7.ナナオ様とお茶を
奥様は企む。の巻
クロスビー家では、その気になれば特定の相手を避けることはたやすい。
私はナナオ様のお世話係以外にもさまざまな仕事を引き受け忙しくした。おかげで厨房に行っても慌しく茶器を片付けるとすぐに次の仕事のために厨房をでる。
トマスさんは、私の忙しそうな様子に声をかけてこないし私も声をかけない。一日の仕事が終わると、もうぐったりでベッドに横になるとすぐに眠気が襲ってくる。
食事のほうはさすがに一緒に食事をしなくてはいけないけど、二人きりになるということはまずない。たいていヴェラさんかクロードさん、ミリアムさんやティアさんが一緒だからだ。時にはナナオ様も顔を出して私たちと食事をしていくので、そこは助かっている。
こんな状態がもう2週間は続いていて、さすがにトマスさんもおかしいと感じているのか話しかけようとしてくるんだけど、私のほうが忙しくしているのでそれもできないようだ。
今度実家に帰ったときに家族に全部話そう。このまま嘘をつきとおすのは、もう疲れた。
「ねえエルシー、ここのところ変だよ?」
ナナオ様は私のいれたお茶を一口飲んだ後、心配そうに私を見た。
「そ、そうですか?いつもどおりの私ですよ」
「なんか、仕事をしすぎじゃない?何かあったの?」
「い、いいえ。特になにも。」
「エルシー、まあちょっと座んなさいよ」ナナオ様が、躊躇する私を強引に椅子に座らせた。
ナナオ様が「エルシーほど美味しくいれられないけどさ、さあ飲んで。夜ならお酒を勧めちゃうんだけどね~、さあ女子同士の会話を始めましょうか?」とにっこり笑った。
「なるほどねえ~。急に付き合い始めたっていうから驚いたけど、そんな事情だったとは」
私はありのままをナナオ様に話した。お叱りを受けるかと思ったけどナナオ様はあっさりと納得していた。
「まあ、気の進まないお見合い話を断るのにはいろいろ口実を使ってもしょうがないし。それにしても、トマス・・・・まったくもう。」
「はい?」
「ねえ、エルシーはずっと苦しかったんじゃないの?」
「はい・・・でも」
「でも?」
「・・・・確かに心苦しかったんですけど、楽しかったんです。」
「ふうん?」
「トマスさんは、無愛想だけど優しくてお兄さんみたいってずっと思ってたんです。私、今までデートしたのも1回だけで、それだって友達カップルのダブルデートに付き合ったもので。ふりだけど恋人がいる気分を味わえてるっていうのが、楽しかったんです。」
「そっかあ。エルシーが楽しかったなら私は非難しないよ。」
「でも、最近自分の気持ちが分からなくて。トマスさんが他の女の人と仲良く笑いあってるからって自分がもやもやする権利はないのに、もやもやするんです」
「もやもやするのね。なるほど・・・」ナナオ様はお茶のお代わりを自分と私のカップに注ぐ。
「私、自分が醜く感じてしまってトマスさんと二人で話すことがあったらひどいことを言ってしまいそうで、仕事をたくさんいれて忙しくしました」
「わかったわ。でもね、エルシー。無理して忙しくするのは体によくない。トマスと当分顔を合わせたくないのよね」
「はい。」
「よしっ。私も協力するわ。ちょうど考えていたことがあるのよ~」
ナナオ様は当主様がいうところの「何かを企む黒い笑顔」でニヤリと笑った。
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エルシーのもやもやの正体を分かっているけど教えない
ナナオでした。