6.心の苦み
もやもや発生。の巻
その日、休日だった私は特に用事もなかったため実家に帰り食堂を手伝ってきた。家族からは早くトマスさんを連れて来いって言われたけど、そんなことをしたらますます「恋人同士のふりをしてる」だなんて言えない状況になっちゃう。
私は「まだ付き合って日が浅いから」とか言ってなんとかごまかし、実家を出てきた。
もう少しでクロスビー家、というところで使用人の通用門がある方面から人の話し声が聞こえる。
そちらの方に歩いていくと、クロスビー家の壁際でトマスさんと女の人が話をしているようだった。
何を話しているのかはわからないけど、二人の仲のよさは伝わる。
女の人はトマスさんに何か渡すと、トマスさんはよほど大切な物らしく大事そうに抱え込んでる。それを見た女の人は笑って、トマスさんに手を振った。トマスさんも手を振り女の人を見送っている。
「恋人同士のふり」が終わるのって、当たり前だけど、どちらかに本当に好きな相手ができたときだ(前に読んだ恋愛小説にそんなパターンがあった)。
トマスさんは無愛想だけど見た目は悪くないし、きっともてるだろう。彼女だってすぐにできそう・・・・漠然と思っていたことが現実になって、私は途端に落ち込んでしまった。
でも、自分が落ち込んでいる原因を知られるのは嫌だ。私は気持ちを奮い立たせて通用門から中に入った。
「エルシー、戻ったのか?」
トマスさんに厨房から声をかけられて、立ち止まる。
「トマスさん、ただいま戻りました」
「お茶でも飲んでくか?」
いつもなら、喜んで「はいっ」って言うところだけど、今はムリ。
「いいえ。実家でいろいろ食べてきたのでお腹いっぱいなんです」なんとか笑顔で言う。
「そうか。夕食はどうする?」
「・・・・・あ、今日はいりません。ちょっと食堂が混雑してて疲れちゃって」
「そうか。ゆっくり休めよ」
「はい。ありがとうございます」私はトマスさんにお辞儀をして厨房から離れた。
「恋人同士のふり」をしているだけなのに、どうしてこんなに苦しいんだろ・・・・・。
読了ありがとうございました。
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甘さばかり(でも微糖ですが)だとどうかと思ったので、
ど定番なちょっとした誤解もいれてみました。