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ユーラムさんのsan値はぴんち!

「大体、世界が変わっても元の世界の技がそのまま使えるってのは、変じゃないか?」

「出来るんだから問題ない」(キリッ)

 深く考えたらSAN値減るから考えないよ!……まあ、頭の体操的に考えたりする事はあるけど、どう頑張っても実証出来る訳じゃないからな……。

「っていうか、信じるんだね」

「見た事も無い杖だの材料だのも見たし、何より目の前で“変身”したからな。……お前って、実はすごいやつ?」

 やっぱり褒められた気がしないよ!?

 それに、これは『チェンジ』!『変身』は、また別なの!

「……そんなんじゃないよ、多分。てか勇者リクトの方がフツーに凄いと思うし。自分でも分かんない事はまだまだ多いけどさ、この世界はちょっと前まであんなんだったし、とりあえず使えるならそれに越したことはないって言うかさ、使えるもんは使わないと。命かかってるんだけどさ」

 とか言いながら、“向こうの世界(エターナディア)”では死んでも生き返るのが当たり前だった訳だけど。

 死に戻り(デス○ーラ)でさえ、笑い話のネタになったくらいだったからなあ。

 でも、こっち(トライフィリア)ではそんな仕様が生きてるかも分かんない。

 分かんないから実は今もずっと条件付け復活の魔法(ほけん)かけっぱなしにしてる。

 向こうと同じ『寺院』はあるけど、同じ『機能』があるとは限らない。

 アニメ版だと、味方側は死んだらそれっきりだったし、自分だってどこまで“向こう”のシステムの影響があるのか図りきれてない部分もあるし。

 だからって、もしかしたら1度だけの命しかないのにそんな博打とか打てないしねえ。


 ぐるぐる考えながらもそんな風に言うと、ユーラムもどこかすとんと腑に落ちた部分があったらしい。

「…………そりゃそうだ」

 なんか急に分かりあえた気がする。

 ……こんなんで共通意識持っても、しょうがないと思うけど。


「何か、楽しそうだなあ」

 サッカー見てたリクトが、期待した目でこっち見た気がした。

 朝の悪夢再び、って気がしないでもないけど。

「混ざる?」

「いいのか!?」

「別に構わないよ。ただし……」

「分かってるって!怪我しないように、だろ!?」

 まかり間違ってきっかーくんたちの頭に君の蹴りが炸裂したら、吹っ飛ぶんだけじゃ済まないんだからね?分かってる?脳漿炸裂するぞ。

 見てた通りのルールを念の為もう一度説明して、再度キックオフ。

 きっかーくんたちからのこぼれ球を拾い、肩でトラップ。そこから一気に足元に落とし……、

「シュート!」

「おおっ!何かカッコイイ!!」

 フッ、決まった。

「なるほど、ああやってやるんだな!」

 ん?

 何だ?と思う間もなくこっちに来たボールをつい(・・)普通に回収し、もう一度肩に……って!?

「うわあっ!?」

 どしゃっ

 ったた……尻もち付いた……。


「リークートー」

 きっと自分の背後には、ゴゴゴゴゴってSEと、般若の仮面が映っているに違いない。

「あ、あれ?違ってた?」

「普通の人は!肩でトラップしたボール目掛けて、蹴りを飛ばして来たりしない!」

 怖ッ!!もうちょっとで顔面スレスレとか怖ッ!!

「え、でも手は使わないんだよな?」

 合ってるよな?って顔して首傾げない!

「危険行為は禁止!当たり前だろ!?こっちは首持ってかれるかと思ったんだからな!」

「え、だってスバルだし」

「だーかーらー、なんなのその妙な信頼!嬉しいけど嬉しくないよ!?」

 ふんかふんかと鼻息荒くして説得したら、分からないなりにそれはダメだと理解したらしい。

「よーし、それじゃあもう一回だ!」

「……ハイハイ」

 やる気満々なリクトに、ちょっと疲れた気分になった。


 ひとしきり駆け回った後、汗だくになった皆が各々休憩を取ろうと元の場所に戻ると、何故かユーラムが膝抱えて拗ねてた。

「ユーラム?」

「何か、ずっりーの。俺様の知らないちょっとの間に、お前らだけで仲良くなっちゃってさ。……俺様だってリクトの仲間だろ?……放っとかれた」

 めん、どくさ……ッ!!

「ええっと、それは悪かったけどさあ。あっ、なら、ユーラムも一緒にやろうよ!走って球蹴るだけだけど、結構楽しかったぞ!」

 リクトがフォローするけど、

「完全後衛職の俺様に、お前らと同じ運動量求めんなよ……」

 もっと拗ねたのであった。


 ……ホント、メンタル弱いんだから(溜息)



 結局ユーラムはその日、一晩泊まって行く事になった。

 リクトたっての願い、という体で。

「魔王の事も見張らなきゃだしな!」

 って、本人何でか胸張ってたけど。

 それも嘘じゃ無いんだろうけどさあ……。


 用があるらしいキム兄以外の主なメンツが一堂に会した夕食は、案の定微妙に微妙な空気になってたけど、師匠もいたせいか特に騒ぎにはならずに済んだ。

 ただ家が進化した経緯について教えた時には、さすがにびっくりしていたっけね。

「キム兄はどうしました?」

 本日の夕食のメインである、俊足ウサギのシチュー(慣れれば美味)をよそいながら魔王様に尋ねると「城の建築の方が大詰めなのでな」という返事が返って来た。


「城って、まさか魔王城か!?」

「ユーラム座って。行儀悪いって師匠に怒られるよ」

「仕方ないでしょ。これから魔物も魔族もみんなこっち来るんだし、そうなるとどうしたって住む場所は必要じゃん」

「けどよっ……!!」

 ユーラムの懸念も、もっともだと思う。

 また(・・)魔族が戦力揃えて侵攻して来るつもりか、って考えたら、やっぱ不安に思うよね。

「どのみち今の魔王軍に、人間世界への侵攻をするだけの力は無いよ。人間ほどじゃ無いにしろ、魔王軍の戦力は今かなりガタガタで、ほとんど一から立て直さなきゃならないんだから。人間だったら他国から軍を借りるとかも出来るだろうけど、魔族に国なんてないし」

 むしろ、ある意味これから建国するんだけどさ。


「確かに戦闘狂ばっかの……むしろそれしかいない種族だ、って意見を否定するつもりは無い。「「おい」」でもね、魔族だってちゃんと安心して住める場所が欲しい、って感情くらい持ってるんだから」

「だからッつって、その為にオレ様の土地が奪われるってェのは、なァんか釈然としねえモンがあるんだがなァ」

 師匠はややこしくなるから黙ってて。

「……けど」

「大丈夫。心配しなくても、この先数十年から数百年は侵攻なんてしないって」

「……何でそんな事が分かるんだよ」

「落ちた戦力整えるには、実際それ位掛かるんだよ。そこは人間だって同じでしょ?時間に開きがあるのは……割に気分の問題だから?」

 魔族って結構気分とか本能とかで動くから、そのせいで人間に迷惑かけちゃって嫌われて……って悪循環があったりもするんだよね。

 でも、個々の性格や性質はそれこそ千差万別。

 魔王軍にいた頃も付き合えば気のいい奴がいたし、その逆に突き抜けちゃって「ああこれ絶対相容れないわー」って思う様な、ある意味魔族らしいエグイのもいたっけ。

 エグイのが過去形なのに関してはまあ……お察し下さい?

 見捨てたっていうと、言葉が悪い気もするけど……。


「今の魔王様は、理由無く侵攻する様な人じゃない……いや、魔族じゃないから、そんなに心配する事無いと思うよ?」

 逆にその分、一度決めたら徹底的に攻め込んで容赦なく破壊して、絶対的な支配下に置こうとする怖い部分は当然あるけどね。当然。

「信用出来るかっ!!」

「大丈夫!勇者だっているんだし!ねっ、リクト!」

「おう!」

「またお前はそうやって安請け合いして……」

 ユーラムが頭抱えた。

「人の世に在る魔をこちらで抱えようというのだ、そちらにとっても悪い話ではあるまい?」

「……ッ!!」

 一瞬だけユーラムが凄い形相で睨んだけど、結局はそのまま黙ってしまった。

 ……まあ、どの口がそれを言うんだよ、という話ではあるかな。


「それで、魔王様は?こっちに帰って来ちゃっていいんですか?細かい指示が必要な場合もあるかと思うのですが?」

 重苦しくなりかけた空気を払しょくすべく、殊更軽い口調で話しかけた。

「いや、『三公』が揃ったのでな。向こうはあれらに任せてある。我は一度戻り、その旨伝えると」

「え?魔王様使いっぱなの?」

 思わずツッコんじゃった自分は悪くない。

 ……悪くないッ。



 そして一夜明け―――

「うわああああああああああ!!?」

 翌日の朝は、ユーラムの絶叫から始まった。

「……五月蠅い」

「……何があったのー……?」

 まだ半分寝てるくさいリクトと一緒に、ユーラムの泊まった部屋を覗き込む。

「おまっ、おま、これ、お前らこの状況を見てなんか言う事ねーのか!?」

「……ああ」

「ああ、って、それだけ!?」

 だって、見たままだもの。

 半分起こした態勢のユーラムのお腹の上から、魔王様と一緒にいた筈のドラゴンパピーちゃんが、可愛くちょこん、って首傾げてる。

「何で、お前ん家、ドラゴン、ペットか!?聖獣はどうした!」

 言えてない、言えてないよユーラム。どんだけ動揺してんのさ。

「……止めてユーラム、あんまり話してると、その内ホントに来ちゃうから」

 寝起きでテンションの低いリクトが、役目あるのに……とぶつくさ言う。

「なん、なん……」

 そろそろ口回らなくなって来てんな。しょうがない、助けてやるか。


「はい、君はこっち」

 ひょい、と抱き上げると、青い赤ちゃんドラゴンは素直にすりすりして来た。

 うーん、鱗と赤ちゃん特有の張りのあるつるぴちボディ感が堪らない。可愛い。

 思わず頬ずりしてると、信じられないモノを見る様な目で見られた。

「この子、生まれたばかりで親とはぐれたっぽくてさ。拾ったボクらの事、家族だと思ってるみたい。出会ったのが昨日だから今のところ躾とかは特にしてない筈だけど、でも、むやみやたらに火を噴いたりはしないから大丈夫」

「そういう問題じゃねーよ!」

 口尖らせてツッコミ入れるユーラム。

 安心させるつもりだったのに、ダメだった?

「お前らが育ててるってんなら、してない、じゃなくて、ちゃんと躾しろ!」

 ビビったじゃねーか!と喚くユーラム。

 強がりな部分のあるユーラムが正直に心情を吐露するなんて、そんなに吃驚したんだ?

「……躾は『パパ』のお仕事だし。ね」

「なー」

 顔を見合わせリクトと悪い笑みを浮かべる。

 ユーラムは、何の事だよって顔してたけど。


「『パパ』曰く豊富な魔力が心地良いそうだから、ユーラムの魔力も美味しかったんじゃない?」

「勝手に食うなあー!!」

「きゅいー♪」

「うるせえ!!!」

 朝から騒ぐなって、後から来た師匠に即叩き出されましたよ、と。

 え、自分らも同罪なん?








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