3 VS 呪いの使徒 VS 断末魔の叫び
「この携行食、おいしくないね」
逃げ遅れた二尾の魔女が悪びれもなく言う。
「人のもん食っといて文句言うな」
私の言葉にも気にした様子はなく、もう一口食べた。
「マルコだっけ? 足も治してやったし、さっさと帰んなよ」
私は焚き火をつつきながら言った。
少しの沈黙のあと、小さく言う。
「赤髪の魔女、キリエさまの子分として、しばらく同行させていただけませんか!」
思わず笑ってしまう。
「子分って」
マルコは真面目な顔のまま続ける。
「任務は失敗。戻っても叱責されるだけ。それに私は助けられました、この借りを返させてください!」
相棒が小さくため息をつく。
「どうする?」
「どうするって言われてもなぁ」
そのとき、私と相棒は同時に立ち上がった。
「来る……!」
すぐに索敵を始める。
「魔力反応……複数」
次の瞬間。
闇から飛び出した影が、包丁を振り下ろす。
長い黒髪の市松人形。
相棒の刀がそれを受け止めた。
「人形……呪いの使徒か!」
闇の中からさらに人形が現れる。
「赤髪……捕獲……」
私たちは後ろへ跳んだ。
「数が多くて対応できない、周辺爆破お願いします」
「またぁ?」
「いいからやれ、赤髪」
「はぁい……」
私は髪に手を伸ばす。
さらに次の瞬間。
空気が割れるような気配。
「この気配……」
「ネームド【断末魔の絶叫】です!」
「こんなときに!?」
稲妻の如き一閃が、私の首を目がけて振り下ろされた。
刃が空を裂く。
「よく避けたな。さすがは赤髪。」
男は全長八十センチほどの剣を構え直した。
「断末魔……」
相棒が低く呟く。
男が名乗る。
「退魔の騎士団【断末魔の叫び】。赤髪の魔女、成敗する。」
周囲には複数の人形。
正面には【断末魔の叫び】。
「大ピンチってやつかな?」
「そうですね」
相棒が冷静に答える。
「おい、マルコ! 今こそ借りを返す時だ! なんとかしろ!!」
助けてやった二尾の魔女に言う。
「ばーか! だれが助けるか! くたばっちまえ赤髪!!」
恩知らずのマルコはそう叫ぶと、森の奥へ走り去った。
「あのやろう……」
正面で剣を構えた騎士が一歩踏み出す。
「仲間に見放されたか」
相棒が刀を構え直す。
「どうします?」
「やるしかないでしょ」
腰のナイフを抜き、自分の赤い髪をひと束つかむ。
ざくり、と切り落とす。
「20mm、変換。吹っ飛べ」
自ら切った髪に魔力を灯すと、髪束が黒く燃え上がる。
直後、爆音。
空気が潰れ、衝撃が森を揺らした。
周囲の人形が粉々に砕け散る。
「どんなもんじゃい!」
「断末魔は上空へ回避してます」
「人形を操作してる魔女は?」
「三時方向です」
「おっしゃ!」
再び自らの髪を切る。
「5mm、変換」
今度は爆破ではなく、髪束を握った左拳を強化する。
「すぐ戻る」
そう言って三時方向へ跳んだ。
森の奥へ踏み込む。
木々の間に、黒髪の魔女がいた。
「お前か!」
「なに、はやい!」
草木の陰から人形が複数飛び出す。
私はそれを強化した拳で吹き飛ばし、強引に間合いを詰める。
「捕まえた」
左手で黒髪の魔女に触れ、掌から黒い炎が広がる。
次の瞬間、爆発が起き、黒髪の魔女は後ろへ弾き飛ばされた。
元いた場所へ急いで戻る。
相棒のハナコと【断末魔の叫び】が戦闘をしている。
剣と刀がぶつかり、火花が散る。
「ハナコ逃げるよ!」
「はい!」
私は自分の毛を1本抜き、魔力を灯した。
「毛幕、展開!」
次の瞬間、白い煙が爆ぜるように広がった。
森の中が一気に覆われ、視界が完全に遮られる。
私たちは急いで戦線を離脱すると、背後で空気を裂く音がした。
鋭い一閃。
煙が一直線に斬り裂かれる。
「あいつ、煙を斬ってます!」
ハナコが叫ぶ。
斬撃を振り下ろした姿勢で、騎士が小さく言う。
「斬れぬものは無い」
私たちは森の斜面を駆け下りる。
「すごい勢いで追ってきます」
背後でハナコが叫ぶ。
「やっぱり煙幕だけじゃ無理か」
後ろから重い足音が迫る。
振り返る余裕はない。
「速いなあ!」
「追いつかれますよ」
「仕方ないか」
後ろで一つに結んだ赤い髪をつかみ、腰のナイフを抜いた。
ばっさりと大きく切り落とす。
「100mm、変換」
切り落とした髪束が黒く激しく燃え上がる。
「ハナコ、私の後ろにいな!」
「はい!」
振り向きざまに腕を振り抜く。
「消し飛べ!」
その一撃は、地面ごと抉り取り、周囲の木々を轟音とともに崩壊させた。
人ひとりに向けるには、明らかに過剰な威力だった。
腰まであった髪は、もう肩甲骨のあたりまで短くなっている。
「すごい、森が吹き飛んじゃいましたね」
「【断末魔の叫び】とはいえ、さすがに死んだでしょ、こりゃ」
爆炎の中央。
斬撃を振り下ろした姿勢で、騎士は立っていた。
鎧は黒く焼け、胸当てには大きな亀裂が走っている。
砕けた肩当てが足元に転がった。
兜の一部も欠け、そこから片目が覗いている。
浅く息を吐きながらも、構えだけは崩れない。
「……斬れぬものは、無い」




