2.喜ばれて困惑
予想外、いや予想通り?の巻
私とトマスさんが付き合っているという事実は、その日の夜には周囲が知ることとなった。どうやら姉が帰り際にヴェラさんに挨拶していったことから広まったらしい。
ティアさんやミリアムさんからは「もー、知らなかったわよ~」と冷やかされるし、ヴェラさんからは「エルシー、うちの無愛想な次男を見捨てないでね?」と抱きしめられてしまうし、クロードさんからは「はやく“娘”になってくれると嬉しいな、エルシー」と言われてしまった。
こういうとき、その気になれば厨房にこもれるトマスさんがうらめしい。私はメイドだから必ず誰かと顔を合わせるからだ。
次の日になると、当主夫人・ナナオ様にヴェラさんから話が伝わっていた。
いつものように、ナナオ様の部屋に朝の挨拶に行くと私の顔を見たとたんに「エルシー、ヴェラから聞いたわよ~。もう、私全然気がつかなかったわ。」とからかうように言われてしまった。
「えっ・・・あ、すみません。」実は“ふり”だけなんです、って言いたい。すごく言いたい。
「デルレイも驚いていたわよ。でも、“社内恋愛”だもんね。おおっぴらにするもんじゃないものね。はー、私の身近でこんなことが起こるなんて」
恋愛小説大好きなナナオ様は、目をきらきらさせている。そして、当主様に伝わったということは・・・・もう“ふり”ですって言うタイミングがわからないよ~・・・・。
なんか・・・朝からどっと疲れる・・・・私はナナオ様の部屋を出てから盛大なため息をついた。
「トマスさんは、ずるいです」
私は時間を見つけて、厨房で野菜の皮をむいているトマスさんに文句を言いに行った。
「は?」
「わ、私たちが付き合っているということで、私ばっかりからかわれるんですっ。おまけに今日になって当主様とナナオ様にも知られてしまったじゃないですか。いつ“ふり”なんですって言えばいいんですか」
「よかったじゃないか祝福されて」
「そういうことじゃないですよ~。」
「俺には皆口をそろえて“エルシーを泣かすな”だの“エルシーを大事にしろ”としか言わない。この扱いの差はなんだ。」
「トマスさんって、遊び人なんですか?私、遊び人は嫌いです。」
「そんなわけないだろう。そのとき付き合っている彼女にはいつも誠実だ」
トマスさんって・・・・
「彼女がたくさん、いたんですねえ・・・」
「・・・どうしてそうなる」トマスさんが皮をむく手を止めて、頭を抱えていた。
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あの人物が顔を出してます。
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