戦闘家政婦―ジュン 3-3
「安西さんはどうして粒子再生医療を?」手渡された二本目のコーラのボトルを受け取り、早速キャップをひねる。ジュンも興奮で喉がからからだった。安西はコーラを一気に飲み、喋りすぎて乾いた口腔を潤した。
「そりゃあこの技術さえあれば病気や怪我で損失した部分をそっくり元に戻せるんだ。ノーリスクでね。極端な話、体を丸ごと作り変えることだって出来る。今まで切り取るか殺すしかなかった癌細胞だって、細胞を外部から作り変えてしまえるんだ。いわば古今東西富と権力を得た者達が望んだ不老不死が実現できるのさ」
「不老不死って……そんなに望むものなんでしょうか」
「君はまだ若いからそう感じるかもしれないけどな。俺くらいの歳になると老いを意識しだす。酒には弱くなる、怪我の治りも遅くなる、疲れは取れにくい、筋肉痛が次の日に来ないなんてぇな、否が応でも若いころを振り返るようになるものさ……君はどうなんだ?」
「え? 僕はそんなこと思ったことはありませんけど?」
「バっ、ちがうよ。そもそも訊くのを忘れていたが、君は何故粒子再生医療なんかに興味を持ったんだ?」
ジュンはここに来た目的を忘れ科学談義に花を咲かせていたことに気づいた。
「祖母の脚と、友達の……友達の身体を治してやりたいんです。現場の人とお話が出来れば希望も生まれるかなって、それを伝えてやれればと……」
時計の針は零時を過ぎていた。「そうかぁ。純粋だな、君は」と言いながら彼は右腕の時計を読んだ。
ジュンには自分に対する安西の評は正直心苦しいものがあった。本当はそれだけではなかった。安西が粒子再生を研究しているなら、自ずとディックにも関心を示しているはずだと踏んでここに赴いたのだ。
だが今日の時点では彼の口からはヴィ・シードという言葉は聞けなった。
ジュンはまだ話が序盤だと思いつつも、さすがに座を辞することにした。安西はすっかりジュンの事を気に入ったようで、いつでも来ればいいと言う。
飛び込んできたジュンもジュンだが、高校生の自分に対しここまで真摯に向き合ってくれるなど思ってもいなかった。ジュンは何度もお礼を言い安西に頭を下げた。
「時間があるときにまたゆっくり来いよ。今度は完成品を見せてやる」
その安西の言葉を胸に、真夜中の街道を走るジュンはヘルメットの中で知らず微笑んでいた。




