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プロローグ

元々MASH UPというタイトルの初音ミクオリジナル小説として出していました。前編後編とあり(後編は未完成)二次創作にしてはオリジナル要素が強かったので、今回前編後編の要素を一つに纏めたオリジナル作品としてリテイクする事にしました。

元は3年前に書いた物で今現在も未熟な部分が多々有りますが、伏線と思惑が錯綜する群像劇を楽しんで頂けたらと思います。

 物とは凶器である。だがそれらは前提として便利な道具でもある。

 本質として二つは同意義だ。

 人間は便利な物を倫理的に間違った使い方をして凶器にも変えてきた。ナイフや火薬などがそうだ。

 だから適切な使い方をする一方で間違った使い方をする人が必ず居る。物というのは、そういうどちらにでもなれる存在だ。

 しかしそれは、物にはどちらかになる選択肢が無いことを意味する。どちらに転ぶかは全て物を使用する人間次第だ。

 もし物と人間の狭間に位置する存在があったとしたら、それは一体どちらに属するのだろうか? 罪を犯した時、一体どちらの存在として裁かれるのだろうか?

 これは、今から少し未来の話だ。

 そして、いつの日か現実に現れる問題だ。

 だから、君は読み進める中で考えてほしい。

 人間と物の狭間の存在が生まれた時、僕らはそれを人間と見るべきなのか、物と見るべきなのか。


     ↓


 全ての始まりは、とある春先の出来事だった。

 六歳を迎えた少女――鷺原咲(さぎはらさき)は誕生日に家族でドライブへと出かけた。共働きの両親が珍しく二人とも休暇をとり、サプライズとして企画したのだ。

 市街地で過ごす家族水入らずのお出かけは咲にとってとても楽しく、彼女はずっと笑顔を浮かべて過ごした。大きな熊のぬいぐるみを欲しがって泣き出すというハプニングもあったが、それでも彼女にとっては楽しい一日として締めくくられる筈だった。

 だがその帰り道に事件は起こった。

一家を乗せた車は雑居ビルの間を縫うように張り巡らされた高速道路を進んでいた。時刻は既に夜十時を過ぎ、後部座席で咲はスヤスヤと眠っている。

そんな彼女を、助手席に座る母――鷺原束音(さぎはらたばね)が微笑ましそうに見つめていた。

「咲、寝ちゃったみたいね」

「あれだけ遊んで、いつもならもう寝ている時間だしな」

 運転する父――鷺原裕一(さぎはらゆういち)は視線を前に向けながらも苦笑を返す。

「咲も、もう六歳か。早いもんだ」

「子供の成長って、本当に早いわね。……ふふっ、ぬいぐるみを抱えちゃって。どっちが人形か分からないわ」

 ぬいぐるみの大きさはまだまだ小柄な咲の体より少しばかり大きく、彼女はそれに覆われるように抱きついている。

 チャイルドシートは卒業したというのに、今はぬいぐるみがその役割となっているかのようだった。子供らしさが何時までも抜けない様子は愛らしさを感じさせる。

 突然、車内で着信音が鳴った。裕一は運転に集中しながらも、慣れた動作でハンドブレーキそばに置かれた携帯を手に取る。

「ちょっと、こんな時に電話に出なくても……」

「悪い悪い、でも仕事だからさ」

 そう言って苦笑しながらも電話をとった。

「はい、鷺原です。ああ桐崎(きりさき)か、どうしたんだ?」

「もう、危ないわね……」

 呆れた束音はため息を吐いて頬杖をつく。だが次の瞬間、裕一が声を上げたのに驚き、目を丸くした。

「は!? 何を言ってるんだ突然」

「え? ――きゃあ!」

 驚きのあまりハンドリングがぶれて、車体が左右にふらつく。裕一は慌てて運転へと意識を戻し、車体のブレを整える。

「ど、どうしたのよ突然!?」

「わ、悪い……」

 平静を取り戻そうとしていたが、裕一は明らかに狼狽えていた。そんな状態にしてしまう程の電話内容を束音はとても気になる。

「あなた、代わって。私が受けるわ」

「あ、ああ……頼む」

「もしもし、電話代わりました。束音です」

峰津院(ほうついん)さん、桐崎です」

 束音の耳に聞こえてきたのは男の声だった。若々しくボーイソプラノを思わせる綺麗な声だが、彼――桐崎孝介(きりさきこうすけ)は裕一や束音と同い歳の同僚である。

 峰津院とは束音が嫁ぐ前の苗字だ。結婚以前から親しかった桐崎は、時々癖でそう呼んでしまっているようだ。

「考介くん、今は鷺原ね。……それよりどうしたの? 何があったの?」

「ごめんよ束音さん。大変なんだ! 今すぐ安全な場所に隠れてくれ!」

「ちょ、ちょっと待って! どういう事?」

「詳しい話は後だ、君達は狙われている!」

「狙われてるって、誰に!?」

「僕達が開発していたソフィア5013のプロトタイプだ!」

「え……?」

 桐崎から告げられた名称に束音は困惑し、声を失った。それと同時に、咲が目をこすりながら寝覚めた。

「ふぁ……どうしたの、ママ?」

「あ、いえ……何でも、無いのよ。咲は何にも心配しなくて大丈夫よ」

 だが束音の様子は裕一と同じく明らかに狼狽しており、何も分からない状況に怯えも混じっている。

「とりあえず本社に行こう。あそこなら安全だ」

「そ、そうね」

 二人の焦りに呼応するように、車はスピードを上げる。

視界の先には、天を貫くような巨大なビルが一本、街の中心にそびえ立っていた。低い雲がかかりそうな程の高さを誇るそのビルは、屋上付近の側面にフリジメント社を意味する大きなロゴが光を放っている。

「おうち帰らないの?」

「ああ。すまないが、今日はお父さん達の会社にお泊りだ」

「ふぇ……帰りたいよう」

 涙声の咲は目に涙を溜め、今にも泣き出しそうになってしまう。

「お願いよ咲、泣くのはやめて……ね?」

「でも……でもぉ……!」

 しかし泣き声を上げる直前、一家を乗せた車を衝撃が襲った。

 一定の速度で走っていた車は突然空から降って来た何かによって、フロントをその場に刺し貫かれてしまったのだ。まるで突然出現した電信柱に激突したような状態となり、車はフロントから大きく爆発した。

 跳ね上がる世界、燃え上がる視界、縦横無尽に反転する天地。

突然の事に状況を理解する事ができない裕一と束音が最後に見た光景は、何処からともなく現れた人物が自らの細い足をボンネットに突き刺した姿だった。

そしてその人物の頭には、とても奇妙な事に、猫耳のような丸みを帯びた三角形が二つ載せられていた。

 現実味を一切感じさせない光景・状況を前に、祐一と束音は何も理解できないまま……爆炎にその身を焼かれた。


     ⇔


 突然の爆発で咲の身体が宙に浮いた。と同時に、車が縦に回転した。走行中の車体前方で起きた衝撃に、後方から跳ね上がったのである。

 この時、奇跡的な幸運が有った。

遠心力の渦の中で咲の体は宙に浮かび上がり、その先には車体全体が反転してガラスが吹き飛んだ後部窓が有ったのだ。

咲の体はそこから勢い良く投げ出された。

 絞めつけられるのが嫌でこっそりシートベルトを外していた事。後部座席に居た事。咲の体がまだ軽く小さかった事。そして何より、クッションになる大きなぬいぐるみを抱いていた事。

それらの幸運が重なり、咲は爆発する車から奇跡的に脱出する事ができたのである。

 突然の事に何が起こったのか解らないまま、咲の体は地面に転げ落ちて道路の端にある壁にぬいぐるみを挟んで叩きつけられた。その時にグキンという鈍い音が鳴り、どうやら足の骨が折れたらしかった。

「う……くぅ……」

 体中に激痛が走り、足は痛みを通り越して感覚が麻痺していた。

 震える手を地面につけて立ち上がろうとしたが、力がうまく入らず立ち上がれない。それどころか今にも気を失ってしまいそうだった。

 気を失わなかった理由はただ一つ、何処かにいる両親の姿を見たい。幼い故の単純で大きな気持ちが有ったからだ。

「パパ……ママ……」

 何とか壁に寄りかかる形で半身を起こす。自身の体を見ると、買ってもらったばかりのワンピースが血や砂粒などでひどく汚れていた。

 痛みと服が台無しになってしまった事に涙が溢れ、視界がぼやけていく。

 先程から絶えずパチパチという焚き木の弾けるような炸裂音とゴウゴウという強い火が空気を震わせる音が聞こえていた。

 咲は改めて周囲が異常に明るい事に気がついた。街灯や月の灯りとは到底思えない程の強い光に違和感を覚え、そこを向いた。

 視界の先では車が横転し、炎上していた。ボンネットはクレーター状に歪み、クレーターの中心には足の太さ程の穴が開いており、絶えず火を噴き出している。

 そして、車の窓からは血にまみれた男性の太い腕と女性の華奢な足が一本ずつ出ていた。そしてそれらはすぐに火に巻かれ、グズグズになって消えていった。

 幼い少女が目にするには、この光景は余りに凄惨を極める。だがそんな光景を前にしても、咲はきょとんとした顔で、両親の死体が消えていく光景をジッと見つめていた。目から滴り落ちる涙は依然として痛みと服が汚れたショックからくる涙で、悲しみ等の感情が一切混ざらない単純な涙だ。

 幼すぎる咲には死という物を理解する事が出来なかった。

 両親の死から自然と連想される筈の、今までの思い出やこれからの自分、そしてこれから先の環境。六歳の少女には、そうした恐怖や悲しみを生む要素を思い浮かべる事が出来なかった。

 それ故に咲に出来た事は、『眠った両親』に呼びかける事だけだった。

「パパ……マ、マ。おきてよ……そんなとこ居たら、危ないよ……?」

 声を搾り出したが、炎の燃え上がる音にその声は空しくもかき消されてしまう。

 焦点が定まらない中で、ふと、咲は側に落ちたぬいぐるみに目を移した。栗色だった熊のぬいぐるみは黒煙と砂粒によって、咲と同じくらいに薄汚れていた。

 両手で地面を這いずり、片足を引きずりながらそれに近づくと、それ抱くようにして体を預けた。ぬいぐるみの毛で涙が拭われるが、拭った以上に流れ出てはぬいぐるみに染みこんでいく。

「子供……か?」

 それは女性の声だった。凛々しさと儚げな雰囲気を内包したその声は、不思議と機械的な濁りもあった。

 咲は車の向こうに揺らめく炎に視線を向ける。先程よりもぼやけて見えにくい炎の中に、いつの間にか一つの黒い影が揺らめいている。

 周囲に燃え上がる濃い赤から、一箇所だけその色を切り取ったような、揺らめく黒。それはまるで立ち昇る黒煙に見える。

 影は少しずつ太くなり、輪郭もハッキリとしていく。女性的な体のラインや細い手足、そして頭に載る猫耳を赤い背景に黒々と写す。凄惨な状況でひどく浮いた光景に、咲は小首を傾げる。

「ま……ま……?」

「違う……私は……」

 淋しげにそう呟く影の人物は、咲の側まで歩み寄ると立ち止まって彼女を見下ろした。顔や容姿は影となっていてよく分からないが、その目は赤く光りとても威圧的で、刺すような殺意が常に内包されている。

 だがそれにも関わらず、咲は薄く安心した表情を浮かべる。

「よかった……ママ……」

 そう言って咲は気を失った。元々限界だったのを、勘違いでも親の姿を見られて気が緩んだのだ。

 遠くから近づいてくるパトカーと消防車の音が大きくなってくる。影の人物は星を見上げるように顔を上げ、そして最後にもう一度咲を見下ろした。

「おやすみ……今は、今だけは、良い夢を……」

 そう呟いて、影の人物は人間では到底できない程の跳躍によってその場を後にした。その脚力が車を破壊したのだ。

 ビルとビルの間を何度も跳躍し、現場が見えなくなる距離まで離れた頃、影の人物は小さく疑問を呟く。

「あのような子供まで殺人対象なのか……? いや、そんなワケが無い。幾らなんでも、あの方はそこまで鬼では無い筈だ」

 だが答えはどこからも返っては来ず、疑問を胸に仕舞った。まるで抵抗する気持ちを抑えつけるかのように。


     …


 それから一時間後、現場は駆けつけた警察や消防等によって騒然となっていた。道路は当然通行止めとなり、車の火は既に鎮火されていた。

 警察でも消防でも無い普通のバンが事故現場に到着し、中から一人の男が急ぎ降りた。メガネを掛けた優男――桐崎孝介は周囲を見回し、担架で運ばれる直前の咲を見つけた。

「咲ちゃん!」

 咲に駆け寄った桐崎はボロボロの彼女を見て声を失った。

「おじちゃん……パパとママは?」

 弱々しい問いかけに桐崎は口を閉じる。ここに来るまでに二人の死亡を聞いていたからだ。

「咲ちゃんの……パパと、ママは……」

 大丈夫と言ってあげたかった。こんなに弱った少女を安心させてあげたかった。

 だが桐崎にはそれができなかった。

 後ろめたい気持ちと、二人を失ったショックは今の咲よりも遥かに大きかったのだ。

「ごめん……ごめんよ……」

 咲の片手を両手で包み、懇願するように額を当てる。

「僕の所為だ。僕がもっと早く知らせていれば……僕がもっと早く知っていれば……」

 涙が頬を伝い、咲の手に落ちた。彼女はまた眠りに落ちたらしく、小さく寝息をたてている。

 救急車を見送る桐崎は、煙草を一本取り出して火をつける。

 立ち昇る煙を目で追いながら、内心に湧き上がるどうしようもない怒りに、火をつけたばかりの煙草を握り潰した。

「奴に……報いを。最も惨めで残酷な報いを与えてやる……!」

 この事件が、桐崎の決意が、この半年後に起きる事件の最初の引き金となる事は、まだ誰も知らない。

 事の大きさも、誰が悲しむのかも、誰も予測することは出来ない。

 人は前触れを見せずに罪を犯し、それを予知することは全くできないのだから。

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