表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
D線上のクオリア ー家政婦は戦うー  作者: 相楽山椒
第二章:GODS 第二話 「女子高生は闇を駆け抜ける」
30/192

戦闘家政婦―GODS 2-1

 空にうろこ雲が広がる初秋、早くも高校生活は半分を過ぎていた。恵の成績は未だ上位ではあるものの、トップクラスからは転落し、ゆるやかな下降線を辿っていた。だがその落ち具合もいつまで続くかは正直なところ自信がなかった。


 普通なら憂鬱になりそうな話だが、この時の恵にとっては学校だけが唯一の息抜きの場であり、本来の十六歳で居られる貴重な時間であった。たとえ成績が悪くなり担任が渋い顔をして変に勘ぐりを入れてきていても、もはやそんなことはどうでもよい、普通に女子高生として暮らせていることだけで充分楽しかったのだ。


 この頃の恵は学業の他に家事の仕事、そして連日誠一によるGODSの見習いとしての訓練や次元物理科学の勉強に費やしていたため、慢性的な疲れと寝不足を避けられなかった。


「いまさらだが、正直驚いた」


「何がですか」


木刀による剣術稽古を終えた夕刻、誠一は縁側に腰かけ、恵にミネラルウォーターのボトルを投げてよこした。


 剣術など初めてだったが、もともと合気道で鍛えた間合いと打ち込みの感覚のおかげで、恵は自分で思っていたよりも上手くできたという自負があった。とぼけてみたものの、珍しく褒めてくれる誠一の目に期待して胸がときめいた。


「あの化け蟹を見れば、もう戦いたいなんて言わないと思っていたからな」恵の中でさっきまでの自分が一瞬のうちに恥ずかしいものに変わった。続いた言葉は恵を褒める物ではなかった。


「う、ウチはあれを見せられて余計に覚悟しましたよ。あんなもんがそこら辺にいたら危ないやん!」


「かははっ、そこで自分が正義の味方ぶるなんてのが普通じゃねぇって。お前は変わってるよ」


「別に正義に味方とか……ウチは……」恵はペットボトルの蓋を開けて口腔を潤した。


 恵がGODSに入隊することは、誠一からヴィ・シードの概要を聞き及んだ上で決断したことだった。




 ヴィ・シードが元となって現れる現像架空体、正式にはディベロップド・イマジナリー・コンパウンド(Diveropped Imaginary Compound)と呼称するが、GODSやD&Dカンパニーでは、頭文字をとり『{DIC|ディック}』と簡略化して呼んでいる。


 DICの形態は先の化け蟹のような有機生物形態に限らず、無機物形態も存在する。


 ただ単なる岩石や大木など無害な物の場合もあれば、飛び回るロケット弾、あるいは戦車や、通常ではありえないサイズの動物や、現実には存在しない空想上のモンスターなど特に法則性はなく、信じがたいことだがありとあらゆるものがDICとして現像されている。


 波動集束体、つまりゴーストと呼ばれる存在を前提として誠一を筆頭にGODSこちらでは対応策が練られている。ヴィ・シードは装着者である『ディベロッパー』の頭部とうなじ部分に嵌合する、ヘルメット形状をした装置で、ディベロッパーのゴーストを吸い出して、それをDICとして実体化する機能を持っていると推察されている。


 無論これも既に示した通り、社会の表層には現れない既定事実で、デフィや一般の物理学者はもとより脳科学研究者であってもこの存在を立証も出来ていなければ、肯定もしていない。


 次元物理科学の見地からは、人間の意識や記憶といったものは、三元素粒子体である人体を構成する情報子の一部であると解釈されており、ゴーストの存在はそこにない。


 かつてサイアス・ミラー博士が人体転送の不可能性を示したのはこのゴーストの存在を認めたからであろうと誠一は推測しているが、GODSの各員もゴーストというものを見たこともなければ触れたこともない。ただ、そういう未知の存在があるだろうという事だけが解っている、という程度なのだ。


 今のところ彼らの中で推測されているヴィ・シードとDICおよびゴーストとの関連性は次のように捉えられている。


 DICの実体化はディベロッパーの波動収束体、つまりゴーストを削り取って行われるため、自ら生み出したDICが破壊されると永久にディベロッパーは自身のゴーストの一部分を失う。その時のショックがイマジナリーバックラッシュという擬似衝撃がディベロッパーに返ってくるため、気絶や、記憶障害を起こす。また複数回に渡り現象と破壊を繰り返せば、人格の破綻や喪失、いずれ身体的な死に至るとされている。


 ゴーストから発生するDICは現像架空体といい、それらは三元素粒子にて構成されているが、『素粒子相』という素粒子間バランスが崩れると分解する。素粒子相を崩すには対象に行動不能に至る大きなダメージを与えるか、中枢と呼ばれる“ある一点”の素粒子を削り取る以外にはない。


「ほな、そのディベロッパーゆうのが想像したものはあんな風に実物の蟹になって顕れるってこと?」


「別に蟹に限らねぇよ。人間が想像出来るあらゆるものが実体にできると考えていいだろうな」


 誠一が持ちうるヴィ・シードの情報は過去、これまでにGODSが蓄積してきた戦闘データから割り出したものであり、わずかながら確保した幾人かのディベロッパーを検査した結果得られた、主観的なデフィやD&Dを経由しない生の情報である。しかし肝心のヴィ・シードそのものがどういう理屈でゴーストを実体変換できるのかがわかっていない。


 そもそも、ゴーストを吸い出していると観測できるのは、確保されたディベロッパーは身体的に異常や変化は見受けられない代わりに、精神的な欠落が見られるケースがほとんどであるからで、実のところ現象を再現したわけでも数値的に確認できたわけでもない。


 これら全ては独自に調査を続けるGODSが、ゴーストが存在しているという前提に立った“仮説”であり、デフィやD&DはGODSの主張をただの空論だと一蹴し続けている。デフィやD&Dの検証ではあくまでDICは人体中の情報子をもとにして実体化していると主張しているのだ。これはデフィが人体転送は可能だが、しないと言い張る姿勢にも通じる。


 だが、ではもし仮に、ブルーレイディスクの情報子の一部を使ってDICを現像できたとして、それが破壊されたあと、果たして現像行為を行ったあとのディスクは元のままの光学ディスクの円盤の形を保っているだろうか。都合よく、目に見えない音声データや映像データだけが消えて物質的には影響がないなどということがあるだろうか。という問いかけが研究者の間ではたびたびなされている。


 これはどういうことかというと、物質を構成している情報をも含むのが情報子である。情報子が何らかの作用で物理変換してそのものの外部に現れるなら、情報子は減滅してしまうためバランスを崩し、現像後にいびつに歪んだり、欠けたりしたディスクが出来たとしても不思議ではない、ということだ。


 同じく人間が三元素粒子体で、意識や意思や記憶が情報子の一部に定着されたものであるならば、イマジナリーバックラッシュを食らったディベロッパーの脳は欠損していてもおかしくはない。脳だけでなくとも他の身体部位に影響を及ぼしたとて不思議ではない。


 このことから、デフィおよびD&Dの理論は破綻していると言わざるを得ない。


 これではまるでゴーストの存在を頑として認めさせたくないだけだと取られても仕方がない。自らが抱える重大な秘密を世に知らしめられては困る、といったような対応ではある。だが、アカデミーの会員である次元物理科学者は沈黙を貫く。


 無論、本来ならばGODSとて無関心にこの方針を踏襲すればよいはずだった。


 このデフィとGODSの認識的齟齬の発端は、過去GODS発足以前に山吹大輔に仕えていた一人の男が極秘裏にこの装置の概要を掴んだことによる。


 男の名は八滝総一朗といい、誠一以前に大輔の側近であった男だった。


 山吹大輔はマイアミ事件以前までは、現在のデフィ委員長の東条一郎と懇意な間柄にあり、次元転送技術が認知されるに至る経緯に大輔が大きく関わったという。それゆえ日本DNSは他国の次元転送管理組織を差し置いてデフィの直掩組織として強力な権限を与えられ、GODSなどの活動においても多大なバックアップを受けることが出来、今に至る。


 無論これは癒着であり、今では認められない関係である。したがって現在はその関係性を解消し、デフィは独自に立ち上げたD&Dを運用し、GODSは日本DNSの完全独立部隊として再編され、日本の東海地方以西を管轄することとなった。


 しかし、GODSとD&Dの関係性に鑑みるまでもなく、明らかにデフィは自身らと“その他の組織”を隔てていると捉えられる側面があり、ヴィ・シードの特性やその構造において詳細な説明はない。


 次元転送技術の世間的認知より前の付き合いがある大輔に対してもそうであるのだから、それ以外の世界各地の次元転送管理組織に対しての扱いは推して知るべしといったところだろう。


 そのことを事前に察知した訳ではないが、いつ自分たちのようなヤクザ者が切られるかもしれぬという思いから、先んじてデフィの動向を探り、先手を打ちたい山吹大輔の命により、八滝総一朗はデフィ発足以前から、東条のボディガードとしてミラー研究所へと入り込んでいた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ