8.トマスの不服
トマス視点です。
エルシーの様子が最近変だ。以前なら、どんなに仕事が忙しくても厨房に顔を出さないことはなかったのに。最近は厨房に顔をだすのはナナオ様の茶器を片付けるときだけで、しかも俺に話しかける余裕もないらしい。
また余裕が出てきたら、厨房でまた一緒にお茶が飲めるだろう・・・そう思っていたのに。
「ナナオ様。エルシーが最近一緒ではないようですが」
厨房で俺の書いたレシピでケーキを作っていたナナオ様に聞いてみる。
「エルシー?そりゃあ一緒じゃないわよ。クロスビー家にいないもの」
俺はナナオ様の返答に耳を疑ってしまった。
「はあ?エルシーの仕事はナナオ様の世話係なのに、ですか?」
「ちょっと、エルシーの助けが必要なところに行ってもらっているの。」
「はい?それってどこですか?」
「トマス、混ぜ具合はこれくらいでいいのかしら」
ナナオ様は俺の質問に答えずに、材料を混ぜた状態を見せてきた。
「へらですくって、角がたったらいいですよ・・・って、ナナオ様。質問に答えてくださいよ」
「どこかって聞いてどうするのよ」ナナオ様は生地をへらですくった。
「どこにいるかだけは知っておきたいんです」
知っておけば、俺が安心する。
ナナオ様は、角がたった生地を型に入れ表面を平らにならした。
「トマス、あとはこれを天火に入れるのよね。もう入れていいの?」
「埋め込んである魔法石が赤くなってからですよ。・・・ナナオ様。エルシー、どこに行ったんですか?」
ナナオ様は魔法石が赤くなるまでじっと天火を見つめ、赤くなったのを見て型を天火に入れてフタを閉じた。
「エルシーは、ベルカフェに行ってもらってるの」
「何でまた」
「ベルさんの手伝いをしている女性が1週間ほどアイルズバロウ家の仕事でどうしてもカフェのほうに来られなくなってしまってね。エルシーなら接客慣れしてるからどうかと思って。打診したら、喜んで行ってくれたわよ」
「・・・・どうして、俺に何も言わなかったんだろう」
俺のつぶやきを耳ざといナナオ様は聞き逃さなかった。
「付き合ってるからって、何でも相談したりしないでしょう。」
「そりゃそうですけど。」でも、正直ナナオ様の申し出を俺に相談もなく引き受けたエルシーにちょっと腹が立つ。
「そういえばエルシーのベルカフェ最後の日はトマス、休日じゃなかった?」
俺は、厨房にかけてある暦をみた。確かに、俺の休日だ。
「・・・・ナナオ様」
「何かしら」
「俺がエルシーを迎えに行ってもいいでしょうか。」
「トマスの休日じゃないの。好きに使いなさいよ」
ナナオ様がにっこりと笑った。
読了ありがとうございました。
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ナナオがエルシーに持ちかけたのはベルカフェの手伝いでした。
ご都合主義好きで、ごめんなさい。