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D線上のクオリア ー家政婦は戦うー  作者: 相楽山椒
第四章:恵 第五話 「GODS壊滅 後編」
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戦闘家政婦―恵 5-1

 ゲートの先で待っていたのはまだ完全機能している本部のコンソール室に座り、外で戦闘をしているDOGのバックアップに追われている篠山と、外部との通信に専念するGODSの作業服を着込んだ大輔の姿だった。


「G3、現アウターシェルをこちら側のコントロールで強制破棄パージする、打ち込みはあと十回が限度だ退け! G2、戦闘継続は可能と判断する、G3を援護しつつサブジェクターの対処に回れ。G1、シェル及びドライブが機能していない、全装備を破棄して退避しろ。セイ! 何回も言わせるな!」笹山はコンソールにインカムを叩きつける。これほどまでに苛ついている篠山を見たのは初めてだった。


「笹山さん! それに旦那さん! 退避してなかったんですか!」大輔と同時に笹山は今しがた気付いたとでもいうように顔を上げた。


「巫女さ? ――あれ、恵ちゃんか!」


「居残ってるのはわしらだけや。恵こそなんで戻ってきた? はよ逃げぇ!」


「ウチも出ます!」


 笹山は腰を椅子に落として頭を掻く。


「バカやろ。この状況解って言ってるのか? ゴッズは終わる。限界まで持ちこたえたとしてもせいぜい十分だ。今オヤジがD&Dに打診した」


「D&Dに? ここに……来るんですか」


「ああ、それでも関東くんだりから最大戦速で飛ばしても十分じゃ無理だ。あいつらに退避しろと言ったはいいがディック放っておいてどこに逃げられるかって話だよな。歯がゆいもんだ、穴倉のコンソールから指示出すだけでなにも出来ねぇってのは」


 よく見てみれば大輔は作業服のジャケットの下にフィールドスーツを着込んでいた。


「笹山、後は頼む」そう言うと大輔はジャケットを床に脱ぎ捨てた。


「旦那さん……?」


「吉川が行方不明や、これ以上わしがここにいたかて意味あらへんからな」


「ウチが行きます! ハンガーに不知火がまだあります! 使わせてください!」


 大輔がヘッドセットを装着し、恵へと体を向け重苦しい口を開く。


「恵……外の状況は見たな? あいつらは退避なんかせんやろ、常に死ぬ気でおる。そんなふうに扱ってきたのはわしや。そんな奴らだけがわしの周りには残った。生き残った奴らばっかりが残った、それがゴッズや」大輔はタクティカルジャケットを着こむと、DOSを一本脇差にして出口へと向かおうとする。


「だから! だからみんなを助けるためにウチが出るんです! ウチが出てみんなが助かる可能性があるなら出るべきや、そうちゃうんですか!」恵は大輔の背中に向けて叫ぶ。


「お前に、そこまで背負わせることはできん!」対して、大輔は一喝し恵を押さえこもうとしたがそうはいかなかった。


「じゃあ、何を背負えってゆうんですか! ここまでむちゃくちゃにされて、だまって指くわえてろってゆうんですか? ウチの家族が殺されそうになってるんですよ、もしこのまま何もせんかったらウチは一生お天道様に顔向けができん。ウチにもケジメってもんがある! ウチにとって大事な物や! ウチんとって大事な場所はここや! 山吹の、ゴッズのみんなは大事な人らなんや! 家族なんや!」


 一歩も引く気はなかった。どれだけダメだと言われても、彼らを殴り倒しDOSをここから奪ってでも出てゆくつもりだった。大輔は逡巡したまま、恵が入ってきたゲートに手を掛けていた。


「恵姉ちゃん!」


 背後でいつもと変わらない声がした。凛と尊と、桧山がそこにいた。


「凛! 尊に桧山……お前ら! 避難しろっていっただろ!」篠山が驚いて立ち上がると同時に、「尊! なにしとる、お前――凛を頼むぞゆうたやろ!」大輔が尊に向かって厳つい顔を差し向けた。


「大輔さんごめん。僕たちだけ逃げるなんてできんよ。凛だって同じだ」と尊、それに続き「そやで、恵姉ちゃん置いてなんか逃げられへん」と凛が鼻の穴を広げ口を結んだ。


「お前がこっちに向かってるのがダイレクトドライバーの信号でわかってたからな。急揃えだけど出来るだけのことはやった。ホレ受け取れ!」と、桧山は恵に向かってDOSを投げた。軽合金のボディに、手になじむ慣れたグリップ。受け取った右掌から血が胸に向かって流れてくるように感じた。体が熱くなる。


「桧山さん……」


「おやっさん。俺だってここまで関わったんだ、最後まで戦いたい。時間がなくて完璧とは言い難いけど、持ってる力出しきれんのは悔しいんだよ」服や手をしこたま汚した桧山は力なく笑う。


 彼は今までGODSの工作室で不知火に改造を施していたのだという。時間は襲撃開始からわずか三十分程度しかなかった為、開発途上だったゴウテンDOG用の追加外装オーバーシェルの装着のみだったが、完成形であれば装甲を合わせ、DOSの携行数が手持ちの分と合わせると合計五本装備でき、体力が続く限り戦闘継続を延長できる。文字通り徒手空拳のゴウテンDOGにおける重武装フルアーマー化である。


「ダイレクトのアクセスラインは戻してる。予備の二本はユニバーサルで設定してる、お前が使いきれんようなら他の奴らに渡してやってくれ」と、続けて二本のDOSを恵に渡す。


「んで、これでうちのDOSの在庫は最後だ」そう言って手に持っていたさらに二本のうちの一本を尊へと手渡す。


「尊……」大輔は尊を見て漏らす。


 尊はバツが悪そうに「ま、ドスなんて振ったことないけど、女の子に戦わせて逃げるなんてかっこ悪いじゃん? 僕だって山吹の男なんだ。妹の一人くらい満足に守ってみせるさ」そう言って尊は白い歯を見せて、無理に笑う。


 状況はおおよそ想像できた。おそらく凛を避難させようとアウルに乗せようとしたが、恵がこちらに向かっているという情報を知り凛は隠れて待っていた。それを尊が探し回っていたというところだろう。


 ドンという音が建物の奥に響く。


「エントランスが破られたな、いよいよ本丸決戦か」桧山はDOSを握り締め舌打ちする。彼の膝はがくがくと震えていた。尊もDOSの操作を確かめるように手元を見つめたまま固まっている。


「大の大人が、情けないわ――」大輔は歯噛み顔を歪めた。


「大人とか子供とか守りたいもん守るためには関係あらへん! ウチはずっと、いままでそうしてきたんです! ウチは山吹の家政婦や!」


 やがて唇を結び各々の覚悟をそれぞれの瞳で確認しあい、誰彼となく無言で頷きあった。


「恵! わしは先に行く。お前の仁義はお前が通せ、ここは頼んだ!」大輔はそれだけを言い残してゲートの向こう側へと消えていく。


 桧山と尊は互いに顔を見合わせて無理な微笑みを作ると「僕らは入口の奴らを食い止める、恵ちゃんも気をつけて!」と尊が言うそばで桧山も無言で頷く。ところがその桧山に篠山が近づき「桧山、そいつを俺に寄越せ」と言う。


「なんだよ、おっさんはコンソール担当だろ。所帯持ちは引っ込んでろよ」

「お前だってただの工員だろうが。研究室に籠ってる青っ白いお前よりは役に立つ。元自衛官を舐めんな」


「なに言ってやがる、こういう時は若い奴が行くもんだよ! 短い老い先を今更縮めんなって――」


 桧山がその決意が固いことを示そうとしDOSを眼前に一文字に突き出した途端、篠山は目にもとまらぬ速さで桧山の腕を払い、捻りを加え、その手からDOSを取り上げる。


「だいたいオーバーシェルなんてもん俺には判らん、バックアップはお前にしかできんだろうが、お前がここに座れ。それから尊はこいつをアシストしてやれ。俺が突破されてからがお前の出番だ、凛を守れ!」


 篠山は張りだしかけた腹のベルトにDOSを差し込むと、ワイシャツのネクタイを緩め、腕をまくり眼鏡を外した。


「ちっ、仕方ねぇ。こっちの守は俺がやってやるよ! 恵、転送準備に三分だけくれ、セッティングする!」桧山は恵と篠山を交互に見据えて言う。


「俺は先にエントランスの奴を片付ける」とエントランスに続くゲートに手をかけて篠山が言うと「ウチも行きます!」と恵が続こうとする。


 しかし篠山はそれを掌で制して「かまわん、こっちの通路を来れるやつはどうせ小物しかおらん! どうせ一匹ずつしか攻めてこられんなら二人いても同じだ。お前は屋上のプラットホームから外に出て――あいつらを助けてやってくれ。もう一人も死なせんでくれ」と、声を潜めた。


「篠山さん! あとで助けに行く! 五分だけ、いや、三分だけ耐えて!」恵は拳を握り締めて深く頷く。篠山は不器用に親指を立てて、普段ロイド眼鏡で隠されていた鋭い眼差しをにやりとゆがめた。


 恵は負わされたものの大きさを体全体で受け止めてコンソール室から篠山と別れ、エレベーターホールへと向かう。その背中を「なあ! ちょっとまって恵姉ちゃん! 巫女さんのままや!」と駆けてきた凛に引き止められる。巫女装束のまま出撃しようとしていた。さすがにこの上からDOGを装着するわけにはいかない。


「これっ! 頑張ってな!」といって凛が恵のフィールドスーツ一式を投げてよこした。


「うん、ありがとう凛! 行ってくる! 姉ちゃんがみんな助けてくるからな!」


 


 本部屋上階のアウル発着場にたどり着くと恵はブーツを履きグローブをはめ、手元のDOSの握りを確認する。体に張り付くフィールドスーツは微力ながら全身の筋肉をサポートしてくれており、体は弾むように軽く感じられた。


 その場で二三回ステップを踏むと、コードを唱えながら一気に駆け出し、屋上から飛び降りる。


 それと同時に恵の周辺に幾本もの走査線が走り、ついでインナードライブのアウトライン、アウターシェル、オーバーシェルと積層されてそれらの密度が順次増してゆき、実体化して恵の体を包んでゆく戦闘機動甲冑オーバードライブギアと成る。


 アップデートされたゴウテンDOGの転送は、オーダーの発令からわずか一秒足らずで装着が完了するという進化を遂げていた。今まで何度も経験した浮遊感と、瞬時にDOGに包み込まれる閉塞感。そして全身にみなぎる機動。


 オーバーシェルをまとい重武装に身を包んだ恵は、膝を曲げ両の足を確実に地面につけて大質量の衝撃を相殺し、伸身と同時に本部周辺で群れになるDICの集団へと飛び込む。ゴウテンDOG単体とは段違いのパワーを感じる。


 フルアーマー化したゴウテンFADOGファドッグは本来のDOGのさらに外側に纏うゴウテンDOG用の装備追加仕様であり、動力はトルク特性に優れたリニアカロンアクチュエーターを使用するマスタースレイブ方式の巨大な副腕を持つ強襲装備である。豊富が思いつきで設計し、桧山が造ったものの、これといってGODSでは使い道がなかったため御蔵入りになっていた装備である。


 桧山はこれを引っ張り出してきて、サイズの調整と不知火へのマッチングを行い、戦闘モジュールを最新のものに更新していた。


 外見はゴリラのような体格で、サイズは通常のDOGの二倍近くになり、不知火の主腕とリンクして動作する副腕のリーチは生身の倍はある。


 マスタースレイブ方式のオーバードライブと言えばそのままだったが、前面装甲はなくゴウテンDOGの背後から覆いかぶさるような形で背面動力と腕、脚部ユニットが装着される。慣れなければ主腕マスターアーム副腕スレイブアームの動作のずれを操作感覚だけでカバーし、格闘戦を行うのは難しい。


 これは本来は小柄なゴウテンDOGが重火器を扱う際のプラットフォームとして構想されたもので、格闘戦を想定したものではないからだ。


「なんか腕が四本あるみたいで気持ち悪い機械やなあ」間合いをとることが難しく感じられ、うまく扱う自信がまるでなかった。


「感覚で使え、壊しても文句は言わん、思い切りやれ!」その言葉を受け、恵ははたと気づく。


 なるほど、立ち回りをする以前にロングレンジの攻撃で目標をなぎ倒してしまうのだから、本来の格闘技術など目下考える必要はなかった。腕を振り回していればいずれなり中るという感じで恵は捉えた。


 脚部は腕部ほどの攻撃力はないが、大柄な上半身を支える強靭な機構により見た目からは想像できないほどの俊敏性があり、さらに足首から足裏にかけて装備されたリニア駆動のホイールにより素早い移動が可能であった。


 本部付近に群れていたDICの集団はその機動力と攻撃力におののき散り散りになり、改めて戦闘態勢を取り始める。出来るだけ本部の入り口から遠ざけたく、じりじりと間合いを詰めさせてDICの群れを誘う。


 DICの多くは現像架空体オブジェクトだが、端々に命知らずの現像義体サブジェクトも混じっている。完成度はそう高くはなく、昆虫化した部位を持つものや、獣化した体を持つもの、あるいは機械化した両腕を持つものと様々だが、生身の部分も多く残しており、戦闘力には疑問を感じる。


「笹山さん、エントランス付近のでかい奴らを片付ける!」


《おう、小物はこっちでやる、まかせた!》


 その言葉通り、DICの背後からほとばしる光波が縦横無尽に走り、サブジェクトどもを攪乱する。恵はその機に乗じて一気に大型オブジェクト、三つの頭を持つ獰猛な地獄の番犬、ケルベロスの前肢を叩き切って行動不能に陥れる。返す刀で牛頭の巨人ミノタウロスの脇腹を一突きし、ひるんだ膝を真横からFADOGの豪腕で叩き折る。


「どんな大げさなもん被っとったって、中身がシロウトならあんたらなんかクズや! 抵抗出来ひん相手を怖がらせることしかできひん! 臆病者の卑怯者! 顔が見えなきゃなんだって出来るってか!」


 恵は叫びながら手当たり次第にDICをFADOGの副腕に装備されたインパクトナックルで殴り飛ばしてゆく。


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