様々な人達の中で~仕組まれた罠~
広間の中の全員が壇上の女を見やる。何を言われるのだろう?と、そんな光景の中壇上の女はスタンドマイクを持ちながら、この場の全員を見るように顔を動かし、息を吸い込むと話を始める。
『さて、この場に残った。ということは、皆さんが説明を聞くということでいいのかしら?』
「何でもいいから、早く初めてくれないかなー?あんたが言った通りの願いが叶うっていうなら、ボクはやりたいことがあるからさー」
小さな体躯は、相変わらずテーブルに足を乗せながら続きを促す。その言葉に満足するように、壇上の女は説明を再開する。
『いいわ、では再開しましょう。そもそも皆さんは、どうしてこの場に集まったのか?理由はある程度把握してるわよね?』
「ワタシ達が選ばれた存在だからか?そもそも、それがおかしい話だろう?どうして、どうやって、何を基準に選んだと言うのか。そこを知りたい所なのだが?」
赤い髪を後ろに束ねる少女は毅然とそう言い、壇上の女は頷きながら、その問いに答える。
『その通り。あなたがたは選ばれたの。では、その問いに答えましょう。まずは、ここにいる人達は、それぞれが年齢、性別、生まれや貧富、職業、思想や、行動理念も違うわ。それにはーーこれから行うこの計画についても、話をしなくてはいけないわね。そもそも、あなたがたを選んだ基準も······これをしなくては話にならないもの』
壇上の女の声に、全員が顔を見合わせる。計画と言うと······さっき言っていたループなんとか?の事を言っているのだと思うが。俺達がそれを知ったのは、今のこのタイミングのはず。どういうことだ?
『永続現実未来世界ーー【永久的に現実が続く未来の世界】を意味しているわ。一見聞くと意味不明で、無茶苦茶な世界のように聞こえるでしょうね。これは、ある意味では叶えてあげられるのよ。私が考案したVRMMO。あれを基盤としてね』
「待ちなさい。貴女の言ってる事が言葉通りの意味を持っているとしたら、それはーー不老不死になるということ?」
OL姿の女性は睨み付けるようにそう問い掛け、壇上の女は肩をすくめながらその問いに答える。
『不老不死ーーという認識は正しくないわ。人には寿命があるもの。その寿命を永久的に持たせる事は·······不可能よ。当然のようにーー病死、事故死、自殺。そう言った類いも防ぐ事は不可能でしょうね。それから、戦死』
「ん?ちょっと待ってくれ。戦死とはどういうことだ?戦争はVR主体の話ではなかったのか?いかに超絶最強の俺様でも、人を容易く殺せる世界は望んでいないぞ?」
筋肉マッチョは、意外に冷静な人物なのかもしれない。最初のあれを見直すべき所だな。
『容易くは殺せないわ。そもそも、死の概念が稀薄過ぎるわね。人の命は、等しくあるようで等しくないのよ。今の最大の死因の原因は知っていると思うけれど、VRに没頭し過ぎてそのまま死んでしまうのよ。これが、VR依存症。俗に言うーーVRRDね。日本語に訳すと、仮想現実没入衰退死症候群の略式ね。原因はそれぞれが違うわ。多くは、栄養失調等が挙げられる原因の一つとなっているわ』
「あーそれわかる!!そっちの世界で食事なんか済ませちまうしな。おかげで飯食った気分になるから、全然物食わなくても平気だしよ。俺はーこっちの下らない世の中よか、あっちのほうが好きだし。あっちの世界はなんつーか、自由過ぎて楽しいしな!俺はあっちで寝泊まりもしちまってるし、もしかしたら、その病気みたいなもんなのかもしんねーしなあ」
ギャルの女は、まるで男のような喋りかたをしながらそう言い。筋肉マッチョの男は、そんなギャルの女を見ながら首を静かに振る。知り合いなのかもしれないな。態度とか仕草が······何となくそう思わせる。
「僕、僕もそれは言えるねぇ。こっちは皆が皆、僕をーー僕を人だと思ってない扱いだから!悔しい、この悔しさや憎しみを、僕は、僕はぁー理想の世界に僕の、僕のお嫁さんとしてね。僕だけ、僕だけのキャラクターを作って愛でているのが凄く······楽しいのさ。それが動いたり、胸が動いたり、どっかのオフパコのクソ男が来たとしても······それを遊んでやるのが凄く楽しいねぇ。ああ、けど勘違いしないで欲しいなぁ~僕、僕は、女性も好きだからねちゃんとさ。ヌフフ」
そのセリフに、場の女性陣が全て凍るような目付きになる。この巨漢には、喋らせないほうがいいのかもしれない。自分の今後の為にもだ。
「······ネットの世界に入り浸るのが原因でそれが起きたとすれば、そもそもネット自体を閉鎖しないといけない。ネットを閉鎖すると言うことは、通信に関する問題点が浮上。ネットを完全閉鎖した場合、通信機器は壊滅的打撃を受ける。それをせずに、ネットの死亡動機を解決するには······ネット自体に転移させればいいーーそういう事を言いたいのね?」
忙しなく動く指が異常な速度で端末を叩きながら、猫耳が生えた眼鏡の少女はそう言い、壇上の女は頷く。あの猫耳眼鏡少女は、話を聞いていないようできちんと聞いていて、それの答えに導くような事が出来るようだ。
『その通りよ。この計画は、様々なVR依存の問題点を解決させる為の方法でもあるわ。今の人類にとって、情報伝達機能は、必須の情報網であり、必須の技術でもあるのよ。これを完全撤廃した場合。人類は少なくても数年後には死滅してしまうでしょうね。なにせーー通信技術、兵器制御技術、人民の情報化社会。生産するための能力すらままならないのよ。天候を制御するあのドームですら、破棄せざる終えない世界が······将来には待っているのよ』
「お待ちなさい。貴女が言っている事は理解出来るわ。VR廃止については、断固拒否を申し上げるとしてーー貴女が言うことを現実的に行うとした場合。核燃料のような······莫大な燃料が必要なのも承知の上で言っているーーとしたら。貴女は······世界を牛耳るおつもり?」
とんでもない髪型の少女は、自分の手の甲に顎を乗せ。挑むような視線を壇上の女へと向けるとーー
静かに足を組み直す。まるでどこぞの女王のようにだ。
『その心配については、WELとの連携作業により解決しているわ。そんな心配よりもーー貴女は、今後の身の振りをよく考えるべきね。貴女の居場所ーーたった一言で、無にしてもいいのよ?······あら?そこの番犬よく躾してあるようで、何よりだわ。上手に手懐けなさい』
その声で気付く。
長身の執事の格好の男は、音すら立てずに少女の前に移動していた。
その執事を宥めるように少女は腕を取り、押さえつける。一体どういう関係性があるのか?謎過ぎて全く解らない。
「プロトニウムって······核?のことだよね。そんなの使うのって、人体に影響はないのかな?被爆した人だって、まだ大勢いるよね?愛はーー正直嫌だなあ」
愛衣さんは不安そうにそう言い。柳田がほんの少し前に出て、壇上の女へと指を指しながら口を開く。
「どういう計画か全くもって知らないがよ!!あんたらに襲われてーーオレ達はここに来たの忘れてねえだろうな!?その上で、こんな怪しい計画を聞いてるがよ······どう考えても、望みが叶うようには聞こえねえぞ?」
「落ち着いてやっくん!!また撃たれたらどうするの!?」
彼女は、柳田の腕を掴みながらそう言い。こっちに向けられる銃口を睨むように見ながら、こいつらを庇うように前に踏み出す。
向いていた銃口が、一斉に上げられる。香月が前に出てきたせいだ。
「まあまあ、依頼主の話を最後まで聞いてあげたらどうかな?自分もね······この計画は知らないから、興味があるんだ。それにーーこの場の人を傷つけるような事はないよ。そこはあり得ないからさ」
帽子を掴みながら香月はそう言い。銃口が向いてないのを確認しながら、俺達の横を歩く。
壇上の女はくすりと笑い、話を続けるようにマイクを持ち直す。
『そうね。穏便に済ませたかったけれど、手荒な真似をしたことは謝るわ。ただそうねーー非常に言いにくいけれど、貴方達は······私の賛同者を二名。殺したじゃない?』
周囲が静寂に包まれる。何の話をしているんだ?と思うより早く、結果がそこに現れる。
大きな扉が開く。黒いレインコートの二人組が、大きな台車を押してくる。
「な、んだ······これは」
所々で悲鳴が上がる。
そこにはーー
同じレインコートを着たまま、ガスマスクを付けていない40代?ほどの男のバラバラになった死体が積み上げられ。更にもう一つには、もっと若い男のバラバラになった死体が積み上げられている。
「おまえ······何をーーしたんだ!?」
俺の叫びにーー壇上の女は高笑いを上げる。
俺達の周囲には誰も近寄らない。全員が疑問を抱く目をしながら、俺達を見る。
『答えは、そこにあるじゃない。秋月龍人ーー貴方達は、襲われた。しかし······殺す気がないのは、事実皆さんおわかりですね?無傷のまま連れてくるように。それが、私の賛同者へのお願いだったからよ』
何を言っているんだ?これはなんだ?まさかーー
『貴方達は、襲われた······と言っているけれど。皆さんはーーどうやってここに来たか?よく、思い出して下さい。我々は、なんら物理的手段はとっていませんね?』
「ふざけるな!!そんなデタラメーー」
俺の声は、他の人の頷きによって止まってしまう。
あり得ない事実に俺達は顔を見合せ。壇上の女はその姿を見ながら笑い続ける。
『あらあら、貴方達は嘘をつくのがとても上手ね。尊敬してしまうわ。仲間というのはーー素晴らしいわね?秋月龍人』
「嘘を言ってるのはあんたでしょうが!?いきなり銃を撃ってきて!あたし達はナイフで脅され、助ける為にたーくんや!やっくんが!どれだけ怖い事かーー」
前に進み出ようとした彼女目掛け、香月は唐突に腕を伸ばす。手にした黒光りのソレを見て、俺は即座に反応ーー瞬間的に腕を叩く。
黒光りしたソレを落とし、反応するように香月は後方へと踊る。
俺は追従するように前に出て、香月が微笑みながら······指を落としたソレへと向ける。横目で見ながら、急停止。
「熱くなりすぎだね。悪い癖だ、昔からのね。よく見るといいよ。ソレーー何だか解るよね?」
そう言われ、落としたソレを恐る恐る手に取り、俺は······やられたと理解する。
見た目は完全に銃そのもの。しかし、予想以上に軽いソレはーー俺の思考を止めるように、香月はソレを手に取り、引き金を無造作に引く。
「パーン。カッコいいよね?パーティーグッズなんだこれ。精巧に作られているからねー回転式拳銃の形そのものだし、一見したら······見間違う可能性はあるよね?君はーー大事な者を守る時、冷静に物事を見ない癖があるからさ」
香月の言葉に俺は愕然としながら、その一連の流れを見ていた人達が、俺へと向ける眼差しは最悪の一言でーー
『さすが······正義の味方の秋月龍人ーーその動き、その速さ、判断力。素人では無理な行動力ね。貴方が、バラバラにした!!私の賛同者も!!そうやって······殺したのかしら?』
「違う。そんなことするわけが!!違う、違うんだ!!」
周囲からの無言の圧力は凄まじいものだ。
鋭い目付き、興味深く見られる視線、疑問を含んだ視線。様々なものを受けながら手を振りかざし、再度否定の言葉を言いかけると、香月が俺の肩を叩く。
「無駄だよ。君が打倒出来る能力を持っている以上。そこに積み上げられたのがーー正解だというのは、変わらない事実さ」
香月の言葉に、横にある死体をチラリと見てから後ろをみやる。何とも言えない表情をしながら、皆が立ち尽くす。
「君、嵌められたね。残念だけど······この場では無理だ。依頼主が自分の主人だからね。ごめん」
耳打ちしながら、香月は遠ざかる。俺はただーー立ち尽くすしか方法がなく。
『さあ、話を続けましょうか?そこの死体は片付けてもらうわ。皆さん、大丈夫です。そこのグループには、手出しはさせないわ。さあ、続けましょうか』
そんな声に、態度にーー俺は歯を食い縛る。最悪の状況のなか、台車が音を立て離れていく。
「少し待ってくれない?」
そんな中、声をあげたのはOL姿の女性だった