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D線上のクオリア ー家政婦は戦うー  作者: 相楽山椒
第四章:恵 第四話 「GODS壊滅 前編」
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戦闘家政婦―恵 4-4

 満身創痍だ。大黒はDOSを逆手に持ちビリケンDICの頭頂部分へと深々と突き刺そうと歩み寄る。しかし一瞬巨体が大きく震えたかと思うと、またたく間にその形骸を保てずに分解を始める。ビリケンDICの体は潰れた粘土のように崩れてゆき、やがてその巨大な質量もほのかな光とともに消滅してゆく。何度見てもこの巨大なものが跡形もなく消えてしまう光景は不思議だった。


 野次馬の方から歓声が上がっている。この状況下でもまだ見物を続け、避難しないというのだから呆れたものである。そしてさっきとは打って変わって「さすがは大阪のゴッズや!」「やっぱりわしらの守り神や!」「今年は阪神優勝や!」と、わけのわからない歓声までもが上がっている。


しかし、そんなものに気を取られている場合ではない。「樹菜子さんはどこ! なにやってんの!」さっきから蒼龍の姿が見えない、どこに居る?


 恵は崩れ消えた巨体があった脇を素早く走り抜け、半壊した軒の陰に身を隠す。周辺の住宅街も屋敷も既に停電しており暗闇に包まれている。屋敷の敷地内にはDICどもが徘徊している影を感じる。


 警戒しつつ顔を上げ屋敷の内の様子を注意深く観察する。いつか暗闇で吉川とやりあった模擬戦闘を思い出していた。たった、ほんの数か月前のことなのに、もう随分昔の事のように思える。


 その吉川も投げ飛ばされたまま姿は見えない。明りを探すのではなく暗闇を見ろと散々言っていた誠一も既に次の戦闘に対峙している。


 DOSが使えない今、庭先で新たに現れた馬ほどの大きさのユニコーンと思しき現像架空体オブジェクトを相手にマニピュレーターを叩き込んで応戦している。


 ゴウテンシリーズのDOGに共通する構造だが、DOGの肘膝関節は装着者と共有するレイアウトに配されているが、肘から先の前腕、膝から下の下肢ともに標準的な人体のプロポーションよりも若干長くなる。これはDOGの前腕部、下肢部に装着者の手足が収まっているためで、外側から見える五本指のマニピュレータおよびくるぶし以下の接地部分であるバインダーストラットは装着者のものではない。


 特に腕部末端のマニピュレーターは、装着者の繊細な手の動きを再現する複雑な機構を持つため、格闘戦闘で殴打するような場合は拳を保護すると同時に攻撃力を上げるインパクトナックルというナックルガードが装備されている。


 しかし赤鬼の潰れたマニピュレーターを見るに、既にインパクトナックルが動作していないことは推察できる。もしくはDOGそのものが動作していない可能性もある。


 急がなければと思ったその時、視界の隅に青白い光波が舞うのが見え、そちらに目を凝らした恵は青ざめる。満身創痍の樹菜子が屋敷の内部で暴れる怪人型DIC、現像義体サブジェクターを数体同時に相手をしていた。


 樹菜子がかろうじて構えるDOSの光波が照明代わりとなって、その状況がおぼろげながら判断できる。


 アウターシェルの半分が削ぎ落ち、もはや原型を保っていない。それどころかインナードライブのところどころは綻び、左半身のパワーアシストが効いていないことが動作からうかがえる。


 樹菜子の持ち前の格闘能力でそれをカバーしてはいるが、これほどまでのDICを相手にしていればそう長くは持たない。いずれDOGそのもののエネルギーが切れる。


 もう少しだけでも持ちこたえてくれ、そう念じながら恵は屋敷の裏手へと走りGODSの本部へと向かう。DOGが起動しているということは、GODSのバックアップ要員の桧山と篠山がまだ残っているはずだった。


 しかし予想していた通り、GODSの本部の入り口にあたる部分はサブジェクターとオブジェクターが大挙して埋め尽くされていた。ほんの三十分前まで町は静かだったはずだ。DICは突然現れる。そのことを最もよく知る自分たちが、このように一度に複数同時の現像体による攻撃を受けることを予測していなかった。


 DIC達は入口を破壊しようとする者、壁をよじ登ろうとしている者がいる。目的はGODSの本部の破壊に違いなかった。


 その襲撃者たちの様態も獣を模した者、半分機械で覆われた身体を持つ者、先程遭遇した甲虫怪人のような昆虫の特徴を持つ人型の現像義体サブジェクトとイメージを具現化した狼男をはじめとする伝説上の半獣人や牛の頭を持つ巨人、キマイラのような複合生物などの幻獣を形どった現像架空体オブジェクトが奇声をあげて押し寄せている。


 あまりに愉快犯のようなディベロッパーばかりに目を奪われていたせいだ。ネットワークが盛んとはいえ、これほどの組織だった行動が興せる集団があるとは考えられなかった。あまりに甘すぎる、と自戒する。現像架空体オブジェクトの現像距離は半径五百メートル圏内だ。ならば少なくともこの町のどこかにディベロッパーがいるはずだった。


 恵は一度母屋に戻り、勝手口から注意深く台所に忍び込む。ここは手つかずのままのようで、どこも荒らされてはいない。


 床面にある点検口を開くとそこには地下の食料保存庫に通じている梯子がある。袴をたくしあげ梯子を下りながら点検口の蓋を閉め地下倉庫へと足をつける。相変わらず電灯は使えないため完全に手探りだが、注意深く両側の棚を目安に歩けば問題はない。


 普段は保存食の倉庫とワインセラーとして使用しているのみであるが、この倉庫にはもうひとつの働きがある。普段は不便極まりないため使う事はないが、緊急用の脱出経路として母屋とGODS本部棟をつないでいる通路の入り口が倉庫の奥にあるのだ。


 恵はこの通路を使うのは初めてだったが、そこには小さな非常灯の赤いランプが点っており、すぐに確認できた。


 左腕のブレスレットを所定のリーダーにかざし解錠する。人が一人くぐれるほどの狭いゲートが開くと薄暗い照明が点った狭い廊下が現れる。凛たちも母屋にいたならば避難するためにここを通っただろう。埃の積もった足元にある複数の足跡から判断できる。それを見て少しだけ胸をなでおろす。皆は無事であると。


 恵は一気に廊下を駆け抜けて本部棟側のゲートを開いた。


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