9.ホットチョコレートの秘密
トマスとチョコレート。の巻
「今日までどうもありがとう、エルシーさん。とても助かりました」
「いいえ。こちらこそ、お役に立てたでしょうか」
「ええ。ナナオさんには私からも改めて御礼を言いますけど、エルシーさんからも伝えていただけますか?」
「はい。わかりました」
私は、ベルさんにお辞儀をして店の外に出た。
ベルカフェで一番忙しい開店から3の時までの手伝いをして、実家に帰るという繰り返しだった1週間。
突然実家に戻ってきた私をみて家族は皆驚いたけど、預かってきたナナオ様の手紙を見せると安心していた。
今までは、次の日も手伝うからまっすぐ実家に帰ってたけど今日はちょっと寄り道しちゃおうかなあ・・・そう思って私が実家とは反対方向に歩いていこうとすると後ろから「エルシー」と声をかけられた。
振り向くと、トマスさんがいた。
「トマスさん!こんなところで、どうしたんですか?」
「今日は休日なんだ。今日でベルカフェの手伝いは終わったんだろう?ちょっと付き合ってくれないか?」
「え、ええっ?」
トマスさんは、私の手をつかむと王宮庭園のほうへ歩き出した。
3の時はまだ明るいせいか、王宮庭園は人がたくさんいた。私たちはその一角にあるカフェでお茶を飲むことにした。
「エルシー。この間の休日からおかしくないか?何があった?」
「何も・・・ないですよ?」
「嘘をつけ。ずっと様子がおかしかった。」
私はお茶を一口飲んで、心を落ち着かせた。トマスさんと一緒にいると心が苦しくなる。どうして私と恋人同士のふりをしたの?
「トマスさん。私、もう家族や周囲の人たちに嘘をついているのが苦しいです。だから、恋人同士のふりをやめたいです・・・」
「俺は・・・・」トマスさんが何か言いかけたけど、私は続けた。
「この間の休日、屋敷に戻ってくるときにトマスさんが女の人と親しく話しているのを見かけたんです。トマスさんとお似合いじゃないですか。トマスさんは本当に好きな人とお付き合いをするべきです。私のほうは、家族にはいくらでも理由は言えますから、もう・・・」
「・・・冗談じゃない」トマスさんは、今まで見たこともない怖い顔をして私を見た。
「エルシー、場所を変えようか」そういうと、ふたたび私の手をとって、強引に歩き出した。
到着したのは、市場の一角にある食品問屋だった。
「あ、あのトマスさん?」エルシーの問いかけも無視してトマスはエルシーの手をつないだまま店内に入っていく。
「いらっしゃいませ~。あらトマスじゃない。そちらの可愛らしい方はどなた?」
声をかけてきたのは、濃い紫色の瞳にこげ茶色の長い髪の毛を一つに束ねたキレイな女の人だった。
「エルシー。この店の跡取りは俺やエリック、アイリーンの同級生なんだ。彼女は跡取りの奥さんでミレイア。この間、エルシーが見たのは彼女だよ。」
「えっ、トマスさん不倫はいけませんよ!!」
「エルシーさん。間違っても、トマスと不倫はないわね。」ミレイアさんが楽しそうに話に割り込んできた。
「あ。そうなんですか」
「当たり前よ~。トマス。今日は何か注文しにきたの?それとも、この間のチョコレートに何かあったのかしら」
「チョコレート?」
「そう。うちは食品問屋なんだけど、なかでもチョコレートはうちが王都いや王国では質も量も一番ね」
「そうなんですか~」
「普通は個人には売らないんだけど、トマスは私たちの友人だしね。何より、どうしても美味しいホットチョコレートを飲ませたい相手がいるって真剣にいわれちゃあね~。協力もするわよ」
「そうなんですか。トマスさんの作るホットチョコレート、美味しいですよね~」
「あら。私は飲んだことないわよ。というか、誰もトマスにホットチョコレート作ってもらったことないんじゃない?」そういうと、ミレイアさんはトマスさんのほうを見た。私もトマスさんのほうを見た。
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次回、最終回になります。