誓約を交わして~使えるべき主は王女~
「無事かー龍人ー!!」
柳田のそんな声を聞きながら、俺は片手を上げーー彼女は柳田へと手を振りながら合流する。
にこやかな柳田の顔を見ながら無事を確認して、安堵の息を漏らすと、柳田の後ろから、遅れて愛衣さんが走ってくるのが解る。
「やっくん!無事だったんだね。まーちゃんも!本当によかった」
彼女の声に反応を示すように、柳田と、遅れて合流した愛衣さんが笑顔のまま頷く。いつものメンバーが揃った事に俺は微笑み、互いの無事を確認しながら柳田と愛衣さんを見やる。
二人共やはり服装が若干変わっている。
柳田は、首から下げる小さな三角の形をしたネックレスをしていて、胸元辺りでそれが静かに揺れている。
上半身を覆うように、茶色の革で出来ていると思う鎧を着こんでおり、手には小振りのナイフが握られていて、よく見ると木材で作られているのが解り、ペーパーナイフのような感じだ。
愛衣さんは、肩くらいの長さまでの結婚式で使うようなヴェールを頭につけ、ヴェールの中心には綺麗に細工された銀の花がついている。
左腕には、丸い形で漆黒の小振りな盾がつけられ、中心には赤い十字架のマークが綺麗に描かれている。
右手からは、金色に光る、小さな十字架のネックレスが垂れている。金色の鎖が腕に繋がれているように見えるそれは、愛衣さんの膝上くらいの所をブラブラと動き、日の光を反射しながら揺れ動く。
「おー、龍人は剣士っぽいな。オレのはよくわからないんだよなあー」
「柳田も愛衣さんも、そういう感じ何だな。職業ごとに格好や武器が違うんだと、よく解った」
そんな俺の台詞が可笑しいのか······それぞれが笑う。ゲームしたことないのだから、仕方無いだろう?と言うと、納得したのか、笑いが少しずつ収まる。
和やかな雰囲気の中、俺は他のメンバーはどうしたのか聞こうとして、それよりも先に柳田が手招きをするように後ろへと振り返ると、後方をゆっくりと歩きながら現れた三人へ顔を向ける。
「龍人、無事なようだな」
「ようやく合流したわ。転送先が見当違いだとは思わなかったわよ」
「いやあー、皆無事で何よりだね。開始早々ーーはぐれるとは思わなかったけどね」
砂浜を歩きながら優雅に現れた三人は、俺達を見ながらゆっくりと合流し、俺は三人の無事を確認出来た事に、素直に良かったと思う。
この三人はまず死なないと思っていたが、それでもだ。実際に確認するまでは、何とも言えないだろう。
三人はあまり変わった様子は無いみたいだ。片桐は相変わらず銀色のドレスを着ていて、変化したとすれば、日傘のような黒い傘を持っているくらい。
香月は、外見の変化は何も無い。特に何か持っている様子も無く、こっちへ来る前と差は無いように見える。
鵲さんは外見は特に変化は無いが、手には黒塗りの鞘に包まれた刀を持っている。柄の部分だけ白い刀くらいで、他は特に変化はない。
「こっちは変化があるのに、そっちは何も無いんだな。職業ごとの格好の違いは······無いような物なのか?」
「ちゃんとあるわ。安心しなさい、秋月。それよりも·····秋月達が、本来転送されるべき場所ではない所へ来てしまったのだから、元々の予定ポイントへ移動しなくてはいけないのよ」
片桐は金色の髪をーー手で流しながらそう言い。俺と彼女は、互いに顔を見合せながら首を傾げると、柳田が口を開く。
「龍人達だけ、変な場所に落ちちゃった·······みたいな感じだ。だからーオレ達は迎えに来たんだ。いやあーー捜したぜ」
「あっちで、凄い炎が上がったから、急いで来たんだよ?二人ともケガとか無いみたいで······良かったーて思ってたの!」
柳田と愛衣さんがそう言い、俺は蟹と戦った事を思い出す。他人から見て外傷が見当たらないということは、怪我が治っている?ということか?
あれだけ殴られて、外傷の一つも無い。
どういうことだ?体に痛みは確かに無いのだが、ゲームというのはーー外傷すら即座に治癒するような機能もあるのだろうか?しかも、何か特別な事をした記憶がない。
いや、あるとすれば、剣から発生したあの光の柱のような物くらいだ。
あれに治癒能力のような物があると言うのだろうか?あれだけの威力に治癒能力も兼ね備えている?いや、そんな無茶苦茶な能力があるとは思えない。
思えないが、仮にそうだとしたら、この剣はたった一本で本当にーー何かを変えれる力が、あるのかもしれない。
「たーくん?大丈夫?」
肩を叩かれてようやく気付いた。思考に耽っていたせいか、自然と顎に手を当てながら考えていたようだ。俺はその問いに頷き、全員の話へと思考を切り替える。
「とりあえず、ここから少し行った所に······目的の場所があるわ。そこまで行きましょうか」
片桐のその声に従い、全員で揃って砂浜を歩き出す。
先頭は片桐が歩き、日傘を開いてさっさと歩いて行くので、俺達は遅れないように後に続く。
砂浜から少し北へと進路を変えると、鬱蒼と生い茂る木々と植物が出迎え、そこに出来てある、街道のような道を真っ直ぐ進む。
レンガだろうか?歩くように作られた少し広めの道には、足の踏み場としてだと思うが、所々に赤茶色の石が地面を彩っていて、そこを楽しそうに踏みながら歩くのは、愛衣さんだ。
呑気な雰囲気。知らない場所に、ピクニックでも来たような感覚だな。周囲を包む用にして生い茂る木々のせいもあるだろう。
常夏の地域に生えているような木々のせいか、真新しく見える木々を眺め、そこを彩るように緑の植物が縦横無尽に生えている。
綺麗な花を咲かせているのもあれば、誰かが手入れしているのか······同じ花を咲かせた植物が、小綺麗に纏まっていて、道を歩く人への気遣いも見える感じだな。
どれくらい歩いたのか。お互いに好きなように後を追従しながら、大きく開けた場所に出てくる。そこに広がる光景に、俺は思わず溜め息が漏れてしまう。
白い鳩がーー群れをなして宙を舞う。
巨大な外観を見上げようとして、気付けば空まで視線が動いていたせいだと気付く。そこには、内部が窺えないほどの巨大な壁が横に走っている。
「凄い······万里の長城みたい」
彼女のそんな声に俺は頷き返す事すら出来ない。恐ろしい長さと高さを誇る壁を見上げながら、自然とタバコに火をつける。
余りの衝撃に、俺はどうしていいか解らなくなったのかもしれない。こんな建築物を間近に見たことはなく、一体どういう構造をしているのか?検討がつかない。
見た感じはーー石で出来ているように見えるが、光沢を放つそれは、今まで歩いて来たような穏やかな雰囲気を、一変させるには十分過ぎた。この自然が溢れた光景には·······ミスマッチもいいところだ。
一体、これは何なんだ?
「何時までそうやっている気かしら?中へ入るわよ。あら······お早いご到着が、迎えてくれるみたいね」
片桐のその声が聞こえた瞬間、巨大な壁に人が通れるほどの空間が出来上がる。何がどうなっているのか全く解らない状況下で、その空間から人がーー雪崩れのように押し寄せてくる。
あっという間に、俺達は入り口と思える場所から、走り込んで来た集団に······扇状に囲まれてしまう。数が桁外れだ。
全員が手に槍やら剣やらを持ち、鎧を着込み、盾を持っているものさえいる中、こっちへと先端を向けながら一定の距離を保つように展開。
上を見やれば、頭上からは何時でも放てるように、弓を構えた格好のまま、横一直線にずらりと並ぶ。初手から絶望的な布陣。
「なんだこれは?どうなーー」
「総員待機!!」
号令のような、響き渡る声が響く。即座に武器を持った集団は、手にした武器を真横に、一斉に下ろす。
「総員隊列編成!!我等が主!!王女エリスベリト·ドライの拝聴である!!総員敬礼!!」
入り口が一斉に開く。怒涛の勢いでーー武器を持った人波が左右に別れ、それぞれが武器を胸の中心へともっていき、頭上高々と真っ直ぐ持ち上げる。
頭上を支配していた弓の集団もーー同じように胸へとおしあて、規律正しく立っている。
唖然とするしかない俺は、フィルター付近まで来ていた火に気付かず、指が軽く焼ける感じを受けて······タバコを地面に落とし、踏み潰す。
「総員!!我等が主!!エリスベリト·ドライの拝聴の場である!!敵勢勢力が現れた場合!!身を呈してーー潔く神に召されると覚悟せよ!!総員敬礼!!」
「「勝利万歳!!」」
雄叫びのような声は、地鳴りを響かせるように木霊し、凄まじい迫力に圧倒されてしまう中。優雅に一人の女性が······歩いてくる。
付き従うように、両脇には二人の男性が共に歩き。女性の歩みが、一定の距離を保った状態で止まり、一斉に武器を持った全員がーー俺達へと一足で向き直る。
「ようこそ、お出でくださいました。異界の戦士の皆さん。手荒な歓迎をしてしまいました事を、ドライ南国統一国王女のーーエリスベリト·ドライの名において、謝罪させてください」
純白のドレスに身を包み、両手でスカートの裾を、軽く持ち上げ。凄く綺麗な瑠璃色をしたーー肩先にかかるかどうかのウェーブした髪が、ゆっくりと頭を下げたと同時に······緩やかに舞うように動く。
よく見ると、ドレスの脇には様々な宝石が散りばめられた豪華な鞘が見え、王女が剣を持つという構図に違和感を軽く覚えながら、一斉に動いた周囲の人々の光景に、唖然とさせられる。
付き従う二人の男は肩膝をつき、深々と頭を下げ。
武器を構えた全ての人達も同じようにーー深々と頭を下げたのだ。どうなっているんだ?理解が追いつかない。
「このような事をしたのは、我々の国が今現在、未曾有の危機に瀕しているからなのです。我々の国を守る策として書物を読み漁り······打開策としての方法で、異界の戦士を呼び寄せるーーという手段を使ったのはいいのですが。どうやらこちらの、精神循環が許容範囲を超えたようで、あなたがたを召喚する際に······不手際が発生してしまった。ようなのです。異界の戦士がどういう存在であるか?明記されていませんし、最初見たときは本当に驚きました。同じ人であるとわかって·······ホッとしたのもあるのですが、同時にこうも思ったのです」
内情を告げる王女は一度言葉を切り、選ぶように言葉を続ける。
「呼び出した事は間違いないとして、もしかしたら······敵対勢力の可能性も、捨てきれないと思いました。ですが、呼び出した際に揃っていた皆さんとお話をし、呼び出した人達は、そうではないという理解を得られたのです。他に呼び出した人を迎えに行くといいーー出ていく皆さんを見ながら、思いました。私は、信じたい気持ちと万が一ですけど、全てが虚実である可能性もある。と思いました。私は、自国の民と、奮闘する兵士の命を預かる身でもあるのです。そこで、私の独断でこのような出迎えをしてしまいました。私の独断で、あなたがたへ牙を向いたのです。報復は受けるつもりです」
そう言って、頭を下げたまま自らの剣を器用に抜刀。綺麗な銀色の刀身が日の光を反射し、王女に不釣り合いなその剣を持ちながら、王女は言葉を繋ぐ。
「私の首を差し出せと言えば、潔くこの場で差し出します。躊躇いもありません。抵抗する気もありません。ただ、どうかーー私が好きなこの国の民と兵士を、お救いください。私達があなたがたを、勝手に呼び出したのも承知の上で······です。私はーー喜んで贄になります」
何を言っているんだと思う。最初、言葉を理解出来なかった。
説明されたことに対しては、理屈も理由も解った。その上で、俺にはそんな超人的な能力は······無いことも自分で解ってる。
いくらこの剣が、強力な能力を秘めているとはいえ、王女の望むーー国民も兵士も守って欲しいと言う願いを、成立させてあげる方法が無いのだ。
だと言うのに、この王女は、それにすがった上でーー
「私はーーこの国が大好きなんです。掛け値無しに。私に、不利益が被るだけならーー私は喜んで受けます。でも、私にはもう······他に方法がないんです。私の好きな国はーーこのままでは蹂躙される。だけなんです」
全ての責を自身で背負い、可能性が何%かある未来を······掴もうとしているのだ。
俺達は、三国を統一する目的を課せられたゲームをしている。
もしくは、他人全てを、例え身内だろうとーーその全てを食い付くし、破壊し。
世界で一人になるまで······殺し合うかの、選択しか残されていない。そうだーー俺達はゲームをやっているんだぞ?
「勝手に呼び出し、あなたがたの生活を壊してしまった上に······こんな勝手を言ってしまって、何と言えばいいのかわからないのです。ただ、それでも······」
これはゲームなんだ。
俺達も、目の前にいる王女も、演算の塊で構築されたーーただの動きまわる数値なんだ。
だと言うのに、この感情はなんだ?俺はこういう覚悟をした······人間を知っているのだ。
ゲーム?これが、ゲーム?どれ程この覚悟が本物か、痛いほど解る······ゲーム等存在するのか?
「私が、出来ること全てを持ってーーしてあげたいだけーーなんです」
一歩、たった一歩踏み出しただけで、俺の世界はきっと変わるかもしれない。変わらないかもしれない。
それでも、俺はこの一歩を踏み出す事が間違っているとは思えない。王女が、顔を上げる。
とても綺麗な顔をしている。
彼女のように、普通に街を歩いていたら、スカウトを受けるかもしれないほどのーー綺麗な顔を俺へと向ける。
全体のパーツが整っていて、意志の強さが窺えるように、金色の瞳が俺を見据える。
背丈は鵲さんくらいだ。俺より顔一つほど小さい。
微笑んで、安堵したのかそれとも諦めたのか?目を静かに閉じ、その時を待つように······ゆったりと佇む。
華奢な体型だと思う。肩幅とか、細身の体躯が一歩一歩近付く度に、ちゃんと見える。ドレスのせいで大きく見えるから、この体躯を見せないようにする······工夫なのかもしれない。
俺は剣を引き抜く。無言で王女に近付く度に、王女はにこやかに笑うのだ。
これでいいとーー
そう言っている表情。
王女が手にした剣が、地面に落ちる。にこやかに笑った表情が、空を見上げるように上を向く。
『だから、俺はーーそんな解りきった回答をした奴に······罰を下すだけなんだ。俺は、正義執行人になるのだから』
剣を振り抜く。静止した時間がしばらく続き、俺は鞘へと剣を戻す。金属音が鳴る小さな音と共に、地面に落下したのは、何も無い。
タバコを取りだし、火を付け静かにタバコを吹かす。
王女がその音に目を開け数度瞬きを繰り返し、俺はそんな王女へ向け、ただこう告げるだけだ。
「いいかよく聞けーーこのバカ王女が。お前が自分勝手に死ぬのは、構わん。俺はそれで······俺の世界が構築されて、壊れなければ文句はない。だが、覚えておくといいさ」
「貴様!!なんだその口の聞き方はーー」
王女が、立ち上がったガタイのいい男を、片手で制す。俺は構わずタバコの紫煙を吐き出し、王女へと顔を向ける。
互いの視線が交差し、タバコを踏み潰しながら俺は剣を抜刀。
「お前が死んだら【お前が救いたいと願った人達が幸せである】とは限らない。そしてーー俺は誓ったんだ。俺の世界を守る為にも、俺は誰も殺さず。誰も死なせないと。だから······お前は生き残れ。俺はくそほど這いつくばってでも、俺の周りは殺させない。俺が死んでもーー動き続けてやるよ。この剣に誓おう、俺はお前を殺さない。死なせない。それだけだ、バカ王女」
刀身を王女へと向けながらーーそんなバカな事を言い放ち、しばらくして王女は笑い出す。腹を抱えて笑うのだ。
いや、不馴れな事をしたと後悔しながら、俺はゆっくりと剣をしまい······タバコに火をつける。しばらく笑う王女は、不意に俺へと手を伸ばす。
「くく······何ですか?それ······プッ、だめ笑いが、く······卑怯ですね。卑怯ですその理想論は、無理難題を真顔で平気で言うなんてーー大バカなんですね?こんな人、始めて見ました。でも、私はそんな大バカをーー嫌いじゃないです。すいませんが·······手を取ってもらえませんか?」
そんなに可笑しい事を言っているのだろうか?何だかよく解らないが、王女の手を素直に握る。
後ろから殺気に似たオーラが放たれるが、無視した。と言うか、怖くて振り向けない。絶対死ぬ。
「ようやく落ちつきました。こんな大バカな人始めてみたので、私の名でーー2つほど誓約をしようと思います。その前に、貴方のお名前を窺ってもいいですか?」
「誓約?どういう内容だ?名前は秋月龍人だが、一体何をする気だ?」
「それは、非常に簡単なものです。秋月龍人ですね。内容を聞いて大丈夫なら、誓約を交わして下さい。第1の誓約は、ドライ国の民や兵士、私を守る為に尽力して欲しいのです。簡単に言えば、龍人さんが言った無理難題の理想論を叶えながら、私達の国のーーお手伝いをして下さい」
その誓約は確かにあれか、俺が公言してしまった手前やらざる終えないか。考える余地は、ほぼ無いだろう。
「解った、やろう」
「はい、では2つ目何ですけど······ちょっとお耳を、拝借しますね?」
なに?おい待て、後ろの殺気が増大しているんだが?
俺を殺すためにーーまさか、わざとやっているんじゃないだろうな?そんな事を思いながら、王女が近づいてくるので仕方無く、耳を傾ける。
「私と、クレープを食べに行きましょう。当然お忍びです。護衛も兼ねてお願いしますね」
「······はぁ!?」
あまりの衝撃に大声を上げてしまう。王女はきょとんとした顔をしながら俺を見やる。
今コイツクレープって言ったぞ!?クレープ!?このゲームにクレープなんかあるのか!!いや待て、落ち着け秋月龍人。俺が食べるんじゃ無い。
そうだ、王女だけが食べるに決まっている。
念のため確認しておこうと思い、王女に手招き。
王女は察しが良いらしく、直ぐに自分の耳をーー俺へと向ける。可愛い耳をしているなと思いながら、当然のように疑問をぶつける。
「クレープはーー王女だけが食べるんだよな?」
「······え!?」
今度は王女が大声を上げる。周囲が不審の視線と表情を見せる中、王女は俺へと近づき······耳元でこう言ってきたのだ。
「何言ってるんですか?カップル用の二人で食べるクレープですよ?それと、私と二人で話をするときはーードライかエリスのどちらかで呼んで下さい。私はもう龍人さんって言っているので、じゃないとーークレープ······もう一個追加しちゃいますね」
意地悪そうに、とても楽しそうに微笑みながらウインクする王女ーーじゃなかった。エリスは、意地悪な女だと、認識を改めたほうが良いようだ。
クレープかぁ······ウソだろ。ウソだと言ってくれ。お願いします。本当にお願いします。あれだけは、本当に苦手なんだ。
俺の願いはきっと叶わないだろう。鼻歌を歌いながら上機嫌なエリスを見ながら、俺はそんな事を思っていた