プロローグ2
『死霊使い(ネクロマンサー)』実装はよ。
世界の隅の隅のそのまた奥にある寂れた俺の故郷から、独り立ちしてどれだけの時間が過ぎただろう。
生まれた直後、北の果ての入江に捨てられたらしい俺に両親はいなくて、師匠がずっと世話をしてくれていた……らしい。
15歳になったオレは、師匠に世界を見て来いって言われて、あっさり世間に放り出された。こう、ぽいって。
ラッキーだったのは、旅を始めて間もなく旅の仲間が出来た事。
自称天才魔法使い、だけどちょっとだけメンドクサイ性格の兄貴分に、元盗賊でオレ達の誰も頭が上がらない、怒らせると一等コワイ姉貴分。
それに、あまりしゃべらないけれど戦い以外でもすごく頼りになる魔法戦士に、守らせれば右に出る者は誰もいない、でかくてごっつくて豪快な重戦士。
それぞれひとクセあるけれど、皆オレの自慢の仲間達だ!
そうそう忘れちゃいけないのが、魔物に襲われては撃退を繰り返した道中で拾った、傷ついた小さな生き物の事。
そいつはやがて大きく育ち、いつしかオレの頼れる守護聖獣になった。
とある大きな砂漠の国のお姫様という後ろ盾を得た俺達は、やがて人々を苦しめる魔族を退治する役目の為に旅をする事になる。
世界では魔族の王―――大魔王率いる魔王軍がはびこり、多くの人が犠牲になっていたから。
助けられたのはきっとごく一部の人達だけで……今でもそれは、悔やんでしまうけれど。
一度死ぬ目にあって、目を覚ましたらどういう訳か大魔王の下についてた魔王が仲間になってて……え?上司である大魔王裏切ったの!?え?裏切ってない?……どっちなんだってば。
えっと、元々味方じゃ無かったって事?じゃあ人間支配しようとしてたのは?
え?魔族の本能?効率?……よく分かんないけど、ついでみたいな言い方すんなよな!
人も魔物もたくさん死んでるんだぞ!
師匠が魔王の兄弟だとか、そんなびっくりするような話が飛び出た後、オレ達は世界そのものを消滅させようとする異世界からの侵略者と戦う事になる。
その、最終決戦の最中の出来事だった。
『彼』が、戦場へ飛び込んで来たのは。
『魔王軍直下、死霊騎士大隊長“代行”』と名乗る『彼』は、どうやら『死霊使い』だったらしく、姫様と共に戦場へ馳せ参じた人間側の精鋭部隊の目の前で、いきなり大量のアンデットを召喚した後、彼らに指示し、あるいは自身も何やら色取り取りのリボンを取り出しては、負傷した兵士達を襲ってその紐を結び始め、かと思えばやたら手際良く、リボンを結んだ負傷兵達のけがの手当てをし始めた、らしい。
いや、その時俺たちは、大魔王城の奥で死闘を繰り広げてたからな。
他にも、謎の―――誰も見た事が無い様な集団全回復魔法を掛け、そんな大技を放ったにもかかわらず特に疲れた様子も見せないまま―――やたら謎のポーションがぶ飲みしてたらしいけど―――手当てがひと段落すると、『彼』は戦場に『救護活動を続ける不思議な死霊兵士達』(普通あり得ない)を残し、オレ達の元へたった一人やって来た……らしい。
ここからは、俺も見ていた。
仲間が傷つき、あるいは捕らえられ、苦しい最中の出来事で。
後ろから飛び込んで来た彼は、大魔王の一撃を細っこい棒一本で受け止めた。
――――――まあその直後『タンカー何やってんだよ、仕事しろよ!!こっちは紙装甲なんだぞ!普通に死ぬわ!!』って怒鳴られたんだけどさ。
っていうか、本当に直後ふっ飛ばされたし。首、変な方向に曲がってたし。
でも一瞬の後、輝く光に包まれた『彼』は、浮き上がる様に生き返った。
それは何か神々しい物が目覚めるのにも似て、思わず一瞬手が止まってしまうほどだった。
きっとそれは、あの大魔王でさえも同じだったんだと思う。
だってお互いの命がかかったこの戦いで、オレ達の手が止まるなんて大チャンスに攻撃しないなんて、普通無いだろ?
この世界に蘇り魔法の使い手なんて、ほとんどいない。
むしろ奇跡に近い御技だ。
それをああも、いともあっさりと。
『彼』は何事も無かったみたいに、今使ったばかりの―――あとで教えてもらったところによると―――『自動で生き返る魔法』を掛け直した。
その姿には、さっきまで瀕死だった筈の魔王までもが立ち上がり、驚いていたほどで。
回復魔法専門だという『彼』の援護で、戦況は激変する。
回復だけじゃなくて魔法で防御を上げたり、重戦士には『重さ』を与えたりしていた。
あきらかに大魔王が前に出て来れなくなってて、そういうの、役に立つんだな、って戦闘中のギリギリの思考のどこかで薄ぼんやりと思ったのは少しだけ覚えてる。
前衛の守りを引き受けてくれてる重戦士と魔法戦士の二人の手が空かない時には、いきなり飛び込んで行く事もあって、ひやひやしたりもしたけれど。
―――けど、不思議と悪くなかった。
それどころか、オレ独りで剣を振るうよりも、もっともっと力が湧いて来るっていうのかな。
隣に立ってオレと合わせて杖―――彼曰く『棍』というんだそうだけど―――を振るう『彼』の行動は、まさに援護そのもの。
さらにタイミングが合えば、俺と同時に同じ動きをする。
そういう時は決まって、相手に大きなダメージを与える事が出来た。
大魔王の最強カウンター技まで真似出来ると知った時には、大魔王本人もかなり驚いていたみたいだったけど。
でも「その隙に攻撃しろ」っていうのが『彼』なのかな。いや、よくは知らないけどさ。
その後も、驚くような事ばかり引き起こした揚句に―――
大魔王にとっては予想外の――――――そして人類にとってはきっと最高の―――味方を付けたオレ達は無事ヤツを倒し、その野望を阻止する事に成功した。
『彼』はしばらくの間残ってて負傷兵の救護の続きをしたり、魔王と話し込んでいたり『何か』を探したりしてた様だったけど、気づけばその姿は消えていて――――――
それが、何で『こんな所』にいるんだ!?
王国で大々的に開かれた大魔王討伐祝賀会に招かれ、皆の無事を喜んだ後、オレは魔王と魔王の仲間達と共に故郷へと帰る事にした。
オレの仲間達はそれぞれに帰る場所や行くべき場所があるという事で、そこで別れたから。
落ち着いたら、オレの住んでた家にも顔を出してくれるっていう約束をして。
いつもオレのそばにいてくれた守護聖獣も、役目を終えたという事で間もなく天に帰って行った。
こっちは次にいつ来れるか分からないみたいで、それは結構寂しかったな。
もしかしたら……って思っちゃうし。
魔王が何故オレについて来たのか、っていうのはケンゾクの魔物の事とかもあって、これから新しく棲みかを探すからなんだって。
人間側とも今後新しい関係を結ばなければいけないし、大魔王城の管理と所有権についての話し合いもあるしで、兄である師匠の意見も聞きたいってさ。
寂れた村の脇を通り過ぎ、鬱蒼として広大な森林地帯を抜ければ、そこに広がる大海原とどこまでも続く白い砂浜―――そして、一軒の粗末な小屋。
帰って来たのだと感慨深くしみじみ思いながらそのドアを叩こうとしたところ、不意にがちゃりと開いて中から一人の少年が顔を出した。
「あっ『リクト』お帰りー。今ちょうどドーナツ出来たとこなんだ、食べる?」
真っ白なフリルのエプロンを着け、穴あきお玉を持ってドアの中から上半身を覗かせた、闇より黒い髪と黒の瞳に薄紫色の肌をした『魔族』の少年は、そのきれいな顔にくっついた切れ長の瞳をすうっと細め、ふわっと柔らかく笑った。
それが『彼』――――――『スバル』
こうして、しばらくの間、魔王と勇者と謎の少年(と師匠)による、不思議な同居生活が始まってしまうのであった。
…………本当に、何でなんだよー!おかしいだろー!?
『魔王』の上に『大魔王』はダ○大、『魔王』と共闘してVS『ラ○ォス』だとク○ノトリガー。
リニューアル版のⅣだと『ヒ○サロ』と共闘してVS『隠しボス』&『隠しダンジョン』……。
つまりはそういう事です。