第5部:革命と再生編
第65話:新たな野望と、終わらない旅
そして、1年後。
私、神条湊は、北中学校を卒業した。
卒業式の日、私は答辞を読まなかった。それは次期生徒会長の役目だ。私は一人の生徒として、静かに学び舎を去った。
4月。
高校の入学式。
新しい制服。ブレザーの感触が新鮮だ。
進学先は、県内トップの進学校。西園寺先輩もいる高校だ。
校門を出たところで、一台の黒塗りの高級車が止まっているのに気づいた。
センチュリー。
大河内が乗っていたような車ではない。もっと品があり、威厳のある車だ。
後部座席のドアが開き、一人の初老の男が降りてきた。
白髪のオールバック。鋭い眼光。
見覚えがある。
……まさか。
「お待ちしておりました、閣下」
男は私に向かって深々と頭を下げた。
周囲の高校生たちが「誰だ?」「すげえ車」とざわめく。
私は苦笑した。
「よしてくれ、佐々木。今の私はただの高校1年生だ」
佐々木。かつて私の内閣で官房長官を務め、最後まで私を支えてくれた盟友。
私が中学生になってからは行方知れずだったが、どうやら彼もまた、この世界のどこかで私を探していたらしい。あるいは、彼もまた「転生」したのか? いや、その皺の深さは年相応だ。
「いいえ。貴方様の目は、あの頃と少しも変わっておられません。いや、むしろ澄んでおられる」
佐々木は懐かしそうに微笑んだ。
「北中学校でのご活躍、拝見しておりました。見事な手腕でした。教育行政を一地方からひっくり返すとは」
「ただの学校行事の延長だよ。少しやりすぎたがね」
私は車のボンネットに手を置いた。
「それで? わざわざ迎えに来たということは、何か用があるんだろう?」
「はい。政界が揺れております。大河内失脚の後、権力の空白地帯が生まれ、有象無象が跋扈しております。この国には、再び強力なリーダーシップが必要です」
佐々木は真剣な眼差しで私を見た。
「貴方様が高校を卒業し、被選挙権を得るまでの10年間。その準備期間として、我々『神条派』の残党が、貴方様を全面的にバックアップいたします。資金、人脈、情報。全てご用意いたしました」
気の早い話だ。
だが、悪くない。
私は北中学校での戦いで学んだ。
政治とは、密室で行われる陰湿なゲームではない。
人の心を動かし、未来を作るための熱いドラマなのだと。
「10年も待てるか」
私はニヤリと笑った。
「まずは『高校生議員』の実現を目指すよ。選挙権年齢の引き下げ運動、そして若者の政治参加を促す新党の結成。手始めに、この高校の生徒会を掌握することから始めようか」
佐々木が驚き、そして嬉しそうに破顔した。
「……承知いたしました。では、ただちに作戦会議を」
「ああ。行くぞ、佐々木。第二章の幕開けだ」
私は車に乗り込もうとして、ふと足を止めた。
通学路の向こうから、一ノ瀬と影山が走ってくるのが見えた。彼らも同じ高校に進学したのだ。
「神条くん! 待ってよ!」
「置いてかないでくれよ、総理!」
私は佐々木に言った。
「車はいい。歩いて行くよ。連れがいるんだ」
「……左様でございますか。では、影からお守りいたします」
佐々木は恭しく一礼し、車に戻っていった。
私は一ノ瀬たちの元へ駆け寄った。
「遅いぞ、君たち」
「神条くんが早いのよ! ……ねえ、今の車、何?」
「ああ、昔の知り合いだ。ちょっとした勧誘を受けてね」
「勧誘? 怪しいバイト?」
「いや、世界征服の誘いだよ」
私が冗談めかして言うと、二人は呆れたように、でも楽しそうに笑った。
青空が広がっている。
私の二度目の人生は、まだ始まったばかりだ。
教育を変え、政治を変え、この国を変える。
その長い旅路を、私は最高の仲間たちと共に歩んでいく。
「さあ、行こうか。次はどんな革命を起こそう?」
元総理大臣の少年は、希望に満ちた瞳で未来を見据え、新たな一歩を踏み出した。
(完)




