体温
白い息を吐きながら冷え切った体を震わせて、暗い部屋の隅に座り込む。青白く冷たい手は悴んで感覚すら失われつつある。
手を伸ばせば届く距離に温もりがあるにも関わらず、ひたすらに触れることを拒んでいた。
僕が君に触れたら、きっと君は目を覚まして嬉しそうに僕のことを抱きしめるだろう。そうしたら、僕は安心して再び眠りにつくこともできるのだろう。
そう思っても、相変わらず体は動かさないまま、ただ暗闇の中で二人分の呼吸だけが続いていた。
触れたら、この手に、体に温もりが残ってそれはいつか消えてしまうから。当然のことなのに再び手が冷たくなっていくのが怖かった。
いつかは離れてしまうのを理解しているのに受け入れることがどうしてもできなかった。
ごろりと寝返りをうった君の、硬い義手が足にあたる。びくりと体を震わせ、その手にそっと触れる。
ごめんね。ぽつりと呟いて義手を握る手に僅かに力を込めて、目を閉じる。当然、ひんやりと冷たかったがそれくらいがちょうど良い。
このまま夜が明けなければ、と思いながら無理矢理にでも眠る努力をしてみる。朝になったら、僕の顔を見て君は不安に顔を歪ませるのかな。そんな顔は見たくないから、嘘でもいいから笑っていてよ。
「心配なんかしないでよ、僕は悲しみなんて知らないからさ」
不器用な狐の独り言。




