運命の選択1~紹介と職業とそれぞれの選択~
立ち上がった彼女を各々が見ながら、微笑んだり、無表情だったり、飲み物を飲んだり。
様々な反応の中、彼女は自分の胸に手を当てながらーーこう切り出す。
「あたしの名前は桜木未歩。そこにいる······秋月龍人と同い年。皆わかってると思うけど、やっくんやまーちゃんとは一緒に連れて来られたの。で、えーと、あたしの趣味はーー」
「落ち着け······さくらぎと言ったな。漢字にすると、どういう漢字なのだ?」
赤い髪の少女は助け舟を出すようにそう言い。彼女は、慌てたようにその質問に答える。
「あー、そうだよね。趣味とかいいか······えっと、桜木はーー桜の木って書いて。未歩は、未来の未に歩むって書くの!元気しか取り柄ないですが、よろしくお願いします!」
お辞儀をすると、数名が拍手をしてくれる。何だかーー新人歓迎会のようだなと思い。ポケットを探るが、タバコがなくどうしたものかと思っていると、そっとタバコが箱ごと差し出される。
「悪いな、助かるよ」
「次、龍人ご指名みたいだけどな。さっきよーあそこのーー帽子のオッサンに貰ったんだ。やるってよ~」
差し出した柳田の後ろで、ギャーギャー騒ぐ彼女を見ながらしょうがない······と思い立ち上がる。全員の視線が集まる中一度咳払いをし、俺は口を開く。
「名前を連呼されているが、秋月龍人だ。秋月は、秋の月と書くんだ。龍人は難しいほうの龍に、人と書いて龍人だ。こんな顔だが······20は超えてる。タバコも酒も合法だから、心配しないでくれ。以上だ」
俺の自己紹介にーーほぼ全員が、驚愕の顔をする。そんな若く見られていたことに······ショックを隠せず、タバコに火をつける。
それとなくポーズ。失笑を受け、更にへこむ。
「えーと、じゃあ次はかささぎさん?だったっけ?お願いしまーす」
赤い髪の少女は頷くと立ち上がる。
「鵲焔だ。鵲は鳥の鵲と書き、焔は炎の難しいほうの焔と書き、エンとも読むな。周知の事実だがーー鵲源一郎の娘だ。それからーー歳はこれでも18を超えている。身分はまだ学生だが、よろしく頼む」
綺麗にお辞儀をし、拍手が聞こえる。何処となく照れくさそうにしながら、鵲さんはゆっくりと座り。彼女が次に指名したのはーー筋肉マッチョの男だった。
「いいか!!よく聞くがいい!!俺様は······超絶最強のーーげぉ!?」
「うぜーんだよ!!普通にしろよコラァ!?」
最初のように頭をひっぱたかれ、筋肉マッチョは寂しそうな顔をしながら、再度やり直す。
「田中強だ。田中は、田んぼの田に中間の中だ。強は強いと書く。歳はまだ······10代ギリギリだ。磨きあげたこの筋肉でーー運送業をやっている。よろしくお願いします!」
田中さんは、そう言ってお辞儀をする。運送業か、なるほど。
田中さんの格好を見ながら、俺は容易に想像出来るなと思ってしまう。
腕の筋肉や肩を見せるように、暗緑色のタンクトップ一枚を着て、穴が一杯開いたバックルのベルトが窮屈そうに鍛えた腹筋を締める。
洗濯して色が落ちたのか、少し白っぽいのが混ざった青色のジーンズを履いている。
短く整えた青色の髪をオールバックにし、真っ黒に焼けた肌は、外にいますと主張しているようだ。
瞳の色は、鮮やかな水色で、小さく意外にも小綺麗にまとまった顔付きには合っていると思う。
背丈も大きい······喫茶店の親父さんくらい?かもしれない。田中さんが座り、次に指名されたのは、隣に座る男口調のギャルだ。
「あー、テステス。よう、皆!俺は、田中縁っていうんだ。残念ながら、隣に座るこいつの妹だ。あー誤解しないでくれよ?双子なんだわ。緑は、緑って書いてゆかりって読むんだぜ。兄さん共々ヨロシクな!!」
驚愕。余りの驚きに、危うくタバコを落としかける。
ギャルの格好の女はピースサインをしながらポーズを決め、それを見ながら田中兄は、困ったようにため息をつく。
双子······だと?
どう見ても体型が違う。ギャルの格好の女は、自身の胸を強調するかのように前屈み。大きい。背丈も大きい方だと思う。
彼女と比べても、遜色ないと思うからだ。もしかしたら、もう少し上かもしれない。別段太ってるわけでもなく、中肉中背のような体躯。とてもよく似合っていると思う。
焼いた肌だと思うが、健康的な小麦色をしていて、あからさまに緩めのワンポイントにドクロのマークと下に英文が書いてある白いTシャツを着ている。
前屈みのせいか······見に着けるピンクのブラジャーが、綺麗に見える。肩に覗く二本の線が、ブラジャーのそれだと解る。紺色のショートデニムのベルトの真ん中には、ウサギが付いている。
金髪の髪は、毛先に近い所だけ色が違う。そこだけピンク色をしている。二色混合というのだろう。それを、双結髪にして、小さな亀が付いたヘアバンドで可愛くとめている。
髪の長さは、毛先が肩より少し下程度。しかし、インパクトが強すぎる目元のせいか、そこに目が行ってしまう。
簡単に言うとーーパンダだ。
瞳の色は、田中兄と同じ。口元も真っ白に塗ってあり、ぷっくらとした唇も、その化粧のせいかあまり印象に残らない。
田中妹が座り、次に指名されたのは柳田だ。柳田は慌ててタバコを消すと、立ち上がり。
開口一番ーー
「女子諸君!!聞いてくれ。この愛の伝道師!!柳田楼牙の名を!!」
静まり返る場の空気に、柳田は困ったように頭をかくと······静かに自己紹介を再開する。
「えー、柳田をどう書くかっつうと······木の柳に、田んぼの田だな。楼は、摩天楼や蜃気楼の楼に。牙は牙って書くんだぜ!とにかく!!皆よろしく!」
柳田はそう言い、静かに着席するとグラスを傾ける。あの陽気さも必要だと思うけど、頑張ったな柳田。
俺は心の中で称賛しながら、次に指名されたのは······モソモソと肉を食べる眼鏡の少女だ。
皿に綺麗に肉を置くと、少女には大きい椅子から飛び下りる。テーブルから顔を覗かせるような感じに、何故か、ほのぼのとしてしまう。
「······大石奏。大石は大きな石と書く。奏は奏でるで奏。歳はこれでも24。一応よろしく」
ペコリとお辞儀。その言葉に驚愕したのか、柳田は椅子から落ちる。
まさか、愛衣さんよりーー上だと?恐るべし幼女。いやーーこれは流石に言い過ぎ······か?
どう考えても、外見と背丈からは想像も付かない年上の事実。
動く猫耳は、フードを被った上に付いている。灰色のパーカーのポケットに手を突っ込み。何かを取り出すと、そこには包みに巻かれた······手に持つ小さなキャンディーが、握られている。
包みを取り口に突っ込むと、両手で椅子を掴みーー何とか這い上がろうとしているようだ。見かねた田中兄が、大石さんを持ち上げ椅子に座らせると······軽くお辞儀をする。
可愛い。何だあの生き物はーーいやいや、もしかしたら親の気持ちなのか?田中兄も、大石さんの様子を微笑んで見ている。
フードから覗くのは、耳を隠すように整えられた茸髪で、銀色の髪の色が灰色のパーカーのせいか目立つ。
掛けられた眼鏡も、少し丸みを帯びていて赤いフレームの色が綺麗に見える。
樽型という種類だったような気がする。柳田に連れていかれたナンパで、そんな事を教えてもらった記憶がある。
眼鏡から覗く瞳は、暗赤色の色で、小顔なのに目が大きくて、真ん丸の瞳が印象に残る。対して、口元は少々横に長いせいか。無表情のその顔から······キツメの印象を与えていると思う。
足をぶらぶらと動かすと、短い真っ黒のスカートはヒラヒラと動き回る。背丈は、圧倒的に低い。どう見ても愛衣さんより小さく、細身で華奢。起伏が見えない感じも、自然だと思う。
次に指名されたのは、OL姿の女性。静かに立ち上がり、周囲を見渡しながら口を開く。
「ウチは、川辺鏡子言いはります。じゃなかった······ンン、言うわ。川辺は三本の川のほうに、刀が付いたほうの辺で、鏡子は、鏡の子と書くの。よろしゅ······宜しくね。歳は下手すれば最年長ーーかな?一応、29になるから。オバサンじゃないからね!?良い!!重ねて言う。オバサンじゃないからね!!」
そう言って、テーブルを軽く叩く。どうやら最年長の疑いにへこんでいるのかもしれない。
次に指名されたのは、巨漢の男だ。隣にドレスを着て出迎えてくれた女性を従え、ご満悦の表情で立ち上がる。
「僕、僕はー間中教示って言うんだ。間中は中間を逆にして書きま、書きます。教示は、教えを示すと書きま、書きます。と、歳はこれでも22。フヘヘーーヨロシク」
巨漢の男は、窮屈そうに礼をする。間中さん······か。意外にも、俺よりも年上だったな。
まず、最初に思うのは、確実に痩せたほうがいいだろう体型。相撲取りのような体型なのだが、筋肉の欠片も見受けられない。正直言って悪いが、ぶよぶよしている。
真ん中に凄く愛嬌のある女性のキャラクターが、水着姿で描かれたTシャツは、本人の腹を隠せないようにーーその上に裾が乗っている。腰巻きのチェック柄のシャツも、目一杯伸びきって結んである。
ボタンすら絞められないのか。開きっぱのキツキツのジーパンが、何とか下半身を覆っているような感じ。
水玉模様の紺色のバンダナを頭に締め、そこから覗くのは白髪のこじんまりとした形の髪型。多分だが、短髪だと思う。血色が悪く、白い肌と言えばそうだが······どこか黒ずんでいる。
顔つきも、贅肉が垂れ下がり顎が2つあるように揺れ。あまり気を使っていないだろうな······と思う頬っぺたは、ニキビがデコボコとある。
目元は垂れていて柔和な感じだが、小さくて横に長く狐を思わせる。大きなタラコ唇はガサガサとしていそうで艶がなく、瞳の色は鈍い黒色でーー生気が若干抜けてる印象だ。
間中さんが重い腰を落ち着けると、次はあのとんでもない髪型の少女が指名される。
「あら、私ですの?仕方ありませんわね」
そんな事を言いながら手を伸ばすと、横に立つ執事の格好の男は手を取り、立ち上がるのを助ける。
「私、東藤夏希と言いますわ。東藤は東に佐藤の藤と書きますわ。夏希は、夏と難しいほうの希と書くのですわ。東藤と聞けば分かると思いますが、東藤情報設備の東藤一村の娘ですわ。今年で19になりましたの。よろしくお願いしますわ」
優雅にーー胸に手を添え、お辞儀をする。東藤さんの紹介を、周囲がざわめきと共に拍手する中······俺だけは、全く解らなかった。多分、良いとこのお嬢様みたいなものだろう。
まず、目を引くのは髪型。左右対称に、ぐるぐると回転しているような髪型だ。
それが、腰の下くらいまでの長さであって、それを止めるように真っ青の大きなリボンが蝶々結びで左右にあり、東藤さんの動きに合わせ······髪と共にピョコピョコ動く。
髪の色は薄桃色で、非常に目立つ。一目見ただけで解る外見に、インパクトの強さが滲み出ている。
体型も気を使っているのか、女性らしさがある柔らかな印象を持たせつつ。引き締まったラインと、強調するかのように膨らむ胸が、純白のYシャツを押し出す。
上下共に青色の制服を着ていて、胸元に垂れる短い黄色のネクタイが、アクセントを加えているようだ。
スカートが短くなっているせいか、膝上で動くと舞い上がり、見えそうで見えない感じもーー男心をくすぐるような気がする。
顔つきもくっきりとした感じ。
くりっとした目が少し小さく見え、紫色の色合いが綺麗に光る。微笑む口元は鮮やかな赤色をしている。
東藤さんが、執事の格好の男に手を取ってもらい座り直すと、彼女が指名するよりも早く東藤さんが、執事の格好の男に挨拶なさい。と言う声が聞こえ、執事の格好の男は静かに口を開く。
「お嬢様の許しが出ましたので、皆様へ僭越ながら挨拶をさせてもらいます。東藤グループご令嬢の従者の、クリスチネル·アンドレッドです。クリスと呼ばれております。年齢は、若輩ではありますが、27になりました。皆様、よろしくお願いします」
深々とーー片手を真っ直ぐ腰の位置に置きながら、お辞儀をする。クリスさんか·······従者ということは、付き人のようなものだな。
まず思うのは、背が高い。2メートルはあるのではないかと思う長身。
しかし細身で、手足の長さが異様に目立つ。体型的にはもう少し筋肉があればと思うのだが、それを覆すのはクリスさんの顔立ちだ。
恐ろしく綺麗な顔をしている。崇高な造形日は、手を触れる事も躊躇うようなそんな顔。
瞳の色は、淡い黄色で、芯の強そうな目元。鼻や口も文句のつけようがない。
少し長い髪は、後ろが肩に触れるように真っ直ぐ伸び、耳を隠すほどの長髪。手入れをしているのか、光を浴びると綺麗に輝き、濃緑色の髪色が異様に似合う。
執事の服装のそれは、キチッと皺も無く綺麗に着こなされ、上品な雰囲気さえある。
クリスさんが挨拶を終えると、次は愛衣さんの番だった。
「はーい、皆さん。月島愛衣です!月島は月の島って書きまーす。愛衣は、愛の衣って書いて、愛衣です!歳は~これでも23才です!一応お姉さんなので、仲良くしてくださいね!」
愛衣さんが【喫茶店バビロン】の何時もの決めポーズをする。
猫のように両手を顔に近付け、しっかりと横に曲がりながら可愛くポーズ。
柳田の歓声が聞こえる中、彼女は苦笑いしながら、愛衣さんが座るのを見やる。
次に指名したのは、香月だ。
「やあ、初めまして。と、そうでない人もいますが、自分は、香月一太郎と言います。香月は、香る月と書きます。一太郎は数字の一に太郎で一太郎だね。歳は企業秘密さ。一応探偵なんでね。どうか、よろしくお願いします」
帽子の唾に手を置きながら、丁寧にお辞儀をする香月を見ながら俺はグラスを傾ける。
次に指名されたのは、暇そうに自分の髪を弄る小さな体躯。
指名されたのを受けーー渋々立ち上がる。
「めんどくさいなぁ、まあ皆やってるし······ボクだけやらないわけにいかないけどねー。ボクは、ロウワード=影継=スチュワード。影継は、えーと······影踏み?だったかな?あれの影と、継続の継って書いたはずだよー。こっちにきてまだ4年立ってないから、漢字苦手なんだ。皆は、ロウって呼ぶからロウでいいよー。歳は、これで26になったから、チビだと思ってバカにしないでよね!!」
そう言い放ち、頬を膨らませプイッと横を向く。何処かで見たようなポーズに、苦笑いを浮かべながら拍手。今までの言動からして、苦手なタイプなのでは?と危惧していたが、大丈夫かもな。
まず言えるのは、ロウさんは小さい。
大石さんと比べるとロウさんのほうが大きいが、それでも愛衣さんよりは小さい。
ふかふかのパジャマのような?綿毛が一杯ついた、白い上下の服を着ている。ふかふかのそれは、とても暖かそうだ。寝ている所を、連れて来られたのではないか?と思ってしまう。
印象的なのは、瞳だ。左右違う色をしている。
左目が、鈍い青色をしていて、右目が、対照的に鮮やかな赤色の色合い。虹彩異色症と言うのだったと思う。
顔つきも体躯に合うように、少年のような感じだ。ぱっちりと開いた大きな目に、尖ったようにしてある口は、何とも可愛い顔だ。
目元付近まである長い前髪は、自分の瞳を気にしているのか時折隠れてしまうほどの長さだ。対して、後ろ髪や横はそんなに長いわけでもなく、自然な感じがする。
髪色は、紺色をしていて、それが妙に目立つ。余程······自分の瞳を気にしているのかもしれない。
ロウさんが、椅子に音を立てて座ると、最後に指名されたのはーー目の前の女だ。
「皆さん、再度ご挨拶します。片桐零未です。片桐は、片方の片に桐は木に同一の同を足して書くわ。零未は、零の未来と覚えて貰ったらいいわね。歳は秘密よ。よろしくお願いするわ。さてーー自己紹介も済んだようですので、PT決めと、それが終わったら······もう一つしなくてはいけないこともありますので、そろそろいいかしら?」
カタギリレミ······この件の重大な存在は、自分の紹介を終えるとそう言い、彼女は静かに頷く。それが合図のように、片桐は全員を見渡しながらーー口を開く。
「では、PTになりたい人達は集まって頂戴。それから、次に行きましょう」
その声に、それぞれが顔を見合せ頷くと······全員が席を立つ。
当然のように、俺の傍には彼女と柳田、愛衣さんが来る。
他の面々は、どう組むか迷うように少し悩みながら、組み合わせは少しだか出来上がる。
田中兄妹は互いに組むようだ。
大石さんは無表情だが迷わずに移動して、掴んだのはビックリするロウさんの腕だ。そこにニタニタ笑いながら近付くのは、間中さん。
東藤さんはクリスさんとーーそこに川辺さんが一礼して加わる。
川辺さんは俺を見ながら微笑み、目線を向ける先を見ろと言うようにして顎で合図。そこには、一人佇む鵲さんがいた。
鵲さんは、困ったように纏まったグループを見ながら、俺と視線が交わる。何の躊躇いもなく、俺は手招き。
それを見た田中兄妹は、互いに頷くと俺へと手を上げ、東藤さんのグループへと一礼。快く招き入れた東藤さんの所へ行き、鵲さんは俺達の所へと歩いてくる。
「いらっしゃい。ほーちゃん」
「ほーちゃん?なんだその呼び名は?ワタシはだなーー」
「嫌なの?似合うと思うんだけどなーねえ、やっくん?この子に何か言ってあげてよ」
「いやあー美女ばっかりで燃えるな!龍人」
呆れたようなため息を吐き出し、それぞれがにこやかに笑う。これで······パーティーは組上がったようだ。
「いいわ。出来たようね。それではまず、各PTの代表者を決めてもらいます。代表者は、PTの方針及び決定権を持つわ。代表者に全てを委ねるようにしなさい。いいわね?では、代表者を前に寄越して頂戴」
瞬間的にーー俺は背中を押される。
何事かと後ろを見ると、全員が俺を選出するように······背中を押したようだ。笑うコイツらを見ながら、頭を軽くかくと、俺は前に出る。
それに続き、東藤さんが当然のように前へ出て。もう一つのグループは、ロウさんが出たようだ。大石さんが、グイグイ背中を押す。
こうして、各グループの代表者が揃う。
それぞれが、片桐の指示により中央へと移動。
そこにあったテーブル等を周囲に立っていた人達は片付け、中央の床が開く。そこから出てきたのは、大きな横に長い何らかの機械だ。
機械が止まると、急に映像が浮き上がる。そこに現れたのは、三国が対立する構図と地形。色分けしてある三国は、それぞれの色の塗られ型が違うようだ。
「今からーーあなた達が向かう先の対立映像よ。前に言ったけれど、この青い色が全て帝国と呼ばれる国の占領地域。黄色が、神聖な国の地域。緑が、島国の地域よ。代表者には、これの何処へ所属するか決めてもらうわ。よくこのMAPを見ながら、決めなさい。但し······PTの数で振りなロウさんから、最初に決めてもらっていいわ」
その声に、ロウさんは迷うことなく帝国を指差す。帝国の領土はこの地図を見る限り、全体の半分近くまで領土を広げているようだ。最も大きな占領区画の色合いが濃い。
黄色は、帝国の占領区画と真っ向からぶつかっている。
広範囲に及ぶ色の攻めぎ合いから、激しくぶつかっているようにも見える。そしてーー海を渡ると迫るのは緑色。両面から攻められていると言う説明を思い出す。
緑色は、非常に小さい。海に面しているせいかもしれないが、他の何処へ行くにも······海を渡らないと行けないようだ。逆に言えば、この海の立地条件等を含めれば、平和な国かもしれない。
東藤さんと俺は互いに視線を交わすと、同時に指を向ける。
東藤さんは、黄色。俺は緑色だ。これで三組の所属する国が決定した。
「いいわ。それじゃあ、皆さん集まって下さい。次は、登場人物の作成項目に移るわ」
何を言われているか全く解らないが、皆ぞろぞろと近づいてくる。一体どういう事をしようとしているのだろうか?
「まずは、各々の職業を決めましょう。これは、私以外は全員が一個ずつ取ってもらう方針になるわ。だから、14パターンしか存在してないわけね。それぞれが基本職から始まるようになっているわ。要するに、特殊な職業は、私以外は有り得ないという訳ね」
「······なあ、柳田。これって何を決めたらいいんだ?言ってる事が全く解らんぞ」
柳田に問いかけると、柳田は首を傾げながら俺へとこう問い返す。
「龍人······お前さ、ゲームしたことあるよな?」
「それはあるに決まってるだろ。ハンマーで出てくる敵を殴って倒すの。得意なのはーー知ってるだろ?」
「······いやまあ、そうだけどよ。お前そういや、VRMMO自体初めてだよな?そういや?」
その問いに頷き。それを聞いていた愛衣さんや鵲さんも、驚きの表情をする。香月に至っては······笑いを堪えられないようだ。
「この勝負、ボクの勝ちは見えるなー」
「あら?勝手にそう思わないで下さる?とりあえずーー最初に狙うべきは何処かハッキリしてますけど」
東藤さんとロウさんは、俺を見てニヤリと笑う。どういうことだ?
「あのね、たーくん。非常に言いずらいんだけど、このゲームって、PTの司令塔いるのね?つまり、たーくん。このゲームの最大の利点は、司令塔が存在しているPTにはーー様々な恩恵が入るのね?すっごく簡単に言うと、例えばーー皆危ない!ここは全員の能力を引き上げて強化だ!とか、ここで全員で攻撃だー!とか、そう言う事を一挙に引き受けるのが、たーくんの役割なわけ。たーくんがもし真っ先にやられちゃうと、それを出来る人が居なくなるし、他の皆が大抵道連れになっちゃうゲームなんだこれ。だからたーくんを······あたし達は死守するように動かないといけないからさ。たーくんはあたし達全員の、命綱の役割なんだよね」
なんだそれは?そんなバカなーー
そんな無茶苦茶な事をさせられないと思い、リーダーの交代を訴えるが、拒否されてしまう。リーダーは一度決めると変更出来ないとのルールのようで、全員がそれを知っていたようだ。
「どうすればいいんだ?全く解らんままやるのは······厳しいと思うぞ?」
その俺の声に、片桐がため息を吐きながら、俺へとこう言う。
「補足説明はするから、後はとりあえず頑張りなさい」
俺は頷くしかなく、静かに全員が今から決めるクラスとやらを見ている。
「良いかしら?上から順番に説明していくわ。まずは、剣士。これは攻守共に優れたーー万能的な扱いね。一番クセがなく、扱いやすいわ。但し、この世界には魔法という概念が存在して、それを扱う事はこの職業のままでは不可能なの。そこは覚えておきなさい」
「次は、双銃士。これは、二挺拳銃を使って戦うタイプね。片手持ち出来る銃ならどれでも可能よ。格闘も可能ね。そして、魔弾と言われる魔法を込めた弾を撃ち込める上に、ちょっとした魔法も使いこなせるわ。但し、全職業で最弱の防御性能だから、当たらないようにしなさい」
「次は、拳闘士。名前の通り、格闘戦主体の職業よ。圧倒的な手数と、自身の強化等を使いこなして立ち回るのよ。但し、接近しないと無意味な職業だから、接近を以下にさせないかで勝負は決まるわ」
「次は、魔術士。これは、魔法を使って戦うタイプね。自身の魔法の力を増幅させたりも、出来るわ。あらゆる属性ーー簡単に言うと、火や雷、水や大地、風を操ったりして戦うのよ。但し、その魔法も無尽蔵には撃てないし、制限も掛かる事を覚えておきなさい」
「次は、双剣士。これは、二対の剣を持って戦うタイプよ。手数と魔法を両方こなせるわ。例えば、剣を振りながら合間に魔法を飛ばせたりと、便利な職業ね。但し、威力は全職業中最低だから、よく考えて使いこなす必要があるわ」
「次は、護衛士。これは、通称でガーディアンとも呼ばれているわ。守る事に特化した職業で、全ての攻撃に対しーー飛躍的な防御性能を誇るわ。自身以外を強化出来る能力も、魅力的ね。但し、圧倒的に攻撃手段がないから、そこは注意ね」
「次は、救道士。これは、傷を治癒出来る能力がある職業よ。自分も含め、周囲が戦いやすいように出来る能力があるわ。ある程度の攻撃能力もある職業ね。但し、一瞬で回復出来ないうえに、その間······完全な無防備になるから、サポートは必須の職業ね」
「次は、闘剣士。これは、剣士よりも攻撃に重点を置いた感じね。全職業中、トップクラスの火力を持っているわ。更に強みは、自己強化による攻撃の威力をーー限界を超えて使えるわ。但し、全ての基本である移動速度と攻撃速度が、全職業中最低よ。狙って当てる努力は······必須ね」
「次は、探求士。これは、敵を探しだしたり、地形等に潜む宝ーーなんかを見つけたりする職業ね。地形を把握し、何処にいても、瞬時に場所を把握できるような能力。その宝に掛かってる鍵、なんかを開けたり出来る能力が魅力ね。但し、攻撃に使えるような能力が低いわ。裏方のような扱いだから、注意しなさい」
「次は、錬成士。これは、武器や防具、道具やちょっと特殊な物品を作ったりする為の職業ね。それから、攻撃手段や防御等もちょっと特殊ではあるけれど、基本的な能力はーー全職業中最も優れたバランスを持っているわ。但し、素材と言われる物を集め作らないといけないこと。それから、自作した攻撃手段と防御手段がなければ、何も出来ないという点は·····注意したほうがいいわね」
「次は、従奉仕。これは、一般的な職業からは若干扱いが違うわ。PTの司令塔の能力の増強等を強化出来る能力ーーがあるのよ。司令塔が存命の限り、果てしなく立ち回れる可能性があるわ。但し、司令塔が敗北した場合。無条件で、この職業の人は即時敗北扱いになるのは、注意ね。一蓮托生の職業だと思えばいいわね」
「次は、暗弓士。これは、陰陽師を知っているかしら?あれの性能をしたようなものね。刀や弓を使いこなす職業ね。魔物の魂を宿して戦ったり出来るような、特殊な戦闘方法も取れるわ。但しーーこの職業最大の難点は、自身の体力を削る行為が頻繁にあることね。その体力は、失った瞬間から、戦闘終了までの間は、回復手段が一切ないわ。心して挑みなさい」
「次は、このVRMMO最大の肝ね。飛翔士。これは、全身を覆う強化骨格。通称でパワードアーマーと呼ばれているわ。この強靭な鎧を装着し、空を飛んだり、圧倒的な火力で敵を叩き伏せる職業ね。アニメの主人公は、この職業で戦っているわ。但し、燃料切れを起こした場合······どの状態であろうと、稼働不能に陥るわ。燃料残量には注意しなさい」
「最後は、博打士。ギャンブラーで呼ばれているわ。当人すら把握出来ない攻撃手段を、兼ね備えているわ。ある意味ーー最強の職業かもしれないわね。これの最大の強みは、どのくらい強い相手でも、一撃で倒せる能力を持っているわ。運そのものだけれど······但し、全職業中最低のバランスの悪さね。ギャンブラーの名は伊達ではないわ」
長い説明を聞き終わり、俺は真剣に悩む事になってしまう。どれも、優劣がはっきりしているからだ。そんな中、片桐は言葉を続ける。
「職業の構成もそれぞれが、好きなように取ってもらって構わないわ。まずは、各PTの司令塔からね。ロウさんから、東藤さん、秋月へと続くようにするわ。ロウさん達が先行なのは、人数不利を見込んでよ。さあ、選んで頂戴」
「それじゃあ、ボクから遠慮なく決めさせてもらうよ。飛翔士はボクの物さ」
ロウさんは迷う事なく飛翔士を選択。俺もやりたかった職業を取られたので、何を選ぼうか再度考える。
選択肢の権限は東藤さんへ移ったようだ。東藤さんは、にこやかに笑いながら職業を告げる。
「私は、双剣士を選ばせてもらいますわ」
双剣士か。魔法も攻撃も両立してあるが、最低威力の職業。
さて、選択肢は俺へとくるのはいいが······困った。どれを選ぶのが一番皆困らないだろうか?どれも、それぞれ短所と長所があるうえに、俺は素人丸出しだ。難しい職業は、選ばないほうがいいだろう。
「あーちょっといいかな?自分の順番は、この次になるのかい?一応······参加している身だから、せめて選ぶ権利は欲しいかなと思ってね」
香月はそう問いかけ、片桐は忘れていたように手を叩く。
「秋月龍人。決めかねるようなら、先にあっちが決めてしまってもいいかしら?」
「香月が何を取るか興味があるから、先に選んでくれ」
俺の返答に香月は微笑むと、直ぐに職業を指で示す。それは、意外なものだった。
「自分は、博打士を取るよ。一回やってみたかったんだ。ギャンブルってやつをね」
香月はそう言って、満足するようにタバコを吸う。俺は再度残りの職業をみやり、多分、一番無難で難しく無さそうなのを選ぶ事に決める。
「待たせてすまない。俺は、剣士をやろうと思う」
これで俺の職業は決まりだ。次に順番がきたときに決める候補は彼女だ。自信満々で、前に進み出る。
ロウさんのグループ2番手は、大石さんだ。残りの職業を、さっと眺めたと思ったら直ぐに口を開く。
「······探求士をする」
大石さんは、裏方要員を選んだのか。補佐的な役割が好きなのかもしれないな。
東藤さんのグループの2番手は、川辺さんだ。残りの職業を見るまでもなく、川辺さんは即答する。
「ウチは双銃士をもらう」
その声に······彼女はあからさまに肩を落とす。どうやら、やりたかったみたいだ。
選択肢がきたので、渋々残りの職業を見ながら軽く唸ると、彼女は決めたのか少しやけくそ気味に告げる。
「しょうがないから、魔術士しまーす」
彼女は、魔法を使う職業にしたみたいだ。こっちの3番手は愛衣さんだ。愛衣さんは何を選ぶのだろうか?
ロウさんのグループ最後は間中さんだ。間中さんは、直ぐに職業を口にする。
「護衛士!!」
防御特化の職業か。なるほどな、攻守のバランスと裏方を考えての構成か?
東藤さんのグループ3番手は、クリスさんだ。クリスさんは直ぐに職業を切り出す。
「従奉士をやらせていただきます」
東藤さんと一蓮托生か。強い絆があるように感じるな。
こっちは愛衣さんが選ぶ番だ。愛衣さんは、嬉しそうに職業を決める。
「愛はねー救道士やるよー」
回復してくれる職業を嬉しそうに決め、次にこっちが決める人は鵲さんになるみたいだ。柳田が、先にどうぞと手を出しているからな。
東藤さんのグループは、田中妹が出てきた。意気揚々と、直ぐに即決。
「俺は拳闘士だ!」
やりたかったみたいだな。あの表情を見ると、それが伝わってくる。
鵲さんは、残りの職業を見るまでもなく、直ぐに職業を口にする。
「刀を使える暗弓士にするぞ」
刀を使えるなら、確かに強みだな。
最後は柳田。残った職業に自動的になるわけだが、柳田は臆せず前に出る。
田中兄が進み出て残った職業を見ながら、一度柳田を見る。柳田は、そんな田中兄に一度頷くとーー田中兄は、ゆっくりと職業を告げる。
「闘剣士をやろう」
これで、柳田は自動的に職業が決まる。残ったのは錬成士。
柳田は、特に何かを言うわけでもなく戻ってくる。これでーー全員の職業が決まった。
片桐だけは特殊な職業みたいだが、一体どういう職業なのか疑問を言う前に、片桐が前に出てくる。
「皆さん決まりましたね?それでは······ここからは、今回のVRMMOに新しく加えた新要素。これを、皆さんに体験してもらいます。これはノーヒントよ。この文字列の中から、好きな物を一つ選んで選択してもらいます。これが、後々影響するようになるわ。好きに直感で選んで頂戴」
そう言うと、文字がズラリと並ぶ一覧表のようなものが現れる。なんだろうか?
文字列には単語のような物が書かれているだけだ。中身を見ると、勇敢や無謀、友愛や謙虚等が並び、これを一つ決めればいいようだ。
俺はこの文字列の数に、上からさっと見ながら何か良いのは無いかと探し、正義と書かれた文字を見つけそれを選ぼうとしたが、その横に書いてある文字が何気なく視界に映るとーー俺は迷う。
「決めたかしら?一斉に選んでもらうわ。選択した文字を押して頂戴」
その声に、それぞれが文字を選ぶように指で押し、俺は遅れて押し込む。それぞれが選んだ文字が目の前に移動し、片桐はそれを見渡すように顔を動かすと······静かに頷く。
「なるほどね。こういう結果になったのね」
納得するように片桐はそう言い、俺はそれぞれが選んだ文字を見ていくように視線を動かす。
まずは、一番近くにいる彼女。選んだ文字は『幸福』の文字。
次は、柳田。選んだ文字は『楽観』の文字。
次は、愛衣さん。選んだ文字は『祝福』の文字。
次は、鵲さん。選んだ文字は『修羅』の文字。
次は、東藤さん。選んだ文字は『崩壊』の文字。
次は、クリスさん。選んだ文字は『信頼』の文字。
次は、川辺さん。選んだ文字は『真実』の文字。
次は、田中妹。選んだ文字は『反逆』の文字。
次は、田中兄。選んだ文字は『執念』の文字。
次は、大石さん。選んだ文字は『孤独』の文字。
次は、間中さん。選んだ文字は『悪逆』の文字。
次は、ロウさん。選んだ文字は『衝動』の文字。
次は、香月。選んだ文字は『天性』の文字。
そして、俺が選んだ文字を皆が見やる。不思議そうな顔をするのが数名いるが、俺が選んだ文字はーー
『道化』
そして、片桐も自分で選ぶ文字を押すと、そこにはこう書かれていた。
『女王』
それぞれの文字が決まり。片桐は、満足そうに頷くと、こう口にする。
「これで準備は終わりよ。あっちに行く前に、一度身体を清めましょうか。綺麗な身体をしてーー新しい装置に入ってもらったほうがいいわ。そのほうが、こっちとしてもありがたいのよ」
その声に、女性陣営は一瞬考え込む。それから、恐る恐る口を開くのは彼女だ。
「あの~?それって、流石に男女一緒じゃないよね?」
「バカな事を言わないでほしいわ。別々に決まってるじゃない。さあ、行くわよ」
その声に胸を撫で下ろすのは、こっちも一緒だった。ここで混浴等言い始めたら、笑えないからだ。
流石にそれは無いようで、俺達は言われるままについていくと大きな扉が二枚あり、そこに男女別に通される。
俺も普通に行こうとして、不意に腕を取られる。
「何をしているのかしら、秋月龍人。貴方はこっちよ」
何を言われているか全く意味不明。腕をとられ入って行く先はーー女湯。って、おい!!
「何をかんがえ!?おい、聞けよ!!」
足に渾身の力を込め、止めようと必死だが全く効き目がなく、遂に彼女達の声が聞こえる距離まで近づき扉を全力で掴む。
その抵抗に片桐は首を傾げながら、さっきよりも強い力で引っ張られ······俺は脱衣場へ飛び込む形でーー顔から床にダイブ。
「ひぃ!?」
聞いた事も無いような声が聞こえる。顔を上げる訳にもいかない。どうしてこうなったか、全くの意味不明。
俺をここまで引きずりこんだ張本人は、何の気無しに後ろから歩いてくる音が響く。何の冗談なんだこれは?嫌がらせ?こんな堂々と?
「何をしているのかしら?秋月龍人。早く私の背中を洗いなさい」
何を言っているんだこいつは?意味不明過ぎる。
何がどうしてこうなったというのが、全く理解出来ないまま服を脱ぐ音が聞こえ。準備が出来たのであろう······
原因を作った張本人は、悪びれもなく俺の腕を引き上げる。
「ま、まて!!落ちつけ!?何がどうしーー!?!?」
目の前に見えるのは、真っ裸の女性。何も見にまとってない。意味不明、困惑。
あまりの衝撃に、クラクラと視線が回る中、片桐はただ一言こう言った。
「いつも気に入った相手に流してもらっているのだけど文句あるのかしら?」
「それをここでするな!!」
こんな発言に、この場の全員がそう言ってしまった