戦闘家政婦―ヴィ・シード 4-2 (訂正ありです)
すみません。今回不覚にも構成上の不備で改稿です。以前の4-2を読んでいただいた方には本当に申し訳ございません。以前の4-2エピソードは改めて次章(第四章)にて発表します。内容に大きな変化はありません(ネタバレ要素もありません)
作者の勝手ながら、これも作品をより良くするためだとご理解いただければ幸いです。今後ともよろしくお願いいたします。
GODSは春から本格的にディベロッパーの確保と回収したヴィ・シードの解明に力を入れていた。
ディベロッパーに“選出”された人間に大きな枠組みはなく、今のところ性別やその立場や思想、職業や年齢にも共通点はない。
社会生活の上で不満など誰でも持ち得るものだが、大抵の人間というのはそれを消化する術を心得ており、不満元になる事象を排除するという心情にまでは至らない。ここでいう“極端な社会への不満”とは文字通り、偏執的かつ被害妄想的かつモラルの欠如を伴う反社会的行為をも辞さない人物や団体を指す。
有り体に言えば各種の犯罪行為やテロ行為に加担する者は、いずれなりこの傾向を持つため、ベクトルさえ与えられれば歪曲した思想が行為に至るのは至極自然な流れとなる。
ネット社会が隆盛してからの約四十年間、組織犯罪の首謀者のプロファイリングと同じく、ディベロッパーの行動原理や、それらが使用したパソコン上の保存ファイルの内容や通信記録などでおおよそ見当がつけられるのが当たり前となっていたが、ディベロッパー各個人が各々で社会的不満を持ち得ていたことは推察することができても、それぞれが何か、どこか、誰か一点と繋がっている、あるいはそれぞれの共通項という事実は認められないもどかしさが浮き彫りになっただけだった。
もし“あえて”という言葉を冠しても良いのであれば、彼らに共通項はある。この社会に不満を持つ者、すなわち次元転送社会に反する者と断じてよいだろう。
永らくGODS及び公安警察はこの理論でヴィ・シードと反次元転送社会組織を一つと考えてきていた。だが前回のUSJでの大規模襲撃などにみられるディックの頻出にテロの声明はおろか、その目的すらあいまいなまま、現出と撃退を繰り返している。
いよいよもってGODSはヴィ・シードおよびDICとは何なのかを知る必要に駆られた。
「いよいよ、誰かがヴィ・シードを装着して確かめてみる他ないんちゃうか。コイツの機能的な部分だけでもはっきり分かることで問題はひとつ減らせる。お前らが主張するゴーストって奴もな」
警視庁公安五課特捜係、通称ゴトクの池端はGODSのメンバーと大輔を前に神妙な面持ちで呟いた。
「誰かがって……」恵は言いかけた言葉を誠一の視線に遮られた。恵はGODSの出動任務から外されてはいたが、メンバーから抜けたわけではない。当然ながら本部におけるミーティングや情報共有などに携わることは咎められなかった。
ヴィ・シードに関しては形骸が残るものはD&Dを通じてデフィへと引き渡すように通達がなされていたため随時申し訳程度に供出はしていたが、彼らを信用しきってはいないGODSや池端は、次元転送評議会とつながりのある上層部にも報告を入れず、完全体の装置はできる限り手元に置いておくように画策していた。
GODSが無傷で回収できたヴィ・シードはこれまでで三基、検証するには十分な数ではある。ただ、捜査上で取得した証拠品を使用することは法律に反する。そのためこれらは内部構造の検証を行いはしたが使用に関しては手付かずのまま極秘に保管されていた。
「ま、わしの口から今更こいつを使うな、とか言うのもおかしな話なんやけどな。これらがここにあるんを知るのはわしとお前らだけや」GODSの装備室で池端は周囲を見渡しながら言った。意味はわかるだろうという視線だった。
「やれやれ、危険は承知で自己責任、ってことですか」誠一はヘルメット状のヴィ・シードを取り上げ、大輔と池端を交互に見た。
「まってや、セイさん!」恵が声を上げる。
「そやで、兄貴がそこまでする必要あるんか」吉川も抗議する。
「ハッ、なら外部の粒子測定研究所にでも依頼するか? それともジャンケンで決めるか?」誠一は樹菜子と柴島に目を向け嗤う。
「まあまあ、喧嘩すな。この装置は次元転送器の一種や。どうも君らは誤解してるようや。改めて説明させてもらわなあかんな――」最後に口を開いたのは、彼らから離れた隅の机の上にノートパソコンを開きチェスに興じている中年男。なにわ工科大学の次元物理科学博士、豊富英善だった。
「今のところ次元物理科学の常識では一種類の素粒子体だけで物質を構成することはできん。すなわち、情報子だけで物理化することは今のわしらが持ってる理論でも技術でもできん。次元物理科学の第一法則、『素粒子保存の法則』と第二法則の『等価交換の法則』、それから第三法則の『素粒子属性の不変性』ってのはしってるやろ。せやから転送でも変換でも素粒子自体の数とか質量は基本的に変化せぇへんし、転送物質はそのままの物質が転送される。わかるやろ?」
「え、え? なにそれ?」恵は目を瞬かせ、「どういうことですか?」と池端がタバコに火をつけながら問う。
珍しくメガネをかけた柴島がその問いに対して口を開く。
「よく使われた古い喩えだが、水を転送する場合、液体のままでも構わないし凍らせて個体にしても、加熱して気体にしてもそれを構成している各素粒子は変わらないし、その総数の増減もない。転送の際に使われるエネルギーも同じ、イプシロン変換に於いても素粒子の質量及び属性は変わらないが組成が変更されるため別物質に変換されるという事だ」
「まあ、大雑把に言うとそういうことや。普通に考えたらこのヴィ・シードって装置はこれらの法則を無視しとる。あれらディックが三元素粒子体としても、どうやって物理材料が作られるのかは皆目見当がつかん。これはエライ事なんや」豊富はそっぽを向いて鼻毛を抜きながら言う。
「あ、あの、それって情報子じゃなくてゴーストが、とか……」
「おおう、メグミン! わしが今からそれを言おうとしとるんや。だまっときぃ!」急に大きな声を出されてのけぞった。
「お前らが今まで潰してきた現像体ってのはいわば情報子が物理化したもんやと言われとるけど、実際はゴーストや。ゴーストってのは確かに情報子みたいな働きをしてると考えられる。やけどこれを分離して分析することが出来んのが辛いとこやわな。殺人になってまう、できん。そやかてお前らもこの中途半端なまま事を進めるのもええかげん辛いやろ。検証はしておきたいやないけ」
「デフィとしては頭を抱える問題だし、俺たちにすら感知されたくない事なんだからな」と、誠一。
「要するにディベロッパーの現像行為っちゅうのを、正確につかめれば対処の方法も効率が上がる。あいつらがただ単に次元転送社会に反抗してるんやなくて、もっと大まかに社会不満の精神エネルギーを利用してディックを作っとるならなおさらや」得意げな豊富だったが、「それ、俺が言ったんじゃないですか」と、呆れながら誠一が豊富を睨む。だが豊富は悪びれもせず「そやったかいな?」と口元を歪める。
どうやらここまでは豊富と誠一の間でシナリオができていたようだ。
「未知の要素か、別の法則があるのか。それとも神様のイタズラかしらね?」掌をかざして肩をすくめるのは樹菜子。
「ま、今までの状況からして端的に言えば、思ったもんを物理的に発生させることが出来るゆうても差し支えないやろな。そういう意味では神の御技や」抜いた鼻毛をふっと吐いた息で飛ばし、豊富は立ち上がる。
「え、それって……」吉川が即座に反応する。その顔はだらしなく笑みがこぼれている。
「そや、お前の頭の中にあるパツキンの美女とかポンコツのアメ車とかお宝グッズとかいうしょーもないガラクタが思い描くだけで目の前に現れるっちゅうこっちゃ」
「ええっ! 美女とかアメ車とかお宝グッズが考えただけで手に入るんでっか!」
「そうや。ちょっとちゃうけど、まあ試しにやってみ」
「って……博士、いいんですか!」樹菜子が吉川の腕を取りながら言う。
「かまへんわい、コイツの頭の中のもんぐらいどうとでもなるわ。その代わり外に出てやれや、部屋が壊れたらかなん」
山吹邸の庭に出た吉川はヴィ・シードの一つを手に取り、恐る恐る頭へと装着する。ヴィ・シード本体はジェット戦闘機のパイロットヘルメットのような形状をしており、そのシェルにはいくつもの円筒状の電極のような物が付けられており、そこから伸びたコードが黒い手のひら大の箱に繋がっている。
「電源入っとるな? 固定したか? よっしゃバイザーおろしてみぃ」
「まあ、一応……これで、欲しいもん思い浮かべるんでっか? なんかバイザーのモニターに赤色のグラフが出てまっせ?」山吹邸の庭に出された椅子に腰かけた吉川の傍らに豊富、その周囲をGODSの面々が見守っている。
「そや、欲しいもんの外見とか特徴とか機能とか、とりあえず思い浮かべられる全部を頭の中から引き出してみぃ」
豊富博士はそう言いながらにやりと嗤う。恵はそれを見て眉をひそめた。
「う、ううーん……美女……アメ車……お宝……」
「できるだけ詳しくイメージせぇよ、目の前に出現するようにイメージするんやぞ、ほんで赤いグラフが伸びてくるのわかるか?」
「きっ、気が散る、話しかけんといて!」
椅子に座った吉川は目を閉じブツブツとつぶやきながら、両手を膝に起き一心不乱に欲望のイメージを膨らませる。
腕を組みその様子を見守るGODSのメンバーの中で、恵はこの人体実験の緊張感の無さにひたすら違和感を感じていた。豊富博士との付き合いが長い彼らは全面的に彼の言質を信用しているように思えるのだが、吉川は口車に乗せられたとはいえ、組織としてはさすがに軽率なのではないかと恵は思う。
「よっしゃ、そろそろええやろ」
ヴィ・シードのバイザー内の表示を外部に出力したモニターを眺めながら豊富は言う。
「ちょお待ってください!」
「何や、メグミン。ええとこやのに」豊富はうっとおしい顔を恵に向けた。
「あの、これで現像されたものはディックってことですよね? ほな倒さなあかんやないですか、そしたら……」
「バカ、解除したらいいのよ。この前の鎧武者の時はあんたが戦闘をやめないせいで解除に手こずったけど、逆にUSJの時は半分以上が自ら消滅した――という事はディベロッパーの意思で出したり引っ込めたりが出来る、ってことよ」
樹菜子が言うように、USJの事件ではGODSの到着と同時に、戦わずして多くのDICが姿を消した。そのため被害が最小限で収まったとも言える。ただ、中には自らGODSへ戦闘を挑むDICもおり、それらは意思があるようにも見えた。恵が戦った蜥蜴男もその一体だ。
「それを調べるための検証でもあるんやろ、まあ黙って博士に任そうやないかい」結局ヴィ・シードを被った吉川がその場を抑えるが、実験台となった割にその声はどこかしら嬉しそうだった。




