1 一人目のプロローグ
焚き火の灰がまだわずかに温かい朝だった。
地面の上に敷いた布に座り、私は櫛を取り出す。
腰まで伸びた赤髪を、毛先から梳かす。
さらり、と静かな音がした。
次に中間、根本まで順々に、木の櫛をゆっくりと通す。
何度も繰り返してきた、いつもの手順。
髪を整えると、不思議と気持ちも落ち着く。
「相変わらず綺麗な髪ですね」
短髪の少女が呆れたように言う。
「でしょ?」
私は笑顔で返事をした。
それからリボンを取り出し、背中で髪を一つに束ねた。
「どう、似合ってる?」
短髪の相棒は素っ気なく「似合ってますよ」と返した。
「気に入ってるんだ。この髪型」
そのとき、森の奥から鳥が一斉に飛び立つ音がした。
相棒が動きを止める。
「……何かいます」
急いで立ち上がると、整えたばかりの髪が、背中で揺れた。
鳥の羽音が森に広がり、静けさが戻る。
戻らない音が一つだけあった。
重い足音。
どし、どし、と地面を踏みしめる振動が近づいてくる。
相棒が低く言う。
「大きいですね」
森の奥を見つめる。
木々の間から、灰色の体が現れた。
岩のような皮膚を持つモンスターだった。
四足で、高さは人の倍ほどある。
興奮した様子で鼻息を鳴らしている。
「朝から元気だねえ」
「呑気に言ってる場合じゃありません!」
相棒が前に出る。
腰のポーチから短い髪の束を取り出し魔力を灯すと、ぱっと淡い光が広がる。
それをモンスターに投げつけると、小さな爆発が起きた。
しかし大したダメージはないようだ。
「硬いです!」
モンスターがこちらに向かって突進を始めた。
相棒は横に跳んで回避行動に移った。
私は一瞬だけ自分の髪を見る。
それから小さく息を吐く。
「仕方ないか」
後ろで一つに結んだ赤い髪をつかみ、腰のナイフを抜いた。
ざくり。
切り落とした髪束を握りしめ、「70mm、変換」と呟く。
そのまま魔力を灯すと、髪はすぐに光へ変わった。
「吹っ飛べ!」
爆音。
衝撃が弾け、モンスターが消し飛んだ。
「うーん、もったいない」
短くなった毛先を触る。
その様子を見て、相棒がニヤけ顔で言う。
「髪型、似合ってますよ」
「うるさいな」




