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D線上のクオリア ー家政婦は戦うー  作者: 相楽山椒
第四章:恵 第五話 「GODS壊滅 後編」
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戦闘家政婦―恵 5-3

「勝負に甘言は禁物だ、騎士たるもの殺るか殺られるか、どちらかひとぉつ! それこそが騎士道なり!」


 その時だった。恵は背後から大質量の衝撃をくらい一瞬視界を奪われる。

戦意を喪失したと思っていたマンティコアがふたたび襲いかかってきたのだ。


 凶悪な人面に並んだ鋭い牙がオーバーシェルの肩に噛み付いて砕いた。恵は残る右腕でマンティコアの顔面を殴り飛ばすが、同時に背中に衝撃をくらいオーバーシェルが機能停止したことを知らせるアラームがバイザー内に点灯する。


「なっ、なんや! 桧山さん! 動かんようになったで!」


 オーバーシェルの動力が切れ、実質ただのおもりを纏う体となった恵は身動きがとれなくなる。目視できる範囲で確認したところ、どうやらマンティコアが持つサソリの尾がオーバーシェルの背部に突き刺さったと思われた。


《G5、動力をやられた! パージしろ!》


「パージって何!」


《除装! 接続解除! っああ! こっちでコントロールする!》


「なんやこれ! 役立たずやな! もう終わりかいな!」


《戦略機として有用なんだよ! お前みたいな超近接格闘するためのものじゃないんだよ!》


 その姿をチャンスと見たのか、正面の騎士は突きの構えのまま、恵へと突撃してきた。


「あかんあかん、やばいぃいい! パージパージパージぃい! はっやっくぅ!」


 バイザーのモニター内に解除を知らせるインジケーターが点滅し、オーバーシェルは接合部に内蔵された火薬の衝撃でアウターシェルと分離して外形を崩し、不知火を拘束から解く。


 破裂音と共に、パージの勢いで前へと押し出された恵は正面から襲いかかる騎士の直前に着地する。


「きっ、騎士道が聞いて呆れるわ!」涙目のまま恵は叫んで構える。


 身体整合性の高い本来の姿のDOGである不知火は恵の意志の通りに動作し、騎士の剣の突きを紙一重で躱し、腕を瞬時に捉えると進行方向へと華麗に流し、股間を蹴り上げて投げに転ずる。


 騎士は自身の発した慣性と恵の渾身の投げの勢いでマンティコアに向かって飛んでゆき激突する。騎士は股間を押さえながら悶絶してマンティコアの脇でひれ伏している。


「往生際が悪いやつはええ死に方はせんもんや!」と叫んでマンティコアに向けてDOSを一閃する。


 その光波は彼を両断することなく顔面に傷をつける程度だった。戦意を奪うには十分だと判断し出力を抑えた結果だった。


 新たにDOSを得た誠一と樹菜子も、そして柴島も中枢への攻撃を避け、DOSの出力調整をして顔面や末端にあたる部分を重点的に攻撃していることが伺える。


 人は、いや、生物の本能に根ざしたものは顔にダメージを受けると戦意を喪失しやすいというのはよく知られた喧嘩の基本で、指先や足先の損傷は単純に激痛が走るため、少ないダメージで相手の動きを制することができる。


《ぶった切ってやりたいところだけど、後々夢見が悪い》と樹菜子。


《うちの庭に死体の山を築くと掃除するのが大変だからな!》と誠一。


《今回でディベロッパーを大量確保すればヴィ・シードの手がかりも明確なものになる。道理だ》と柴島が言う。


 それらを聞いて恵はバイザー内でほくそ笑む。


 不利を悟ったのか、現像架空体オブジェクトは次々と消えてゆく。怪我を負った現像義体サブジェクトは現像が解けて痛みに悶えている。


 そこへ公安がなだれ込んできて順次確保されてゆく。逃げようとする現像の解けたサブジェクターたちはポリカボネート製の盾を構えた機動隊の警棒でタコ殴りにされる。


 恵は彼らを戦闘に巻き込まないように気をつけながら、柴島と合流し、なお抵抗をやめず暴れまわるサイクロプスに立ち向かう。一つ目小僧ではない、こちらはリアルな独目巨人サイクロプスだ。


「まだこんなんおったんか!」


「恵! 機動隊が突入を始めた。これ以上戦闘を長引かせられん! 止むを得ん、中枢をやれ!」


 ぎりと歯を食いしばり、恵は柴島の大黒の後につき身の丈四メートルに達する巨人に飛びこむ。相変わらず巨体は緩慢だ、柴島と恵は両の足を同時に左右から斬りつけ動きを止める。


 柴島はすかさずスイッチバックし跳躍、そのまま二の腕を狙いにDOSを振る。その切り込み線は完璧だった。しかし大黒の振るうDOSはエネルギー切れを起こし会心の袈裟斬りは虚しく空を斬った。


「柴島さん!」


 恵が叫ぶが早いか、サイクロプスは腰をスイングし右肘を柴島へとヒットさせた。弾丸のような勢いで大黒は庭の茂みへと吹き飛んだ。


 巨大な一つ目に捉えられ、次いで大質量の蹴りが恵を襲う。


「中るか!」恵は瞬時に体を反らし、眼前を掠める左足を渾身の力で捉え、捻りを加える。不知火の踵に装備されたバインダーを地面に食い込ませ、下半身を固定する。サイクロプスは不知火を振りほどこうとして、取られた足を引き抜こうともがくが、巧みに足首の関節を極められてうまくバランスが取れなくなる。


「覚悟しいや、デカブツ! っだぁああ!」


 恵はカーボロンメッシュのドライブを焼け切らせながら、極めた巨人の足首を思い捻じり切り引く。サイクロプスはつんのめり巨体を無様にうつ伏せにさせ地面に打ち付ける。


 恵は即座に転げた巨人の両足を取り、二本を交差させて背中へ向かって強引に逆海老反りに引き付ける。


 サイクロプスの巨大な脚を両脇に抱え、両足で背中を踏みつけ渾身の力でその四メートルの巨体にかける技の姿は似ても似つかないものだったが、所謂スコーピオン・デスロックそのものの効果を発揮し、腹ばいになったサイクロプスは両腕をバンバンと地面に打ち付け苦しんだ。


「どぉりゃあああ! ギブかぁ! おら! おらおらおら!」


 やがてサイクロプスの抵抗する力は弱まり、事切れたかのように沈黙し、瞬間に質量が消えてゆく。現像が解除されたのだ。


 ほのかな光と残留粒子が消滅してゆく中で恵は尻餅をついて脱力した。辺りを見回すと全てのDICは消滅していた。あとは無駄な抵抗を続ける生身に戻ったサブジェクターたちが機動隊にタコ殴りにされているだけだ。


 焼けたドライブはいやな臭いがする。雨は戦闘終了を待っていたかのように小降りになり、空には月が顔を出していた。恵はバイザーを引き上げ息を整え、柴島を探しに奥の茂みへと走る。


「柴島さん! どこ! くにじ……」

 茂みをかき分けたその先の暗闇に人影が見えた。それは柴島ではなく、よれよれのビジネススーツを着た一人の若い男だった。男は庭の塀に背中を付け怯え切った表情で不知火を見つめていた。


「だれや……」


 恵はDOSを一閃し、男の頭を掠める。


「いっ、や……おれは、通りがかりの者だ、騒ぎに巻き込まれただけの一般人だ」


「ほう? なんにしてもここは他人の敷地や。住居不法侵入やな」


 恵は次々と入る《制圧完了》の通信を内耳に聞きながら、「チェックアウト」と呟き、不知火を除装する。


「お、おんな、のこ……?」


 男が目を白黒させているのも構わず、無言で歩み寄り、胸ぐらを掴み上げて壁面に押さえつけた。


「ぐ……なっ、なんだよ、なんなんだよ! わかったから警察に突き出せよ、暴力はやめてくれ!」


「目的はなんや! あんたらの目的はなんや! なんでこんなことをした!」


「なんのことだ!」


「あんたがサブジェクターやいうのくらいお見通しや!」


 すると抵抗を試みていた男は観念したかのように力を抜いて笑い出す。

「俺が何をした? 証拠なんて何もないじゃないか、やめてくれ。逆に傷害で訴えるぞ」


 開き直った態度に恵は手を離し、数歩下がるとすっと息を吸い、DOSを振って男の背後の壁を切り裂いた。轟音とともに壁が崩れ落ち、男の背後壁にポッカリと穴が開く。男は何が起きたのかわからないといった顔で呆然と立ち尽くしている。


「――証拠はあらへん。その壁の穴から逃げるなら逃げても構わん」恵はDOSのきっさきを男の鼻先につきつけた。


「ただな、一瞬でもこれに触れればあんたの鼻は消えてなくなる。鼻のない婿さんでもハナムコになれるんかいな?」


「なっ……なんで……」


「残念ながら、見た顔や」


恵は男の顔に見覚えがあった。市内のイタリアンレストランで食事をしていた結婚間際のカップルの男。恵の隣の席にいたあの関東弁の男だった。


「大阪での仕事ってのはこれかいな、ええ? 男が仕事しに来たゆうんやったら最後まできっちりケジメ付けんかい!」


 男は膝をガクガクと震わせながら「たっ、たすけてくれぇえ! 悪かったよ、もうしない、馬鹿な考えだったんだ、ゴッズに勝てるわけなんてなかったんだ! おねがいだ! 見逃してくれ! あんただって事情知ってるならわかってくれるだろ! 現像はこれで最後にするつもりだったんだよ! だから見逃してくれよ!」涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃに汚しながら、恵の前に跪いた。


「――もう、しない、ゆるしてくれ、わるかった、やと? 命を天秤にかけた代償はでかいってことを知らんとなぁ。周り見てみぃ」


 恵は茂みから男を引きずり出して、月明かりに照らし出された戦闘後の山吹家の凄惨な光景を見せつけた。所々に分断された肉塊が転がり、あたりは血しぶきで緑の芝が赤く染まっていた。


「ひっ……ひいっ!」


肉塊チャンクにされへんかっただけでもあんたは幸せもんや、なあ? ……せいぜいその鼻でしっかり臭い飯食ってきいや、にいちゃん」


 複数の機動隊員が駆け寄ってくるのを見て取ると、恵はDOSを仕舞い、男の背中を足蹴にすると、柴島を探しに再び茂みの中へと入っていった。


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