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総理大臣、中学生になる。〜悪行教育現場をぶっ壊す最強の生徒会長〜  作者: まこーぼ


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第2部:静かなる浸食・基盤構築編


第7話:筋肉と鎖の交渉術


 放課後のグラウンドには、土埃と汗の匂いが充満している。

 俺、大野おおのは、サッカー部の部室前でスパイクの紐を結びながら、隣に座る親友でありキャプテンの桐島きりしまを横目で見ていた。

 桐島は右膝に分厚いテーピングを巻いている。先週の練習試合で相手選手と接触した際に痛めた箇所だ。歩くだけでも顔をしかめるほどの激痛が走っているはずだが、彼はそれを隠して練習に出ようとしている。


「おい、無理すんなよ。今日は見学にしとけって。顧問に言えば分かってくれるだろ」

 俺が小声で忠告すると、桐島は力なく首を振った。

「無理だよ。田所たどころに見学なんて言ってみろ。『気合いが足りない』って怒鳴られて、そのままレギュラー剥奪だぞ。夏大会前の大事な時期に、内申書に『協調性なし』なんて書かれたら、スポーツ推薦がパアになる」


 桐島は苦痛に顔を歪めながら立ち上がった。

 サッカー部顧問の田所。あいつは「勝利至上主義」の権化だ。怪我をした選手を「自己管理ができていない」「根性がない」と罵倒し、容赦なく切り捨てる。昭和のスポ根漫画から抜け出してきたような、前時代的な暴君。

 俺たちは田所の機嫌を損ねないよう、常にビクビクしながらボールを蹴っている。これが部活か? これが青春か?


「おーい、練習始めるぞー! ダラダラしてんじゃねえ! 遅れた奴はグラウンド10周追加だ!」

 田所の怒鳴り声がグラウンドに響き渡る。竹刀を持ったその姿は、指導者というより看守に近い。

 俺たちは舌打ちを飲み込み、グラウンドへ駆け出した。


 練習が始まると、ベンチの端に一人の制服姿の男が座っているのが見えた。

 神条湊かみじょう みなとだ。

 あいつは最近、色んな部活の偵察に来ている。運動神経は大したことないくせに、醸し出す雰囲気だけはやけに大物ぶっていて、妙に気になる存在だ。クラスでも何やら裏で動いているという噂がある。


 ミニゲーム形式の練習中、その瞬間は訪れた。

 桐島がパスを受けようとターンした瞬間、膝がガクンと折れ、そのまま地面に崩れ落ちたのだ。

 悲鳴のような声が漏れる。


「何やってんだ桐島ァ! 立て! 演技してんじゃねえぞ!」

 田所が鬼のような形相で駆け寄ってくる。

「痛いフリすればサボれると思ってんのか! 甘ったれるな!」

 田所は倒れている桐島の太腿を、持っていた竹刀で小突こうとした。いや、あれは小突くというより、叩く動作だった。


「ストップ」


 静かな、しかしグラウンドの空気を切り裂くようなよく通る声が響いた。

 田所の動きが止まる。

 神条だった。いつの間にかベンチから立ち上がり、スマホを構えて田所の目の前に立ちはだかっていた。


「田所先生。今の行為、体罰および傷害未遂として記録しました」

「ああん? なんだお前、部外者は失せろ。これは指導だ」

「部外者ではありません。私は桐島くんの代理人です」


 神条はグラウンドに入り込み、桐島を庇うように立った。

 175センチの筋肉質な田所に対し、160センチそこそこの神条。体格差は歴然だが、神条は一歩も引かない。その背中は、不思議と大きく見えた。


「先生。スポーツ庁が策定した『運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン』をご存知ですか? 第3章2項、『怪我の疑いがある生徒への無理な強要、および科学的根拠に基づかない指導は、ハラスメントに該当する』とあります」

「ガタガタうるせえ! 俺の指導法に口出すな! こいつらは俺のおかげで勝ててるんだよ!」

「そうですか。では、この動画を教育委員会と、桐島くんが推薦を希望している県内強豪高校のスカウト部に送りましょうか。『この中学の顧問は選手を使い潰すクラッシャーであり、入部予定者の膝を破壊しようとした』と」


 田所の顔が引きつった。

 高校のスカウトとのコネクションは、田所にとっての生命線だ。自分の評判が悪くなれば、有力な選手を送り込めなくなり、彼自身の「名将」としての評価も地に落ちる。


「……お前、脅す気か?」

「いいえ、交渉ネゴシエーションです。桐島くんを直ちに病院へ行かせ、全治するまでの休養を認めなさい。そして、レギュラーからの除外もしないこと。それが条件です」


 田所はギリギリと歯噛みし、神条を睨みつけた。しかし、スマホのカメラレンズに向けられた視線に気圧されたのか、最後には竹刀を下ろした。


「……チッ。勝手にしろ。今日は見学でいい」

 田所は吐き捨てるように言い、逃げるように部室棟の方へ去っていった。


 グラウンドに静寂が戻る。部員たちは呆然と神条を見つめていた。あの田所を、口先だけで追い払ったのだ。

 神条はスマホをしまい、桐島に手を差し伸べた。


「立てますか? 桐島くん」

「……ああ。助かった、マジで」

 桐島は神条の手を借りて立ち上がった。脂汗を流しながらも、その目には神条への感謝と、畏敬の色が浮かんでいた。


「桐島くん、大野くん。改めて、取引をしませんか」

 神条は俺たちを見て、ニヤリと笑った。それは悪魔の契約のようでもあり、救世主の福音のようでもあった。


「私は君たちの体を守る。田所を黙らせ、推薦枠を確実に確保させる。その代わり」

「代わり、なんだよ」

 俺が問うと、神条はグラウンドを見渡しながら言った。


「君たちの『力』を貸してほしい。筋肉フィジカルと、クラスでの発言力。来るべき生徒会長選挙の時、私の最強の盾となり、票を集める集票マシーンとなってほしいのです。運動部の票田は大きい。君たちが動けば、学年の半分は動く」


 俺と桐島は顔を見合わせた。

 教師に媚び、理不尽に耐えるしかなかった俺たちを、こいつは救った。そして今、対等なパートナーとして手を差し伸べている。

 答えは決まっていた。


「……分かったよ。神条、お前についていく」

 桐島が言った。「面白そうだ。田所の野郎が青ざめる顔、もっと見てみてえしな」


 こうして、学校最大の武力勢力であるサッカー部を中心とした運動部連合が、神条の傘下に入った瞬間だった。

 こいつの「根回し」は、俺たちの忠誠心すら計算に入れているらしい。

 俺たちは知らず知らずのうちに、神条湊という革命家の親衛隊に志願させられていたのだ。

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