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D線上のクオリア ー家政婦は戦うー  作者: 相楽山椒
第三章:ヴィ・シード 第三話 「ハルヨコイ」
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戦闘家政婦―ヴィ・シード 3-5

「でぇ、告白の返事をするために延べ五日走り回ってた、と?」


 呆れ顔でその問に首肯する恵のおでこを、樹菜子は人差し指で弾いた。


「あっ、痛ったー!」


「なにそれ? その純情乙女! 信じられん、女子高生かっ!」


「女子高生ですよっ!」


「あっ、そうか……。メアドとか聞いてないの? 別に直接言わなくても――まあ、あんたなら直接返事するか……。で、その手紙と贈り物ってのは何?」


 恵は渋々それらを樹菜子に手渡した。読みながら彼女の顔が複雑に歪んでゆく様子をみて、妙に恥ずかしくなってきた。


「さぶっ!」


 樹菜子は手紙を読み終えるとそう言って恵に返した。贈り物は指輪だった。


「最近の高校生は手も握ったことがないような相手にいきなり指輪なんか送るのか?」


「最近の指輪は分子間配列を変更できるから……」


「サイズの問題じゃない、こんな高価なものをいきなり送りつけるのは逆に失礼だって言ってんの。ちょっと考えたらわかるだろ、断りにくくなるって」


「だから、なかなか返せへんくて……タイミングが」


「仕方ない、ちょっと待ってな」


 しばらくするとジャケットを着込んだ樹菜子が、自前のリニアハブドライブの大型バイクを転がして恵の前に現れた。


「後ろ乗りな。そいつの家まで送ってあげるから」


「ええ? い、いいですよ、一人で行けますから!」


 目を見開いて拒否する恵を一瞥し、短く息を吐いた樹菜子が言う。


「誰も保護者面してついて行くとか言ってないでしょ。近くで待っててあげるからさっさとケリ付けてこいって言ってんの、時間の無駄! 高速ブッ飛ばしゃすぐよ」


 樹菜子のバイクでなら高瀬の家までは二十分もかからなかった。


 初めて乗ったリニアハブドライブのバイクは、恵が今まで乗ったどんな乗り物とも違っていた。地面に吸い付くような前後の駆動輪は滑らかな軌道を描き、急バンクですら恐怖を一切感じない。これはハブドライブに内蔵されたトラクションコントロールとオートジャイロによる制御の賜物だ。まさにコケないバイクとも言える。


 低周波の駆動音を響かせながらバイクは高瀬の家のある住宅街の中心で停車する。


「この近くか。ほれ、いっておいで」タンデムシートから降り、振り返る恵に樹菜子はヘルメットのバイザーを開いて、優しくて哀しい目を向けた。


「樹菜子さん……」


「別に悪い事しに行くわけじゃないんだから……メグなりに決着つけてきな」その言葉を胸に恵は高瀬の家へと駆けた。




「わざわざ来てくれたんか……」


「今帰り? なんか、忙しいみたいやね……ウチもやけど」


 高瀬家の門柱にもたれかかって高瀬のバイト帰りを待っていた恵は、伏した顔を上げられずにいた。高瀬の顔はその視線よりずっと上にある。


「あの――」


「ごめん、困らせたみたいで――」恵が話すより先に高瀬が言った。


「うん……」


「この一週間、何度か俺に声掛けようとしてたやん? 俺、なんちゅうか、答え聞くの怖くて実は避けとった。わざと友達誘ったり長話したり、バイトのシフト詰めたりして……その、たぶん断られるんやろなって思ったから……」


「あ……うん……見えとった?」


「割と目立ってた……」


 高瀬は顔を少し背けて微笑んだ。


「なんか、めっちゃ恥ずかしい……」機密組織GODSなどと言ってはみても隠密行動を個別に行うことはないのだと、内心で言い訳をしてみたが、単に空しかった。


「なんでウチなんか……他にも高瀬君やったらモテるやろうに」


「うん、いや、その……ちょっと地味やけどさ、かわいいなって……」


「じ、地味?」


「いっ、いやあ、えーと、あの素朴っていうか……なんか加納さんっていつも一生懸命で、がんばってるなぁって……俺、そういう人が好きやから」


「っ――そんなことない。全然あかんねん。解らん事ばっかりやし、失敗ばっかりやし、できひん事ばっかりやし、だから、目の前のことに全力でぶつかるしかできんくて……余裕なくて」


 自分を卑下する言葉を並べてもさらに空しくなるだけなのに、そうするしかなかった。認められたいと思っていても、認められない自分がいる。いや、自分が認められない。


「みんなそうちゃうか? 俺だっていつでも必死や。余裕なフリはしてても内心ドキドキしてる。みんなは俺のこと天才とか男前とかゆうとるけど、ホンマはかっこつけるのに精いっぱいなんや……ははっ、もう忘れてくれや――俺も加納さんのこと忘れるから」


 胸が痛んだ。


 恵は顔を持ち上げ高瀬を見た。


「わ、忘れるとか、言わんといてや」


「えっ?」


「ウチのこと好きになってくれたこと、忘れんといて欲しい。ウチも高瀬君が好きになってくれたこと忘れへんから、だから……」


 そう言った瞬間、視界を塞ぐ高瀬の長躯が傾き、その顔が歪んだ。


「かっ、加納さん!」


 門柱を背にした恵に覆いかぶさるようにして、高瀬が腕を伸ばして手を門柱についた。恵は驚いて腰が引け、二人は至近距離で見つめ合うような形になってしまう。


 高瀬の若干荒い息遣いを感じるほどに。


 心臓が胸の奥で飛び跳ねていた。


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