戦闘家政婦―GODS 3-3
しかし、男子高校生とは、十六歳の男子とは、クリスマスのデートともとられかねない状況の機微を解さない人種である。
マキタは全身黒づくめの皮パンに革ジャン、タンデムシートに座るジュンはカジュアルながら冬の高速を走ってこれるだけの冬装備をまとって、けたたましい排気音とともに待ち合わせの場所に現れた。
「いやぁ、疲れた! 何時間かかった?」イグニッションを切り、サングラスを外し、ヘルメットを脱いでのマキタの第一声がそれだ。
「七時間くらい、かな」ジュンも時計を見てこともなげに応える。
「げえ、バイクで来た!」忍の声に気づきマキタは笑顔で「よお久しぶり!」と手を上げる。カナは微笑みを作って手を振り、ジュンの視線を捉えようとしていた。
しかし、恵だけは照れ隠しの意図もあって、その興味は別の物に向けられていた。夏に見たマキタとジュンがタンデムで乗ってきたバイクだ。
歩道に横付けされたハーレーFXSローライダーに向かい「あれから大丈夫みたいやなぁ、ちゃんとしてる?」と言う恵の背後で「ああ、帰ってからフロントのスプロケも替えたよ。ついでにクラッチも。おかげで二ヶ月分のバイト代がトんだけどな」とマキタが言う。久しぶりに会う高校生男女の会話ではないと思いつつ、それ以外の言葉が見つからない恵だった。
「まあ、しゃあないわな。恋人は大事にしてやらなすぐスネるんやから」
「はっ、なんだよお前、バイク屋のおやっさんと同じこと言うな」
「ま、手をかければそれだけ応えてくれるっちゅうことや――」肩をすくめ視線を流しながらマキタの方に振り向く。
「偉そうに。その言葉はそっくりお前に――」マキタは視線を上げ、恵を見て言葉を止めた。
「なに?」小首を傾げる恵。
「いや、別に……あ、俺、バイク停めてくるわ」
恵はマキタの上ずり気味の声に、不信感と言うほどでもないが、違和感を感じ眉をひそめた。
ガシャガシャと音がするわけではないが、そういった印象の無骨なブーツとすり切れた革のパンツがバイクのほうに向かって歩いてゆく。シンプルなシングルのライダースも年季がはいっており、十六歳のマキタにしては不釣り合いなものだが、彼の体格と雰囲気にはとても合っていた。
「あんたそんなんで寒ないの?」忍がレストランに入るやいなや、興味深げにマキタを見やる。
「意外とな。気合だよ、俺らこれしかないからな」マキタが上着を脱いで椅子に引っ掛けながらバイクのアクセルをひねる動作を真似る。
「うそだよ。リニアで行こうって言ったんだけど、二人だとお金かかるからってバイクにしただけだよ」ジュンは笑う。
ジュンの方は上着を脱いでみればセーターとジーンズと、この街中にいてもごく自然に見えた。
マキタは皮ジャンの下は長袖のTシャツ一枚という、これだけでも冬の街ではかなり異質だ。夏よりも髪が伸びており、前髪は頬にかかっていた。その髪をおしぼりで顔をゴシゴシと拭くと真っ黒の汚れが取れたが、肌はやはり元から色黒なのだな、と恵は思った。
「なんやそれ、きったなー」忍がおしぼりを見て笑う。
「バカ、生身で五百キロ走るんだぞ、こんくらい汚れるわい」
「そらそうやけど、あんた見てたら寒いわ」恵はいささかお仕着せ感が残るトレンチコートを脱ぎながら言う。
「あっ、そうそう。服で思い出したけど、今テンソーで服が転送される技術を開発中やって雑誌で見たねん。あんなんあったらええなぁ!」カナが唐突に言い出した。
「はあ? テンソーでフクがテンソー?」眉間にシワを寄せる忍と恵。
「ああ、あれだろ? ディセット」と切り出すのは向かい側でにこやかにしているジュンだった。
衣服を転送する技術とは、被転送物を直接人体に転送するという意味合いで、DFSのような固定筐体を持つ転送機器を使用せずに、身につけた小型のフィールドセンシングデバイスを用いて転送先座標と空間容量を非接触でスキャニングし、物体を受け取る次世代の次元転送技術のことで、正式名称ではないがその技術特性の頭文字をとって、DICETとか、ディセットと呼ばれる。
最大の利点は転送物を受け取るために公衆DFS端末を探さなくとも、出先の手元で処理できるということで、ちょうど電話が公衆電話から携帯電話になるような感覚に近い。
「もしディセットが確立したら、その場で忘れ物を送ってもらえたり、出先で服を瞬時に着替えるなんてこともできるから、今日みたいなケースの時は便利かもね」と、ジュン。
「へぇ、すごい技術やなぁ。服を自分で着んでもええゆうことかぁ」忍は感心してみせたが、それを聞いて恵は、そういうことじゃないだろう、と心中で苦笑していた。
「雑誌に書いてたのって、魔法みたいにその場で服を替えれるようになるんちゃうかって。そんなん出来たらメチャ便利やん」とカナが目を輝かせる。
「けど、それじゃもともと着てる服はどうなるんだよ」マキタは体を反らせて腕を組んでいた。自分のことを言われているようであまり気分が良くないのか、少し不機嫌に見えた。
「そこは問題だね。ディセットは双方向の転送までは想定していないから、転送された衣服を身に付ける場合は今着てる服を脱ぐか、上着だけ転送するといった程度でないと無理なんじゃないかな。それにあんまり大きなものは転送できないだろうって。周囲の影響を考えれば当然だね」
「なーんや、それやったら結局部屋で着替えてるのと同じやな」という忍に、恵は胸の中心を押さえ、我が身に課せられた使命に鑑み、もう一度苦笑せざるを得なかった。
いずれにしてもディセットは研究段階の技術であり、民間発表までにはあと数年はかかるだろうとされている。
彼らが夢に見ているような技術はある程度完成はしている。ただ民用するとなればDFSの初期段階と同じく、それの用途と普及させるタイミング、その影響と悪用される懸念をもってして扱わねばならないものである。
現状ではその技術は局地的なごく限られたシーンでのみ扱いが可能であり、転送されてくるのは衣服等ではなく、衣服よりもその外側に纏うものである。
はしゃぐ彼らを見ながら、恵はそれらが“お洒落で便利”などという言葉とは真逆の位置にあるものである、ということを知る自分が、今日だけは恨めしく思えた。




