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やっとこさ木工開始

「さてっ、と」

 午前中バタバタしてたせいで、木工に取り掛かる時間が遅くなってしまった。

 まあ作業自体はそんなに時間掛からないし、夕方には終わるだろ。

 いざ制作とばかりに師匠に借りた工房にやって来てみれば、何故だかぞろぞろギャラリーが付いて来ましたよ、っと。

 ……暇なのは分かるけどさあ。

 ……勇者と魔王が暇を持て余してて良いんだろうか……平和的で良いんだろうけど、神々じゃないんだからさあ……。

 後、魔王様が顔色一つ変えずにドラゴンパピー抱っこしてるのとか超和むわー。押し付けたの自分らだけど(笑)


 ごそごそと冒険者御用達、重い物から大きい物まで何でも入っちゃう、その名も『袋』を漁る。

 リクト達からだと、腰のあたりのポケットから取り出したように見えるだろうけど、そういう動きしてるだけで実際は異空間に手ぇ突っ込んでるのと大差ないと思う。

 いわゆる4次元無ポケットとか、ネット小説でよく言われるインベントリ何かに近いんじゃないかな?

「えーっと」

 これとこれと……なんて、ブツブツ言いながら取り出したブツを見て周囲のギャラリーが目を丸くした。

 ナンデ?

「今どっからとりだしたの……。しかもそれって……苔?」

「?うん。『ふかふかな苔』」

 触ってみると、かなり良くもふもふしてる。

 これなら、いいお布団になりそうだね。

「布団に苔だァ?おいおい、始める前からこれたァよ。……一気に雲行きが怪しくなって来やがったぜェ」

 失敬な、師匠。

「他の物は何だ?随分見慣れぬ物も混じっている様だが……」

「こっちは、糸……?機織りでもするのか?時間掛かりそうだな」

「これで本当に寝具が出来るっていうのか……?」

「きゅいー?」

 もー!外野五月蠅い!


「今回の材料は『ふかふかな苔』と『シルクの糸』『輝く樹液』と『アカシアの木』です……変な物は使って無いですよ」

「いや変だろ」

「アカシヤ……?聞いた事が無いぞ」

「あれ?こっちの世界って、アカシア生えて無いのかな?」

 植生なんてよくわかんないし。

「何をどう使うんだ?」

「ええっとね、まず『苔』と『糸』はお布団の部分だね。それから『木』は本体部分。『樹液』はニス代わりじゃないかな……多分」

「多分ってお前……」

 キム兄がすっごい呆れた顔してる。

 うんだって、よくわかんないもんはわかんないんだもん。

「ニスって何?」

「仕上げ剤みたいなもんだよ。土台の部分の一番最後に使って、ツヤを出すんだ」

「へー」

 素直な勇者は好きだよ、リクト。

「じゃあ、始めまーす」

 宣言すると、ギャラリーが「「おおっ」きゅいー!」って沸いた。


 まずは『彫刻刀』を装備して、っと。

 ごしょっ

 作業開始を脳内で指定し、取り出したアイテムを持ち上げて下す動作をすると、重い音と共に1本の丸太が乗った状態の作業台が現れる。

 案の定、その場にいたメンバーのほとんど全員が目を丸くした。

「「…………は?」」

 ハイハイそうだねー、普通驚くよねー。

 いい加減慣れた感があるなあ、これ。

「あの、さ、今取り出した材料は……?」

「え?多分これ」

 作業台に乗った1本の丸太の中に、全部吸収されちゃってるんじゃないの?

「良く分かんなそうにしてたのは、これのせいか……」

 キム兄、イェス!ザッツライッ☆

「彫るから少し音量小さめにねー」

「ちったァ周囲に気ィ使え、お前」

 動揺してる周り置いてくなって事?

 そんな解説要る様な事かなあ……?まあ明らかに、この世界(トライフィリア)の『仕様(システム)』じゃないけどね。

 ちらりと視線を向けるけど、特に答えたりしないまま彫刻刀を振り上げる。

 材料が現在難しい『向こうの世界』独自の物である上に、わざわざ『超高級な彫刻刀』を持ち出して来たんだ、失敗は許されない。

 背後に対する意識を遮断し、自分と木目だけの世界に没入して行く。

 ……とと、忘れてた。


「リクトー、『応援』して」

 視線を木から外さないまま、後ろに向かって声を掛ける。

「応援?」

「そうそう、頑張ってーって」

「が、『頑張って』ー」

 両手を口に添えたリクトがこっちに向かって『応援』すると……。

 ぼしゅうううん

「ハイッ、応援頂きましたー!!あざーす!!」

 赤いオーラのエフェクトと共に、気合いと集中力が増す。

 この『応援システム』も向こうの世界独自の物の筈だけど、こっちの世界の人に応援されても効果あるんだね。

 よーっし、頑張るぞー!

 最初は大胆に、後に繊細に。

 木目の方向と何故か感覚で分かる様になった残りの削り分を量りながら、しばし木と向き合った。



「っし、完成!!」

 てろりろてろりろてってんてん♪

 ガッツポーズと共に、目の前に完成したばかりの『豪華なベッド』が現れた。

 所々金の装飾の入った艶やかな土台部分に、美しい新緑の起毛がもふもふで嬉しい寝具。

 うん、良い出来じゃない?

「マジで出来上がってやがる……」

「ふおっ!?触り心地滑らか!?布団部分もすっげーふかふかっとしてるぜ!?」

「ちょっと!?キム兄、触るなら手ぇ洗ってからにしてよ!!」

 出来上がったばっかで汚すのとか、止めてくんない!?

「でっけえ……」

「豪華でカッコいいでしょ」

「うん!スバル、お前ってスゴイのな!!」

 ふっふっふ、そうだろうともそうだろうとも。もっと褒めたまえよ。

 ……などと、胸を反らせていられたのも、そこまでだったんだけど。


「おいこれ、どうやって家に入れるつもりだ?」

「「「あ」」」

「…………」

「きゅー……」

 何という事でしょう。大きすぎて家に入れるどころか、まず工房から出せないという事実に気づくまで、そうたいして時間はかからないのでありました。って、マジかい。


「……どうしよう?」

「作った本人のお前が言うな、お前が」

「……ったァく、しゃーねーなァ」

 仕方無さそうに師匠がそう言い、おもむろに片手を突き出した。と、

 ヴオン

 名状しがたい音と共に、家が…………進化した。

「すっげー!家、でっかくなったっ!!」

「丸太小屋同然の師匠とリクトん家が、白亜の豪邸に進化した、だと……?」

「オイこら。リクトは良いとしてスバルてめェ、言うに事欠いて小屋同然ってなァ、どういう量見よ」

「え、見たまんま言っただけですが」

「ほォう?」

 あ、これヤバい?斜め後方から、リクトがしきりに袖引っ張ってるし。

「ステキナオウチデスネ?」

「今更遅ェんだよ、ったく」

 がりがりと頭を掻く師匠。……だからそういうのは、って何度も言ってるじゃないですか。黙ってれば凄みのある2枚目さんなのになあ……。


「……そうか、元々ここはダンジョンだったのだな」

「「ええっ!?」」

 魔王様のその言葉にキム兄が「ほう」と感心し、師匠はにやりとし、リクトは驚いた。……もちろん自分も驚いたクチだけど。

「おうよ。今更気付いたか」

「あまりにみすぼらしかったのでな。気付くのが遅れた」

「この正直者め。……ここァオレ様のナワバリだかんなァ、当然だろうがよ」

「縄張りって……。縄張りにダンジョン作るのが魔族ですか」

 初めて知ったよ、そんな種族設定。


「あン?なァに言ってやがる。そんなん、力ある魔族なら誰にだって出来んだろォがよォ」

「え」

 そうなんだ?

 びっくりしたこっちを見て、むしろ向こうが驚いたみたい。


「お前にだって出来るだろう?」

 んな当然みたいに言われても、キム兄。

「っていうかその理屈だと、キム兄にも出来るって事?」

「ああ。だが、俺には魔王様に仕えるという崇高な使命があるからな」

 おおう、あふれ出る自負と自信でキム兄が輝いて見えるぜ。

 そんなキム兄に、魔王様が割とお気楽な感じに声をかける。

「ふむ。だが、ここらでひとつどうだ?自身の領土を持つというのは。一国一城の主の気分は中々に愉快極まりないぞ」

 愉快極まりないってそんな。

 そういうのが魔族の感性か。

 けど、キム兄は滅相も無いという感じに首を横に振った。

「いえっ、お言葉は嬉しいのですが、現在森林地下に作っている仮の魔王城に今後予定されている大魔王城の移築、さらには改めての魔物たちへの支配統治の徹底等、これから益々忙しくなる事でしょう。その時自分がいなくてどうしますか。傷の癒えた同胞らも順次戻って来ますし、それを考えたら自分の領土など、とてもとても管理しきれるものではありませんから」

「そうか。だが考えておいて欲しい。我の後を継ぐ者が現状おらぬ以上、お主には期待しておるのだからな」

「……っ!!魔王様っ!!そのお言葉だけで充分過ぎるほどでございます……っ!!」

 わあ、何だろうこの茶番。(棒)

 まあでも、キム兄が幸せならそれでいいんじゃない?(適当)

 ……それより何より、重苦しくない感じの魔王様って……結構新鮮かも。

 案外魔王様も、何かしなくちゃって使命感とか急かされてる事案が無くなって……素が出ちゃってるのかな?

 これが素かどうかは、あんまり接点無かった……無い様に注意してたせいもあって、まだ良く分かんないけど。


「スバル、貴様も大魔王とあれほどの戦いを繰り広げたのだ、力が無いなどとは言わせん。もし貴様が望むのであるのならば、好きな土地にてダンジョンを作り上げ、望むままにその地を支配下に置くがよい」

「支配下って……スバルはそんな事しないってば!」

 魔王様もリクトも、その言葉は正直とても嬉しかったのだけど、やっぱり正直困ってしまう。

「あー……ボク、そもそもダンジョン作れないです」

「何故だ?あれ程の魔法力を持つ貴様が、作れぬ道理は無いであろう?」

「えーと、そうじゃなくて……」

 しまったなあ、まさかこんなところでネタばらしする羽目になるとは。

「あの、ボク、魔族じゃなくてエルフです」

「「は?」」


 この世界(トライフィリア)には、どうやらエルフという種族はいないらしい。

 元いた世界(エターナディア)のエルフの外見的特徴として、尖った耳とか人とは違う肌の色とかが上げられるから……そう考えると、ここの世界でいう魔王様や師匠と同じ、人間型魔族と一緒と言えるのかもしれない。

 もちろん、魔族特有のがっしりした体型や鋭い爪や牙、あるいはしっぽも無いけれど。

 むしろそれって、他に似たのいるし。

 でも少なくとも知らない人が見たら、間違うのもしょうがないのかな、とは思う。

 実際こっち来てからずっと、そう間違われ続けて来た訳だしね。


 で、そのせいで会う人会う人(人じゃないのもいたけど)一々訂正すんのも面倒だったんで、今まで黙って皆が自分を『魔族』だって思うに任せてた、って理由もある。

 エルフだろうが魔族だろうが、外見が同じなら人間にしてみればどっちも人外で、よく分からない怖い生物=迫害(しても良い)対象、って事になるんだろう。この世界的には。


 自分が(エタ)来た元(ーナ)ゲーム(ディ)の舞台()は、人間以外にもいろんな亜人がいて人と同じ扱いの共生関係だったから、こんな風に人に拒絶された揚句魔王軍に拾って貰うなんて考えた事も無かった。

 ……そもそもこっちにトリップするなんて事も、考えてすらいなかったけどね。


 ―――そう話をしたら、キム兄が興味を持ったみたい。

「面白いもんだな、お前の世界も」

「そう、かな」

 そう言ってもらえるのは、素直に嬉しい。

 色々あったけど、自分も『あっちの世界』は好きだから。

 でもだからって、キム兄たちみたいなこちらの世界の住人を向こうに連れて行きたいとかは思わないけどね。

 ……もし、もしも万一向こうに行くような事があれば、多分きっと、びっくりする事も多いんだろうな。


「人間以外の種族?って、他にどんなのがいるんだ?」

 半分くらい良く分かって無さそうなリクトが言う。

 うーん、想像するのも難しい感じかな。

 思わず苦笑した。

「ガタイのいい鬼人(オーガ)って種族と、やたら美形率の高い人魚族。後は、技術者や職人の多いドワーフ種族に、色んなタイプの獣人。犬、猫、ネズミ、とか、色々可愛いのが(・・・・・)いっぱいいるよ。後は、ボクみたいなエルフの種族を含めて亜人は大体この5種のどれか、かな。伝説だと天人とかいうのもいるらしいけど……実際に会った事は無いよ」

 まだあの世界が『ゲーム』だった頃、いつか実装されるのかなー、なんてのほほんと考えていた事もあったけど、あれだけボス倒しまくってそれでも話に絡んでこなかったって事は……今の『あの世界(エターナディア)』に本当にいるのかどうかは、ちょっと疑わしい。

「魔族もいるけど、めったに見かけない上に基本敵対してた。そこら辺は、この世界と一緒かも。大体世界征服とか国家転覆とか、誰それを悪の道に引きずり込もうとかそんな事ばっか企んでるみたい」

「……どこの魔族も本当に(・・・)、やる事は変わらん様だな……」

「……だな」

 微妙な顔して見合わせる師匠と魔王様。

 ……って魔王様のその強調、昨日の夜ちょっとだけ話した『桃太郎』のせいですか。



「なあ、今何作ってるんだ?」

「きゅい?」

 キム兄に、出来たベッドをおっきくなった家の中に運び入れてもらっている間に、他の物を作る事にした。

 魔王様と師匠も、家の中を確認しに行くって一緒に戻ってったけど。

 何故かチビドラちゃん(仮)は、リクトの腕の中。

 生きたぬいぐるみだな、まるで。

 ……そんな風な生き物に、心当たりが無い訳じゃないけど。

 少しだけ思い出して、感傷的になりそうだったのを気合いでカバーする。

 彫刻刀持ってる今、動揺はまずいって!

「これー?これは―――っと、よし、出来た!!」

 出来上がったのは釣り竿が2本。

 後でリクト誘って、海や森の川に釣りに行くんだ♪

 でも今はとりあえず黙っとく。

 楽しみは急な方が、びっくりも嬉しいのも倍増だもんね。

「これはまだナイショ。さて次はー」

「まだ作る気か!?」

 んな驚かなくても。


「わざわざ家おっきくしてもらったし、ついでにこれからまだまだお世話になる居候としては、付け届け的な何かの1つも贈らないと、でしょ?」

「え、師匠そんなの気にしないと思うけどな」

 リクトはそんな風に言うけど。

 でも、気になっちゃったんだよね。

「師匠って魔王様やリクトと同じく、魔法も剣も同時に両方使うでしょ?けど、どっちかって言ったら魔王様やリクトは剣重視で、師匠は魔法に強いじゃない?だからさ、強い杖作ったら喜んでもらえるかなって」

「ああ!それは良いんじゃないか?きっと絶対喜ぶと思う!」

 話を聞いたリクトの顔が、分かり易く輝いた。


 家に置いてある師匠の杖は、結構年季の入った代物で……たくさんの戦闘や死闘を共に繰り広げたんだろうなって想像出来るくらい傷だらけだった。

 でも、いうほど強力な武器って訳でも無かったんだよね、魔王に次ぐ実力者なのにさ。

 大魔王戦でも使ってたし……何か思い入れでもあるのかな。

 特にそんな“描写”は無かったように思うけど。

「んじゃ、さっそく始めますか」

 意識を改め、具現化した素材と向き合った。

 

 『こくたんの木』と、宝玉『悪魔の目』それに『エンダーフラワー』

 3度土台を準備し、彫刻刀を振り下ろす。

 しばらくの間、工房に木と刃物がぶつかり合う音だけが響く。

 ちびっこドラゴンもリクトも気を使ったのか、じっと見ているだけで話しかけたりはしなかった。

 ややあって――――――

「っし、完成!」

「おおっ!!」

「きゅいー!」

 集中しすぎて出て来た汗を袖でぬぐうと、両脇から歓声が沸いた。

 ちょ、お前ら接近しすぎ(笑)

 出来上がったのは、黒を基調とした少々禍々しいデザインの杖。

 いいんだよ、師匠にあげるんだから。

 ……清純派デザインだと似合わなくなっちゃうでしょ!

 ちなみに道具として使うと、黒い雷が敵に落ちます。

 いつも(・・・)はここから練金職人に回してオプション付けてもらったりもするんだけど……この世界、練金職人なんていないし。

 まあそれはそれとして……どれどれ……?気になる評価は、っと。

 うーん、5つ星評価で星4つか。

 リクトの応援込みでこれなら、まあまあ良い出来なんじゃない?


 出来たばかりの杖の様子を確認していた、その時だった。

 後から

「ナニソレすげー杖!」

 って、驚いた声が響いたのは。


「ユーラム!?」

「きゅーっ!」

 え、ユーラムってあの(・・)

 リクトが驚き駆け寄った先には、ひょろ長いローブを着た青年。


 ――――――自称天才魔法使い、人呼んで勇者パーティーのオチ要員、こと


 魔法使い『ユーラム=ホプキンス』が、そこには立っていたのだった。













物作りタイムですが、本格的な制作過程の描写は他所様にお任せ☆


家は作成時に指定しておけば、生活に必要最低限の物くらいは揃ってる仕様。

ダンジョン作るのに、わざわざ土木工事するダンジョンマスターはいないでしょう?って事で。




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