プロローグ1
「『アンリアルコード』に揺らぎ!?まさか!」
その日、エターナディア世界において発生した異常事態は、世に住まうすべての者に気付かれることなく進行していった。
「ダメです、『管理主』と連絡がつきませんっ!!」
「『扉の巫女』は!?」
「意識不明の重体!どうやら外部からの干渉のようです!」
「はあっ!?そんな事が出来るのは、それこそただ1人しかいないだろう!っく、“管理主”は一体、何を考えていらっしゃるのか!」
例外として、世界を統べる『管理主』と呼ばれる存在と、それを支える一部の『役持ち』と呼ばれる存在だけが、それを知る事が出来たのだが。
「もう持ちません!境界が消えていきます!」
「このままでは、『世界』どうし繋がってしまう……!!」
「ああっ!?『人』が!!」
「こんな……っ、事がっ……!!」
「『管理主』よ!!」
まるで地上にいる人が、星の海を往く船が地上に落ちてくるのをただ見ている事しかできないように。
脈絡も無く起ってしまった緊急事態と、あっという間の進行速度に、彼らはなす術も無く見ている事しかできなかった……のだが。
それでも。
「いや、今からでもできる事はある。水先案内人を呼べ!」
世界を管理するという役を負った彼らには、それを放棄する事は許されない。
例え管理主が世界を見捨ててしまったとしても、例え壊れた船またたく世界に手が届かないと知っていたとしても、それでも―――
手は、尽くされねばならなかった。
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『こっちの世界』に落ちて来て、もうどれくらい経っただろう。
『ゲーム』で作った『女性声優による少年ボイス』の『エルフ』の『少年型アバター』は正直貧弱で、生き残る為に必死になって『レベル上げ』をして、生きる為に必死になってお金を稼いだ。
魔物を殺す事にも慣れて今や何とも思わなくなったし、ヘタレ『プレイ』で何度も死んでは怒られるへっぽこな自分だったけど『復活仕様』のおかげで『死』にすら慣れた。
『リアル』では不器用だったしセンスも無かったから『木工』なんていうのは苦手の最たるものだったけど、皆の為だと思えばそんな苦手な事も言ってる場合じゃ無く、やがて気にする事も無くなって行った。
……もっとも、職人スキルのおかげと、継続は力でそれなり腕が上がったっていうのもあったけど。
『ここ』に来た当初は、目に映る全ての物が怖くて正直引き籠りかけた。
でも、幸いにもその時偶然『一緒にプレイ』してた『弟』がいたから何とか頑張れたんだ。
『ソロ専用サーバー』で活動してたから基本ぼっちだった『私』。
こっちにきてますます複雑な『問題』を抱え、それでもやがて知り合いが出来て、いつの間にかそれが友人と呼べるまでに仲良くなり――――――いつしかチームを組んで活動する様になった。
言いだしっぺは誰だったろう。
気が付けば大陸どころか世界中公演して回る、ある意味有名な『歌うたいの旅芸人一座』になっていた。
そんな私達が、ついに『ラスボス(多分)』を倒す所までこぎつけたのだ。
死闘だった。
皆必死で戦った。
それでもこれが『終わった』ら、きっと『元の世界』に帰れると信じて気力も体力も振り絞った。
結果、『終の王』は消え去り、天空高くそびえ立つ根城は崩壊を始める。
たった一つの誤算は『ゲームだったら』無事に地上に降り立つことが出来たであろうその“インディージ○ーンズ張り”のデッドコースターに、崩壊した瓦礫がぶち当たった事。
『弟』が叫びながら手を伸ばすのを見ながら、『私』は茫然とした表情のまま落ちて行く。
『今度こそ死ぬのかな』
そんな事を思いながら。
最後に見たのは、四角く切り取られた空に浮かぶ額縁の様な枠と、開ききった白銀の扉。
――――――ああ、また『トリップ』か。