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まずは事情説明からっ!

「しーしょーう!息子さん、弟さん連れて帰ってきましたよー!」

 案の定っていうか、何でボクがここにいるのか分からないって顔してるや。

 そんな『勇者リクト』―――『リクトガルド=メイデン』を放置して、自分はやおら後ろを振り返っては大声で叫んだ。

「あ゛あ゛~?」

 けだるげな返事を寄こしながら、のそりと後ろから出てきたのは、勇者の隣に立つ『魔王ヘルガー』―――『ヘルガード=ハデラス』……によく似た―――体格までそっくりな偉丈夫。服だらしないけど。

 勇者の育ての親にして魔王の実兄、『師匠』こと『魔族エデルガナート=ハデラス』は、

「よォ、ずいぶん遅いお帰りじゃねェか。バカ息子に愚弟」

 そう言って、魔王様そっくりな顔を歪に歪めた。

 ……服の裾から手ぇ突っ込んで、腹ぼりぼり掻くの止めて下さいよ師匠。

 全国300万(誇張)のファンの乙女が泣くぞ?

 ……ホント、何でこの人が人間サイドなんだろ。

 表情だけなら、むしろ一般的な魔王のイメージそのものなんだけどなー。

 ……人型魔族の『おっさん』って、もしや皆こんな感じか……?


 そんなこんなで帰って来た勇者と魔王一行(トータル3名)がテーブルに着き、お茶の準備も整ったところで―――ボクの事情説明な訳ですよ。……ですよねー。

 その前に、毒味のつもりなのか『キム(にい)』こと『魔王の第一側近、キムデン=カルマ』がドーナツを手に取って、もふっと一口。

「……普通にうめえ」

 目を見開いた。……てか普通って何だ。

 もふもふと続きを食べるキム兄に、リクトと魔王様の視線がこっち向く。

 だから別に、毒とか怪しい物とか入れてませんって。普通にオヤツですよぅ。


 しかしまあ2人とも見事に、どうして?って顔してんなあ。

 リクトは、あー『大魔王戦の時のアレ』のせいで『何だこの変な奴』認定されててもおかしくはないし、魔王様に至っては立場がちょっと離れてはいるけど、一応上司と部下だ。確認したくもなるだろう。

 ……別に何か企んでいる訳じゃ無いんだけどね、こっちは……もうさ。

 とと、魔王様がこっち睨んでいるから、とっととゲロっちゃおう。


「えーと、ボクがここにいるのはですね、ぶっちゃけ居場所が無いからなんですよ」

 うん、割と切実な理由だったね!

「大魔王倒しました、けどボクの『顔』はそっちと違って周囲国家に遍く知られてる訳じゃ無いでしょう?だから人間社会にのこのこ出て行ったところで……まあ、今まで『魔族』が『やって来た事』を考えるとねえ」

 ちらりと視線を向けて言ったその言葉に、魔王様が顔をしかめた。

 そそ。前から人と魔族で敵対してるっていう下地があったとはいえ、止め刺したのは確実に魔王様だからね。

 諸事情知ってて訂正も修正も方針転換もしなかったんだから、自業自得乙ですわ。

 

「でも、だからって何で『ここ』なんだよ?師匠に会いに来たのか?」

 しかしそこがよくわからん、といいたそうな表情で聞いたのはリクト。

「んー、それもあるけどー……。というか、ボクここの事結構前から知ってたよ?割と何回も顔出してたし」

「何だと?」

 魔王様、眉間にしわ、しーわ。

「ええとですね、ボク以前単独行動していた事があったかと思いますが」

「…………ああ。そういえば見かけん時期があったな」

「ですです。元直属の上司である死霊騎士大隊長殿が出奔された際、ボクも一時期魔王軍を出ていたので」

「あ、俺それ知ってる。1年くらいいなかったろ」

 ドーナツもふもふしながらキム兄が言う。ってかそれいくつ目?他の人の分、ちゃんと残しておいてよ?

「『奴』を追う為に出たと報告があったな。……余り人目につく形でうろつかれても困るので処分を命じたつもりだったが……もしや、そのまま逃げるつもりだったか?」

「いえまさか。報告内容の半分くらいは確かに虚偽でしたけど……追っかけてったのは本当だし『処分』だってちゃんと……まあ、結果的には。……その後も出ていたのは、人に会ったりする為と自分の修行の為に、です。これから先、起こる出来事について行く為には、もっともっと力が必要だと思ったので。……世界中のあちこちを回りました。この耳とか肌色とか隠しながらだったので、かなり苦労しましたよー」

 魔王様の鋭い眼光に、へらっと笑って見せる。

 でも旅している間、種族特有のとんがった耳とか人と違う肌の色とか、かなり気ィ使ったのは確か。

 バレたらゴキブリみたいに追いかけて来るんだもん。……多分こっちがゴキの方……色味的に。

「で、こんな世界の奥深くまで来たのは、人づてに話を聞いた『師匠』に会う為だったんですよ」

 ね、と師匠のほうを見ると師匠はぴく、と片眉を上げて、にやりと唇を歪めた。うわぁ、悪役っぽい笑み似合うなあ……。


 ―――実は『最初から』この場所の事は知ってたんだけど、それは今はいいかな……。

 余計な事は言わずにおきたいし……何よりこれから話す事が結構突拍子もないから、そっちを信じて貰えるかどうかの方が重要だしね。


「えーとですね、それで今ボクがここにいる理由なんですけど……。ちょっと待たせて貰ってるっていうのもあって」

「待ってるって、何?オレ達の事?」

 いやいや、君らは別にどうでもええねん。どうぞご自由に世界を行き来して下さって結構ですよー、って。

 むう、埒が明かなさそうだし、ここは最初から順序立てて話すべきかな?

 ちょっと長くなっちゃうけど、そこはもう最初の洗礼か何かだと思って頂いて。


「めんどくさいからもういっそ最初から話しちゃいますと、ボク実は、この世界の人……生き物じゃないんです」

 人間、と言いそうになって慌てて言い直す。今の自分は人間じゃないから。

「は?」とか「どういうことだ?」とかいう声を一通り聞いてから、おもむろに話し出す。

「大魔王が魔王軍組織し(つくっ)て侵攻を始めた頃に、偶然『事故』で『こっち』来ちゃったんですよ。あ、ちなみに前いた世界は『エターナディア』っていうんですけど、そっちでもちょっと事情がありまして。向こうじゃ冒険者みたいな活動してたんですよね、仲間達と一緒に。でも、ボクだけ『こっち』―――『トライフィリア』に落ちて来ちゃって。帰る為の具体的な方法が、全ッ然分ッかんないから、いっそ勇者助けて大魔王倒して全部丸く収めれば、上手い事帰り道が開けるんじゃないかと」

 そう、自分が勇者を助けたのは何も彼自身の助けになりたいとか、この世界を救おうとか、そんな殊勝な考えがあった訳じゃない。

 むしろ自分勝手な打算からだった。

「こっちの世界に来た時、どうも遠距離を一気に移動する為の『(ゲート)』ってモノが開いてたみたいで。だからその『扉』がもう一度開けば、ボク『向こうの世界』に帰れる気がするんです」

 落ちて行く自分がすり抜けた、発光する銀の扉。

 あれさえもう一度自分の目の前に現れれば。

 ……現れて、その扉が開かれさえすれば。


「でも残念な事に、大魔王倒した直後にその『扉』が開かれるとか、大魔王の城自体にその『扉』があるとか、そんなことは全然無くてですねぇ……」

 がっくりと肩を落として溜息。イヤマジであの時は、本気でがっかりして落ち込みましたとも。

 仲間にしたばかりの頼れる『参謀殿』がいなかったら、そのまま城の一室勝手に私物化して引き籠ってたかもしれない。

 ……ああうん、自分全然成長してないね。やる事が『あの時』と一緒とかね、ホントもうね。


「――――――で、もし次に『扉』が現れるのなら『ここ』かな、って」

「ここ?……って、何も無いぞ?」

 首を捻ったリクトに、『いやいや重要な場所ですとも』と、内心だけで返事をする。

 『ここ』は勇者の旅立ちの地であり『全てのはじまり』の場所。

 資源だとか地理的に重要じゃ無くても『物語』としては重要だから。

 それがここを選んだ理由。

家主(ししょー)にはもう許可取っちゃったからね。今さら駄目だって言われても、他に行くトコないんだし、勘弁してよ」

 ねっ、と両手を合わせて拝み倒す。

「ほらボクこんなナリだし、人間社会に紛れ込む事も出来ないって言ったでしょ?その点ここならそんな要らないトラブルとか無いし。ね、ね、いいじゃない」

「う゛、それは……そうだけど」

「何も、ずっと居座るって言ってるんじゃないんだからさー」

「え、そうなのか?」

「うん。……ここでちょっと休みがてら少しだけ待たせて貰って、それでもダメなら扉を探しに世界中を旅する予定」

 ゴリ押しした揚句に先の事を話せば、魔王様とキム兄が感心した様に息を吐いた。

 ん?それってどういうことだってばよ(特に食ってるだけのキム兄)

「顔色と耳は?どうするつもりなんだよ」

「顔色が悪いみたいに言うな、当然隠すに決まってんだろ。夜歩けば案外バレないし」

 これ、1年間放浪した末の実体験だったり。

 外見に気をつけてタイミングさえ見計らえば、案外人は他人の事気にしないもんだよ。


「で、ボクの方はこんな感じなんですけど、魔王様の方はどうされるおつもりで?」

 一通りこちらの事情を説明した後で、魔王様の方を見る。

 ここに来たって事は、兄である師匠に話があったんだと思うから。

「ああ……『城』をどうすべきか、兄者の意見も聞きたくてな」

 やっぱり大魔王城の事か。

 でも奴が残してった城は、魔王様が直々に管理すべきだと思うけどなあ。

 『人間』は欲深で分からずやだから、手に入れたとしても入れられなかったとしても、きっと争いの種にしてしまうだろう。

 アレは基本、信頼しない方がいい。

 ―――そんな事を言ったら、リクトに「そんなことないよ!」って全力で否定されたけど。

 でもさ。

「そんな事あるよ。きっと連中、漁りに来る。ガラクタならともかく、手に負えないもの手に入れてはっちゃけたりしたら……。何かあってからじゃ遅いんだよ?ボクは元々人間だったから、そういう、どこまでもとことん追いかけて手に入れようとする貪欲さを知ってる。だから……」

「えっ!?お前魔族じゃないのか!?」

 そこ喰い付くんかい。


「……元々は人間。この姿はまあ……『呪い』みたいなもん、だと思ってる。寿命があるかは分かんないけど、少なくとも歳はとらなくなったな」

 人に換算すればまだ10代で、一応成人はしている筈だけど、きっと多分まだ成長期の筈のこの体。

 でも種族が人と違うせいか、一向に背が伸びない。

 それは『向こうの世界』にいた時からずっとで……。

 自分自身あまり身長や成長に関しては気にしてないし、その方が『都合がいい事』も多い。

 ……でもこれから先を考えると……『死』とか『死』とか、気にならない訳じゃないって程度のジレンマがある……ってところかな。


「呪い、か。確かに寿命の短い人間共からすりゃ、周りがジジババになっても自分だけは……っつうんは、一つの呪いかもしれんなァ」

「だが、元来人であるならばなおさら、普通はそこで不老、あるいは不死になったと喜ぶものだと思うがな」

「ですな。過去不老不死を狙って魔王様の元へ来た人間の話は、実際よく耳にしますし」

 師匠と魔王様、ついでにキム兄が口を挟む。

「望んでそうなるのと望んでなくてそうなるのじゃ、受け取る意味合いも違ってくるってもんでしょう。好きでもない人から愛してるって言われて、嬉しいって思うかどうかはその時次第。そうじゃありません?」

 割に極端な例だけど。

 そんな風にのんびり構えて話してたら、突然リクトが怒り出した。


「あ、けどっ、元々同じ人間なら、なおさらどうして魔王軍についたりしたんだよ!?」




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