記念日
「ミーから屠々露くんにプレゼントなのです!」
ブカブカの白衣で隠された手から小さな紙袋が渡された。俺は特別何かをした記憶は無いが受け取らないわけにはいかないので、とりあえず貰ってみる。ずっしりとした重みと共に金属のぶつかる鈍い音がした。
「ありがとう、バティくん。早速だけど開けてもいいかな?」
「どうぞなのです!」
中身を見れば理由が分かるかもしれないと思いながら、紙袋を開けてみる。
バティくんと呼ばれた白衣の少年はそれを嬉しそうに眺めている。
「あ…。」
中から出てきたのは銀色に輝く三角形のピアスだった。数日前に2人で出かけたときに見つけたのを思い出す。どうやら彼はそれを覚えていたようだ。
「ミーは天才なのですよ、忘れるはずが無いのです!」
自信満々にこちらを指さして言う彼は少し照れているようで非常に愛くるしい。しかし、依然として貰う理由が見当たらないので思い切って聞いてみることにした。
「さすがバティくんだね。でも、突然どうしたんだい?」
「今日は記念日なのです!」
「記念日…?」
全く心当たりが無いので更に困惑する。もし2人にとって大切な日を忘れているとなると彼に何と詫びればよいのだろうか。
「敬老の日なのです!」
「…え?」
”敬老の日”、それは老人を敬う日だったはずだが、もしかすると俺は既に老人扱いされているのか。空っぽの筈の胃の辺りが痛みそうになる。確かに若干16歳の少年からしたら200年以上生きている俺は老人とも呼べるかもしれない。だが年齢こそ高いものの見た目はまだ若いと言えるだろう。
なんてことを思案しているとバティくんが愚痴るように話し出した。
「仕方が無いのです、屠々露くんには誕生日がないからなのです…。年齢だけみたら屠々露くんはおじーちゃんなのです。だから誕生日の代わりにお祝いしたのです。」
さりげなく老人扱いされたようで複雑な気分であるが、誕生日を知らない俺の為にこうして祝う日を作ってくれたことを嬉しく思う。
「そっか、ありがとう。天才さん。」
肘までしか無い腕で頭を撫でる。こんな時もしも俺にちゃんと体があればとつい思ってしまう。彼を抱きしめてやりたいといつも考える。俺はあと何百年生きられるだろうか。人の寿命は短い。どうか、彼が生きている間に抱きしめられる日が来ますように。
敬老の日ネタ。若き天才科学者と長生き人造人間。




