
アリサさんが、深々と頭を下げる。帝国の計画が嘘か本当かは、推測だ。推測で語ったのが、事実だとして、理解した上で、協力してほしい。そういうことか、俺達が引き金の戦争だとしても選択肢を残してある。
だからーー計画が真偽か、見届けるかどうか。選択をしてほしいと、そういうことか。
「······答えはとっくに決まっているんだ」
俺の声に、アリサさんは顔を上げ、俺は周りに集まっている全員を見渡す。見渡した後で、目を閉じ、空をみあげるようにしてから、アリサさんへ顔を向ける。
「俺は、見届けたいんだ。理想を叶える背中を、俺を信じている人達の行く末を······見届けたいんだ。だから、俺はこれが本当だとしたらーー」
言葉を切ってから、壁を見やる。壁の頂上では、海岸を見つめる背中がそこに佇んだままだ。平穏を願い、笑っていた王女の、理想の顕現の姿を見つめる。
「帝国を許さない」
その声が合図のようだった。壁の頂上に君臨したエリスが動く。剣を海岸へと向けながら、叫ぶ。
「総員!!帝国艦隊が来ます!!出撃用意!!」
立ち上がる。立ち上がって、俺は海岸へと目を向ける。ゆっくりと、一歩を踏み出す。そのあとに続くように、全員が歩き出す。
壁の入り口が開き、兵士が群れを成している。静かに、その時を待つように、兵士は無言だ。上を向き、天使の羽根がはためくのを見る。エリスは、剣を振り抜く。
「総員!!出撃です!!我々に、栄光あれ!!」
怒号が響く。小さな入り口から、一斉に兵士が飛び出していく。アリサさんが先に布陣を考えていたのか、兵士は左右に別れるようだ。壁の上にいる兵士は、既に準備を終えているのが解り、それを見ながら俺は地面を蹴る。
瞬間的に、壁の正面へと体が移動する。一蹴りで入り口を超え、待ち構えるように最前線へ移動完了。
目を閉じ、深呼吸。静かに開く。拳を握り、半歩前にーー刹那。
頭上から降り注ぐ砲弾の雨が音も無く。炸裂した




