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D線上のクオリア ー家政婦は戦うー  作者: 相楽山椒
第一部 戦闘家政婦 前編 エピローグ
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コンクルージョン

 コンプレッサーが絶え間なく音を立てていたあの家。父がいつも背中を丸めて内燃機関エンジンと会話をしていたあの工場。


 父が突然倒れたあの日から恵の生活は一変した。


 あの時の自分に問うてみたい。こんな生活を望むか、あんな家族と暮らしてゆけるか、誰かの命を奪ってしまいかねない事に加担ができるか、と。


 ――いや、愚問だろう。


 今、恵の手のひらの上にあるもの、そして周囲を取り巻くのは紛れもなく彼女が必要とし、彼女を必要とする人々だ。今更疑いようもなければ振り向く虚しさも感じない。


 前を見ろ、前に進め。



 唾を飲み、気圧変化による耳閉感を取り除くと恵はすうっと息を吸い、シートベルトを解除する。腰部のアタッチメントラックにDOSをジャックインすると立ち上がり、天井を這うレールグリップを握り後部ランプの方へと体を向ける。今作戦のバディである吉川もそれに続く。


 季節がどうあれ高度千メートルの上空を高速で移動しているため、機体が冷やされてまるで冷蔵庫の中に居るかのように寒いのが常であるが、各員が着用するフィールドスーツの保温性能により暖房をことさら効かせずとも、十二分に通用する。


 恵と吉川はヘッドギアから呼び出した空間投影ディスプレイを開き、地上待機しているDMM公安部機動隊との通信を始める。

  

「まいどおおきに、こちらゴッズっす、現場各員に発令ぇ。これより作戦行動MT78S21934発動、現場指揮権は俺G4ねぇ。只今よりディック制圧行動に移りまーす。付近住民の避難と安全確保を厳に、所定の位置にたのんます」


「ちょっ、ヨッシー! 何それ? ちゃんと言いや、通信こっち渡して! ――えー、G5不知火はフォワードを担当します。対象はTタイプの武装ディック五体、公機二二八、三○五、ウチが先行して叩くからその間にディベロッパーの確保。よろしゅうに!」


 眉をひそめ吉川が恵を見つめる中、地上待機しているDMM公安機動隊の通信が半笑いを含んで帰ってくる。


《公機二二八、了解ぃ。ゆるいなぁ自分ら》


《公機三○五、了解、がんばってや》


 通信を聞きながら恵は何がいけないのかと、人差し指を顎に置き、眉をひそめた。


 日暮れ時の堺市の工業地帯上空を飛ぶGODSの小型兵員輸送機は、数十年も前に米軍および自衛隊にて採用過程で物議を醸したV―22(オスプレイ)を模し、ダウンサイジングしたプロップローター式のVTOLヴィトールである。


 転送装備ダイレクトのDOGの部隊を輸送するために装備の同時輸送は必要がないため、最大積載量を犠牲にし、脚力と隠密性、運動性能を優先する仕様となっている。


 アメリカ本土では軍にかかわらず警察等の特殊部隊などでも運用されており、機首の半球面のキャノピーと丸い胴体のため『アウル』という愛称で親しまれている。


 アウルは旋回し、未塗装のジュラルミンの機体を一瞬輝かせると高度を下げ、DOG射出体制に入る。


「DMM大阪支部のやつはホンマに働いてるん? 出動回数が減ったようには思えんねやけど」


「放課後チョロっと部活動してるみたいな学生のお前はまだええわい。最近一日に二件三件とか当たり前やぞ、忙しゅうてしゃあないわ」


「そんなんしゃあないやん! ヨッシーらは本業やねんからそれくらい働きいや!」



 アウルの機体の後端部開口部ランプには降下用のカタパルトがあり、スカイダイブの要領で空中に飛び出し、滞空中にDOGの転送装備を行う。DOGによる降下作戦はパラシュートを使用せず、脚部の緩衝能力リニアバウンサーのみで着地するのである。


「くああはは、何回やっても低高度からのランディングは緊張するわ」カタパルトレールのハンドグリップを握り吉川がタイヤの空気を抜くかのような笑いを漏らす。


 カタパルトとは言えど、可倒式のアームで機外へ背中から投げ落とされるといった形容のほうがふさわしい仕組みで、スタンバイ状態の恵と吉川は、となりあった状態で着座姿勢で固定される。


 足元のランプハッチが開き同時に二人を固定したレールがせり出し、宙ぶらりんにの足下に堺市内の街が見える。人を判別できるほどの高度、つまり吉川の言う低高度がいかに低く、DOGの装着時間に猶予はないということを示しているのだが、腰部ラックにジャックインしたDOSは射出と同時に認証コードを自動転送申請オートリーディングするようになっているため、転送装着ミスによる着地失敗ということはない。


 恵は白い息を両手に吹きかけるようにして思考を巡らせる。出動までに何か気になることがあったのだが忘れてしまっていた。それを懸命に思い出そうとしていたのだ。


《射出カウント》パイロットの声が骨伝導インカムに響き、いよいよ作戦行動に突入する緊張感に空気は塗り替えられる。


 その時だった。


「ああっ! しまったぁー」と、突然恵はグローブの手を額に当てて目を瞑る。


「なんや! なんか忘れたんか?」吉川が焦った顔を向ける。


「旦那さんのスーツ、クリーニングに出すの忘れとった!」


「……っあー。帰ったら車出したるさかいな。閉まっとったらクリーニング屋にかちこんだるから、今はディック片付けるのに集中しよや、な?」


 次の瞬間、夕闇が迫る堺市の空に、二つの人影が投げ出された。


コンクルージョンとはイントロダクションの対になる言葉です。


これで一括り、という感じですね。ではでは、また次回の更新で!


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