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ガラスの世界  作者: 旧式突撃歌
1章 おとぎ話はこうやって始まる
17/36

新たな脅威~好き勝手な奴~

 腕の中にいる彼女は魔法の名前を叫び、俺は斜め下へと瞬時に跳躍。


 発動した魔法だと思うが、迫りくる脅威の真横で空気が目に見えるように膜を張り、それが瞬間的に、脅威のある一点を目掛け吸い込まれるようにして消える。


 目の前すれすれを緑色の大きな刀身が通過すると、遅れたように通過した時点から真っ直ぐに大地が裂ける。


 その脅威は空を飛んでいる。自由に動きまわる事が可能で、急制動で反転。日の光を浴びるようにして、脅威は空に佇む。


 人のような形をした脅威は、緑色の二対の尖った翼のような物が背中から生えていて、その翼の下から時おり真っ白の波のような物が噴出している。陽炎のように見える波が、ほんの少しだけ大きく波打ち、直後ーー


 緑色の翼は、真っ黒に変色。片手に持つ緑色の大きな刀身をした馬鹿みたいにデカイ剣が消失し、佇むその姿のままで脅威は砂浜目掛け落下する。


 落ちた瞬間に、辺りを見えなくするほどの砂埃が脅威を中心に空へと舞い上がる。俺は彼女を抱き抱えたまま目をつぶり、彼女は俺の胸元へとしがみつきながら顔を埋める。


 程なくして砂埃は収まったようでうっすらと目を開くと、そこには落下した衝撃からか、脅威を中心に砂浜の一部が茶色の地面を見せるような大きな穴が開いていた。


 落下して地面に激突しただけでこの被害は·····流石に想定していなかった俺は、何とも言えない顔をしていたと思う。


 砂浜に空洞クレーターを作った脅威は、落ちた態勢のままピクリとも動かない。足から落ちた為、立った状態のままの脅威は、全く動く気配がない。


 生きているかどうかすら解らない為に、俺は不安になりながら腕に抱えた彼女へと問いかける。


「なあ、死んでないよな?」


「たーくん。言われた通りに外したし、無力化しただけだからーー中身はちゃんと生きてるから、心配しないの」


 コツンと、分厚い本で弱く叩かれる。やっぱり、こういう使い道を選ぶのかと、想像通りの行動に俺は微笑んでしまう。彼女は俺を見ながら不思議そうに首を傾げ、腕から降りるように砂浜へとジャンプ。


『貴様ら!!何故殺さん!』


 ジャンプした拍子にそんな声が響き、彼女は着地しようとした態勢が崩れたのだろう。尻から落下し、砂浜だとしても痛かったようで、尻を押さえながら小刻みに跳ね回る。


 俺は剣へと手を伸ばし、何時でも抜けるような態勢を作りながら、声を発した脅威を見やる。動かない脅威は人の形をしているが、全くの別物だ。外観からして、歪な存在。


 全身が、黒と茶色の鎧のようなものに覆われている。正確には、強化骨格と言う超金属の塊で、鎧といっても、もっとスリムなものだ。全身にフィットするようなフォルム。


 俺と同じように腕には籠手のような物があるが、シンプルな構造からはかけ離れている。


 肘からトゲのように先が尖った物が伸び、それがジグザグと雷のように折れ曲がっている形状をしていて、籠手自体も肘より先を守るような長さを誇る。


 腕の倍はあるような籠手は、丸みを帯びていて、蟹が振りかざした大木のような腕に似ている。


 足や胴は、非常にシンプルだ。黒いレーシングスーツを思い浮かべるその格好は、軽装過ぎてどうかと思うが、これも強化骨格で作られている。


 その上を覆うようにしてつま先から、膝くらいまでを守護するように、腕の籠手と類似した物を付け、尖ったトゲのようなものは、膝辺りから同じように伸びている。


 胴体は、茶色のジャケットを羽織っている。上着を着込むように前を開け、そこから覗くのは黒いレーシングスーツで、腹筋の所が綺麗に割れている。


 頭部を守護するのは、黒いヘルメットのようなものだ。首もとまで綺麗に覆い隠せるヘルメットは、個人の頭部に合わせて作ってあり、顔を覆うようにして黄色のバイザーがある。


 あのバイザーは、通信したり索敵したりと色々出来るもので、非常に重要だ。


 何度も繰り返し見たアニメの飛翔士を間近に眺め、俺は思う。俺が知っている知識は凄く狭いものだと。


 アニメの飛翔士はもっと格好いいデザインをしているし、空を飛ぶ大型の魔物や、どこぞの国の軍隊を相手に闘うのがほとんどの内容だったのもあるが、そもそもーー飛翔士の知識だけしか無いと言う不思議。


 あのアニメがどうして飛翔士しか出ないかは、俺も知らない。アニメのストーリー等、全く思い出せない。覚えているのは、飛翔士の内容そのものだけだ。


『貴様!!何を黙っている!我輩は、何故殺さないか聞いているんだぞ!?』


「ああ、すまない。アニメで見た飛翔士の、汎用型オールドタイプの事を思い出そうとしてな。ボーとしてしまった」


 目の前にいる飛翔士は、汎用型オールドタイプという一般的な飛翔士。


 近、中距離を主体にして戦える非常にバランスが取れたタイプ。大型の光刃大剣ブレイカーと言う大剣を持ち、腕には銃機が内蔵されている。


 左右で違う武装を持っていて、左には投擲爆薬グレネードを装備し、右には機関銃が内蔵されている。


『意味が解らんぞ!!我輩を殺さない理由はなんだ!?それから、旧式型オールドではないぞ!!いいか、我輩のジョアンナ36号はーー最高峰の実力を持っているのだ!!動くのだ!ジョアンナ36号よ!!動くのだぁぁあああ!!』


 ジョアンナ36号?何の事だろうと問いかけようとして、背中を軽くつつかれる。後ろを見れば、復活した彼女が逆方向に指を差しながら行こうと告げるので、俺は軽く頷きながら、揃って歩き出す。


『ぬぉおお!!ジョアンナ36号よおぉ!!動くのだあああぁああ!!』


 後ろから上がる奇声を無視しながら歩き出し、しばらくして俺達が去ろうとした事に気付いたのか、慌てたように奇声を上げる変な奴は大声を上げる。


『待て!!待つのだ貴様ら!!······無視!?我輩が!!ここにいるのだぞ!!』


 完全に無視で歩く。今日も快晴だなと心の中で思いながら、砂浜をゆっくり歩く。


『クォオオオ!!フォオオオオ!!わーがーはーいーをー!!無視するな!!』


 遂に、鳴き声のように変化したようだ。呆れたように彼女は振り返り、分厚い本を奇声を上げる変な奴に向けると、勝手に本が開きページを高速で捲る。


「うっさいんだけど!?あんた、何?今度こそ息の根止めて欲しいの!?」


 彼女の周囲に、真っ赤な渦が生まれる。彼女を囲むように、渦が空へと螺旋を描いて昇り、その光景を眺めながらようやく理解した俺は、渦の中へと腕を突っ込み彼女の肩を掴む。


「落ち着け!!別に何かあるわけじゃないだろ?」


「えー?たーくん。勝手に殺しにきたのは、あっちでしょ?生きてる事に特に感謝も何もないし、ああいうのは、一回痛い目見たほうがいいと思うけど?」


 そんな彼女の返答に、俺は首を振りながら止めろと肩に力を込めると、渋々という感じで、彼女は本を閉じると盛大なため息を吐き出しながら、仕方ないように奇声を上げる変な奴に、叫ぶように声をあげ始める。


「あんたね!!ここにいる、大馬鹿の甘すぎに感謝しなさい!!普通ならとっくに死んでるからね!?わかった!?返事は!!」


 まるで子供に説教するみたいに言う彼女に対し、奇声を上げる変な奴は納得したのか解らないが、返事を返す。


『はい!わかりました!!······っておかしいではないか!?何故に我輩が、素直に返事をしないといけんのだ!?貴様!!そこの剣士!!何故に殺さんかだけーー聞かせろ!!』


「殺す気はないからだ!!誰もな!!」


 叫ばないと聞こえない為に大声でそんな事を言うと、妙な沈黙が訪れ、数秒後に奇声が聞こえ始める。


『なぁにいぃ!?ヌフォオオオ!!ウピョオオオ!!あんなバカな事を言う輩に!?認めんぞぉぉおおおお!!あんなふざけた子供みたいな奴に!!我輩は、認めんぞぉぉおお!!ウピョオフヘゴォ!?』


 爆発。何が起こったか全く解らない。


 奇声を上げる当人が唐突に爆発し、黒煙を上げる光景を呆然と眺めながら、砂を踏む音で我に返ると彼女が既に歩き出していて、俺は交互に視線を送り彼女へと早足で追い付く。


「おい、何をした?」


「別にー?なんにもー?」


 直ぐに嘘だと解った。彼女が嘘をつくときは、決まって俺から距離を取る。肩を掴もうとして腕を伸ばし、それすらも簡単に避け、彼女は俺を見ずに歩く。


『おいぃいい!!そこのぶっぱなし魔術士!!危うく花畑へ逝くとこーーファあああ!?』


「うっさい!!いい加減死ね!!たーくんをバカにすんなよ······こらぁああ!!」


 魔法名すら言わずに、再度後方で爆発が起こる。立て続けに三回。


 彼女が放ったのがこれで解り、そして怒っているのも凄く解り、更に撃ち込む気の彼女を止める為にーー腕を掴む。


「よせ!!落ち着け!!」


「なに!?たーくんアイツの味方すんの!?て言うか、何で掴んでんの?離してよ。バカじゃないの?そうやって、そうやって!!いっつもさあ!?」


 怒鳴り散らし、彼女が腕を振りほどこうと躍起になるのを押さえ込むように、俺は落ち着けを繰り返し言いながら、腕をしっかりと掴む。駄々をこねる子供のように、彼女は腕を振りほどく事に必死になる。


「いっつもさあ!?周り全部を助ける事しか······必死にならなくてさ!!あたしが何かしても、たーくんは結局!!何もかも救おうとして、見ず知らずの殺しにきた奴までーー救おうとしてさ。そんな必死になること?ねえ?」


 答えられない。俺は、その問いに答えられない。天秤は釣り合う事でしか、平行を保てない。平行を保つと言うことは、答えを出さないという理由になる。傾けばーー平行はなくなる。


「離してよ。どうせ何も言えないでしょ?言えないなら、引っ込んでて。あたしは、あたしが選んだ道を進むの。たーくんをバカにしたり、たーくんを傷つけたり、たーくんを悲しませたりするのは······あたしが許さない。だから、退いてよ!!」


 彼女は腕を振り抜く。俺の身体を守る鎧に拳が入るが、衝撃も何もこない。彼女の拳が震える。彼女の身体が小刻みに揺れ、掴んだ腕から力が抜けると、彼女は俺を見ながら泣いていた。


「何で?ねえ?何もかもを救う正義の味方って、何かを選んじゃいけないの?ねえ?こたえてよぉ······」


「選ぶ、選ばないじゃないんだ。俺は全てを救うと決めた。誰も殺さず、俺が望む世界を得るためにだ。そしてーー」


『ぬぉおおおお!!何て事をしてくれたんだ!この、外道魔術士!!我輩は、手招きされてしまったではないか!!』


 大事な事を言ったのだが、声が打ち消される。


 何とも言えない感じの空気のまま、彼女は静かに涙を拭うと、俺の手を掴んで離す。抵抗もなにもせずに大人しく手を離すと、彼女はようやく落ち着いたようで、声の主へと向き直る。


「さっさとくたばっちゃえばよかったのに!!」


『我輩を殺そうとしたり助けたり、意味不明な貴様らに言われたくないぞ!!特に、そこの剣士!!貴様みたいな奴にーー負けた事など認めんぞ!!』


 よほど根に持たれたようだ。そんなに殺し合いをしたいのだろうか?俺には理解出来ない。


 そんなことをしなくても、人は生きていけるし、望む事を叶えられるはずだ。奪い合いが全てではないと思う。


 目の前のこの変な奴も、死んでしまえばこうやって話をすることすら出来ない。それが解らないのだろうか?


『この我輩は!!アイン帝国第470飛翔小隊隊長の、ホーランド·ユーニアだ!!貴様らの名前はなんだ!!』


 律儀に所属と名前を言った相手に対し、俺と彼女は顔を見合わせ頷くと、俺は前に踏み出す。


「俺は秋月龍人だ!!俺の横にいるのは桜木未歩だ!!」


『アキヅキタツト、サクラギミホ。貴様らの名前覚えておくぞ!!ホーランド·ユーニアの名に宣誓しようぞ!!必ず、我輩の前にひれ伏して貰うとな!!』


 その声が合図のように、俺と彼女の周囲は爆炎で覆われる。炎の柱が四方八方を塞ぎ、次いで遅れるように爆音と熱波と衝撃が加わり、俺は彼女を抱きしめながら砂浜に伏せる。


『フハハハ!!去らばだ!タツトとミホよ!!今回は、我輩の配慮で威嚇に止めておいたが、次は無いと思うがいい!!これぞ、騎士道!!フハハハハハッ!?かぁ、げふごふ!?むせ······ゴフ!!』


 決め台詞を吐き捨てながらむせて死にそうな呼吸と共に、飛翔士独特の駆動音が響きながら、それが遠くへ行くようだ。


 威嚇と言ったのは嘘じゃない。俺達が被害を受けたとすれば、上から降り注ぐ砂の雨と、あの濃いキャラがまた現れるかもしれない······という事だろう。


 ホーランドか。帝国の所属とは、最初っから変な所で繋がりが出来たものだと思いながら、覆い被さる彼女から退き、手を貸して立ち上がらせる。


「なんなのアイツ?また面倒事に巻き込まれた気がするんだけど?」


「······出来ればこないで欲しいと思うがな」


 お互いに厄介だと思える共通の存在という認識を確認した所で、俺達は服や髪についた砂を払いながらーー向かう先へと顔を向けると、誰かがこっちへ向けて走ってくる気配がし、俺は念のため剣に腕を伸ばす。


「ーーつと!!おーい!!いるのかー!?」


 聞いただけで気配の正体が解り、俺と彼女はその声の方向へ走り出す。


 砂浜をしばらく進んだ先に、声の主が走ってくるのが見え、俺と彼女は手を振りながら合図し、視界に映る柳田を見ながら、合流することにした

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