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D線上のクオリア ー家政婦は戦うー  作者: 相楽山椒
第三章:ヴィ・シード 第五話 「あんたらヒーローやねんから」
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戦闘家政婦―ヴィ・シード 5-2

「補足しますと、このドリームショットの販売方法は通信販売のみで、広告に載せられたのはこのアンダーサイエンス二四八号のみです。しかしながら当時注文は殺到したようで、三十万円という高額ながら延べ十万台近く販売されたそうです」


「ほえぇ、一度の広告でか? わしの自動歯磨き機『デンタルくん』なんか三年連続で広告しても百台しか売れてへんぞ」豊富が口を挟む。


「博士、あれ、もうやめたほうがいいんじゃないですか? ネットのクチコミでも“クソマシン” ってさんざん罵倒されてるじゃないですか、見てませんか?」と柴島。


「ああ、あれ豊富博士が作ったんでっか? あれ口に装着するのに五分もかかるんですよ。余計に時間かかってかなわんわ」と先程まで神妙な顔を作っていた池端も続く。つまり池端太郎はその“クソマシン”を購入した百分の一の貴重なユーザーであるということだ。


「お前ら容赦なしやな……見とけよ、いまはバージョンアップして自動メイクマシン『しゃっきりモ二子さん』として朝のお顔の洗浄から髪のセット、メイクまでが一度で自動で行える装置を開発中なんじゃ!」


「――ま、まあ、それはさておきです。売れたドリームショットは使用者の手元でポータルサイトにアクセスし、メーカーから出されるアップデータで更新をすることにより、大きく機能を変えるようですね。消費者の手元に渡った時点でバックドアを開いてクァンタムドラッグのような機能が現出するとしても、我々は手の施しようがありませんし……」と、安垣。


「被害者が出るまで、か……」上林がつぶやく。


「で、体験者のその後はどうなんや?」と池端が軌道修正をする。


「約一年後まで進みますが、この頃には一定の使用者同士のコミュニティが形成されており、情報交換も頻繁になされていたようです。当の掲示板はブロックが強力で我々がそれを閲覧するにはいたっていませんが、自身らの成果を競い合うようにアップデートを繰り返して、最終的にはイメージが実体化したという記述がブログにありますね」


「結果だけ申しますと、この体験者を名乗る男性宅は火災により全焼、一家と近隣住人を巻き込んで重傷二名、軽傷五名、本人は死亡しています。出火元は男性の部屋とみられていますが、家族の話によると男性は喫煙習慣もなく火元となるような物も発見されておりませんが、時々部屋にこもって妙なことを口走っていたという証言があります」川野は別の資料を読み上げながら、周囲を見渡した。


「妙なこととは……?」誰ともなく話の続きを促す。


「ええとですね。火災事故においてその被害者の証言がどれほどの意味があるのかを考えるものでもありませんが……概ねヒキニート……失礼、他者との関わりを極端に嫌う無職の青年が家族の中で孤立し、関与も拒んでいたことを考えれば、彼がどのような行動を取っていたとて見て見ぬふりもしたでしょう……ま、家族によりますがね――これは彼の妹からの証言ですが“あー異世界転生してー!”と叫んでいたようです。でぇ、同時に何やら呪文のようなものを唱えている時もあったようですが、ええとなんですか、その、しょうかん、っていうんですか?」


「召喚魔法です」安垣が補う。


「ああ、それ。モンスターを呼び出すそうですね。ドラゴンとかユニコーンとかフェニックスとか……」


「アホか。フェニックスなんか部屋で召喚したら、そら丸焼けなるわ」豊富博士は仰け反り呆れた。


「はは、博士。まあその言質も彼の妄想によるものですから」と川野が笑うが、豊富は仰ぐようにして川野を睨みつけた。


「その妄想を実体化するんがその装置やないけ。これで繋がったゆうてもええんちゃうか。ドリームショットはヴィ・シードや。販売元はどうせトンズラしとるんやろ。つまり撒かれたヴィ・シードは十万台、もしかしたらもっとあるかもしれんってことや」


「GODSの報告ではひとつのヴィ・シードを複数のディベロッパーで使うことも出来るそうや。下手をすればディックの数は十万体じゃ済まんかもな」池端がタバコに火をつける。


「魔法といえば他のケースも。こちらは希ですが、うちの方で確保できた被疑者のものです――」そう言って川野は別の資料を提示しプロンプターへと映し出す。「少々刺激が強いので覚悟してください」と言い添え、コマを送る。


 そこには身体の一部が変化し、鋭利な刃物や、銃のような物に変化している画像が映されている。多くは肘から下の前腕部分の右か左に相当する部位のようだが、これらが実際に武器として機能するかどうかは画像だけではわからない。


「これ、人間の体か? ナイフが一体化してるんか? これなんかサイコガンやな」豊富は呆れた声を出す。


「どうやらこれもドリームショットの効果みたいですね。モンスターを出現させるエネルギーを自分に使えば身体を変化させることができる――と、まあ私には理屈はわかりませんが、出来ても不思議ではないように思えます」川野は手早くコマを送ると資料を閉じる。


 これに豊富は現在持ち得る情報から推論を導き出し、条件が揃えられるならば“変身”とて不可能ではないと結論する。


「もしかしたらわしらが見つけてないだけで、変身して何事もなく暮らしてる奴もいるかもしれん、ってことや。どうもヴィ・シードは現像と解除の時以外は装着する必要はないみたいやからな」


「ああ、生駒山のアレもですか?」と上林警視は蔑視とも取れるような、空気を読まない発言を弄し、恵の眉間に皺を作らせる。


「あれはあれで地元が潤っとるんや、皆、『轟天大明神』や、ゆうて拝んどるわ」と張本人である豊富は黄ばんだ会議室の天井に視線を逃がして、言い放つ。


「いずれにしても彼らディベロッパーが現像するものは外連味けれんみ溢れるものが多いですな。しかも攻撃的とくる……」柴島が組んでいた腕を解き、額から頭頂に向かって掌を流して後頭部で手を組む。


「犯罪心理学においても、私生活が満たされない者ほど外部への攻撃性は顕著です。これまで国内で起きたディックの現像時期を見てもやはりイベントの日程に合わせているようにも思えます」安垣が添え、そこに「怪物を想像する妄想力もすごいけど、被害妄想も凄いってことやな」と、豊富が乗りかかる。安垣はそれに介さずにさらに続ける。


「ドリームショットのポータルサイトは現在更新が停止されているようですが、未だにアクセスがあります。サイトにも特別な条件を満たさねばアクセスできません。そこからどうやら使用者同士の交流ができる掲示板に飛べるみたいですが、こちらでは無理でした。サイバー犯罪対策課(CCD)でも解析は勧めていますが、要求されるパスワードが複雑すぎて難儀してるみたいですよ」


 安垣は、自分にはわからない範疇だ、といった風に報告を締めくくった。


「サイバー犯罪って言葉が生まれてからもう何十年と経ってはいるものの、犯罪者の姿がとんと見えづらくなっているのは確かや。どこで誰が何を企てているのか、アメリカ政府が全てを把握したがったのもよくわかる話やな。人は嘘をつくのがどんどん上手くなるばかりや」池端は煙草に火をつけながら呟く。


「何割かは確実に能動的に現像を行っている……この世界で魔法のような技が使えるともなればそれは痛快でしょうな。まあ、次元転送社会の影響で失業者も増えたわけで、そこから社会復帰できなかった者たちがどれほどいるか。自身の境遇が不遇だとするならなおさら――」


 腕を組み、ため息混じりに川野が続けようとした矢先、今までじっと黙っていた隣の少女が腕組みのまま口を開いた。


「あのお、それって被疑者を擁護してるみたいに聞こえますけど。悪いのは社会ですか?」


「はあ? って……おい、柴島君」と、川野は困ったような顔を柴島へと差し向ける。柴島は聴いているのかいないのか、目頭を両手で揉みながら顔をのけぞらせてとぼけた。


「社会福祉団体じゃあるまいし、彼らは可哀想な人々だから慮って、慎重に理解を深めて対応してゆけ、なんて言わないでしょうね?」その問いに、さすがに署長の上林も黙ってはいない。


「馬鹿な事を言うもんじゃない。我々は世の治安を守るための組織だ、テロになどに屈しないし、看過もしない。市民の平和と安寧を守るために最大限の努力を惜しまないつもりだ。そしてそのために適切な対処を行うまでだ。君たちの協力には非常に感謝しているが、頼りきりと言う訳にもいかんだろう。だからこうして情報共有の場を設けているのだ。無論、警察組織である以上文民統制の域を越えることはできん、こういっては何だが君たちは――」


「要するに! この世界を壊したい、他人の幸せなんかどうだっていい、とにかく自分の現実から逃げることができれば他はどうなっても構わへん。あいつらはそういうことやろ? 勝手な理屈や。ウチらがディックもディベロッパーも全部駆逐すればええんやろ!」


 マキタや高瀬が襲われたもともとの原因が自分の不満や欲望のために生み出されたなどという下らないもののせいだとすれば我慢できなかった。そして目の前の男たちのまだるっこしい白とも黒ともつかない言いようにイラつき、つい声を荒らげてしまった。


 その次の瞬間、会議用の平机を勢いよく叩く音が響き渡り、恵の体は僅かに飛び上がった。


「調子に乗るな……アホンダラ! 鎧武者の時のようなことをまた起こす気か?」池端の鋭い視線が恵に突き刺さり、それ以上声も出せないほど硬直し、自分が何を突きつけられたのかを理解するとともに消沈した。



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