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D線上のクオリア ー家政婦は戦うー  作者: 相楽山椒
第八章:第三戦隊 第三話 「壊滅」
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戦闘家政婦―第三戦隊 3-6

 そこへ彼らの仲間と思しき人物が歩みよってくる。


 容姿というより、身体バランスから一目見て女性だと分かる。軍物の使い古されたコートを着て、フードをかぶり、マフラーを口元に巻いて顔を隠している。


「まだるっこしいことをしてすまねぇ。最初に言っておくが、オレたちの目的はテロじゃない、あんたを殺す気もない」


 女の声は若い。自分と同じくらいだろうか。自分のことを“オレ”などと称する女がアニメの世界以外にもいたことに驚いたが、同時に嘲りの感情が沸き起こる。


「それは、さっきこいつらに聞いた……二度も同じことを言うな、アホか」


「ちッ――動転してちゃんと説明が伝わらなかったら面倒だろうが――そのためにここを選んだんだ」


「ここ?」


「お台場だよ。ほら、あれだ」


 フードの女が指さした先にはテレビ局があり、ズームで確認してみると、社屋の窓から数台のテレビカメラがこちらを狙っているのが見えた。


「一局の独占スクープだぜ? 特ダネだよ、逃すわけねぇよな。あの距離なら俺たちの会話も全部聞き取れているはずだ、下手に取り乱すとカッコ悪いことになるぜ?」


 不可抗力とはいえ不知火を使ったところを映された……もはや本部に隠しおおせない。が、そんな些末なことを気にしている状況でもない。


 公然と彼らサブジェクター達は自らの存在を明らかにし、この二体の怪人はテレビカメラの前でその能力も披露して見せた。四宮とハルカがいない片手落ちの状態だったとはいえ、DMMの戦術戦隊がいとも簡単に、時間にしてみれば五分ともたなかっただろう。あっさりと敗北する姿をとらえられた。


 フードの女は、恵が状況を把握したとみて、再び口を開く。


「見ての通りオレたちには力がある――だが安心してくれ、この力は世界を混乱させるために行使はしない。この三年間、DMMの元、繰り返されてきたDIC狩りには欺瞞がある。これに疑問を挟む者の言葉は封殺され続けてきた。なぜなら、そこには世界にとって都合の悪い事実が横たわっているからだ。いや――世界だと言ってしまうのは乱暴だな。お情けで組み入れてもらった連邦議会を除く、世界統一政府、すなわち新世界秩序統合機構を私物と化すイズノ、デフィの両者における、世界支配へのシナリオと同時に、地球と人類を人質にしたゲームが始まろうとしている。地球市民を無視した、この一極支配による次元転送社会にこれ以上の混乱を抑止するための力として、われわれは『ガイア』は結成された。今後ネオ、あるいはその走狗であるDMMの行動如何によっては、我々は我々の信念のもと介入し、あなた方の前に立ちふさがる障壁となるだろう」


 恵は不知火のバイザーを引き上げ素顔を見せることなく、ひたすらモニター越しに彼らを観察した。どれも皆人間に見える。妙な身体バランスの体格をした者もいない。


 彼らの頭部にはやはりヴィ・シードの存在が認められなかった。


 現場での現像、解除の必要がなければヴィ・シードを常時装着しておく必要はない。これは現像架空体オブジェクターのディベロッパーでも現像義体サブジェクターのディベロッパーでも同じだ。


ディベロッパーは自身の正体が知れることを嫌う。不法行為に手を染めているのだから当然と言えば当然だが、その匿名性と裏腹に行うDICの破壊行為は現像架空体オブジェクターの特徴ともいえた。


 対して、かつていた軟体頭足類を模した三人の触手怪人はヴィ・シードを外部に晒さないようフードで覆って、必要に応じて現像義体サブジェクターを現像していた。


 いずれも、それが不自然な姿であるため、人間体である自分が本来の姿であると認識しているからこそ、現像を解く手段を手放さないし、命の危険を察知すればそ知らぬふりでヴィ・シードを隠して一般人を装う。証拠など何処にもないではないかと。


 しかし、人の形をした現像義体サブジェクターならば、そもそも隠匿性を必要としない。つまり、これほど自然な存在であれば普通に街に紛れていても誰も気づかないではないか。


「あんたら、ここからどうやって逃げるつもりや。台場はすでに全域封鎖済み、応援の戦隊が三個分隊でこっちに向かってきとる、周りは海や、その大所帯でどうやって逃げるつもりや」


 彼らならば人ごみに紛れて逃げることも可能だろうと思われた。だが、それほどまでに杜撰な計画だろうかと疑問に感じた。


 二十数名のガイアのメンバーがこの地から誰にも悟られず逃げおおせることができるとは思えなかった。


 台場に架かる陸路の橋は大まかに言って三本、南東にトンネル、あとは地下鉄か新交通線。当然だが事態が認識されている時点で包囲網は完成している。彼らが問答無用で突破する気であればできないこともないだろうが、そこに多大な犠牲が伴うことは想像に難くない。彼らが自らの口で「テロではない、世界に危害を与える目的はない」と言った先から、それを覆すとは考えにくい。


 つまり彼らが声明の場所としてここを選んだ時から、確実な逃走の方法もすでに確保していると考えるのが自然だ。それも、普通の人間では不可能な方法だが、彼等には可能な、想像を超える方法で。飛ぶのか、地面に穴でも掘るか、それとも海に飛び込むか……。恵の思考ではその程度しか思いつかなかった。


「そろそろ時間だ。君も、いや――誰でもこれを見れば、我々がいかなる脅威になるであろうかということくらいは理解できるだろう」


 恵は女の言葉の後に続いた現象に目を丸くした。


 驚いたことに、ガイアのメンバーは一人、また一人と消えてゆく。まるで初めから存在しなかったかのように、ホログラフィーのように半透明になり、物質の密度が薄くなって、そして完全に消えてしまう。DICとしてはおなじみの光景ではあるが、彼らはサブジェクターではなかったのか。


「完全なる人体転送だよ」そしてエウロスの片割れであるノトスも姿を消す。


「ま、そういうわけだ……じゃあな!」と言って、フードの女がエウロスの肩に手を置くと、エウロスがひょいと彼女を抱え上げた。

エウロスはそのまま一度大きくかがむと、一気に伸身、恵がそれと認めたときには、すでに数十メートルの高度へと飛びあがって、そのまま鱗粉のような光を残して海上の闇へと消えた。


「なんで……なんでや……」




 やられた……部隊そのものが消滅させられた。


 DOGを大破させられインタースーツの状態で大の字に転がったままの木杉、ボンネットを開いたまま上半身を機体にもたげ、呆然と立ち尽くす田所。完全に起動を失ったまま転がって身動きの取れない巴。


 ただ一人自前のDOGを持ち出しながら、一矢も報いることができず、手出しもできないまま取り残された恵。


 こんなとき、まずなんと言葉を紡げばよいのだろうか。


 深夜の東京は重く静かに降り積もる雪に埋もれてゆく。まるで見えていた未来の輪郭があいまいになってゆくように、すべての希望を覆いつくしてしまうかのように。


 厚い雲の下、到着した三個分隊のローターの音は低く重く響き渡る。


 もう遅い……この体たらくを笑われるのがおちだ。


恵は不知火をチェックアウトし、巴へと歩み寄り、抱き起す。


「先輩、死んでないか?」


 おそらくエウロスによるあの爪の攻撃だろう。見事なまでにカーボロンメッシュの駆動部が切断されている。しかし、巴の身体には傷一つついていなかった。


「くっそ……なんだよあいつ……なんなんだよぉ……」巴は目を閉じたまま唸るように嘆き、涙を流していた。それほどまでに軽くあしらわれたのだろう。


 恵は奥歯をかみしめ、雪が降りしきる中、エウロスが飛んだ暗い闇を見据えることしかできなかった。




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