第5部:革命と再生編
第63話:最後の改革と、継承される意志
生徒会室。
放課後の夕日が差し込む部屋で、私は最後の「改革案」をホワイトボードに書き記していた。
『教員評価ランキング制度・最終形態』。
メンバーが集まっている。一ノ瀬、影山、美咲、小林。そして、特別顧問として田中先生も参加している。
「これが、私の最後の仕事だ」
私はマーカーを置いた。
「ランキング制度は、当初の『教師を断罪する』という目的を終え、次のフェーズへ移行する。名付けて『相互成長プログラム(グローアップ・システム)』だ」
その内容は、これまでのものとは一線を画していた。
1.点数による順位付けの廃止。
2.代わりに、具体的な「感謝」と「改善提案」を記名式で投稿する。
3.教師もまた、生徒会活動や部活動に対してフィードバックを行う。
4.半期に一度、教師と生徒代表による公開討論会を開催し、学校の課題を共有する。
「つまり、監視ではなく対話。処罰ではなく称賛をベースにするということだ」
私が説明すると、一ノ瀬が頷いた。
「素敵ね。これなら、先生たちも怖がらずに参加できるわ」
「でも、甘くないですか? また悪い先生が出てきたらどうするんです?」
影山が懸念を示す。
「そのための『安全装置』は残す」
私は別の資料を見せた。
「重大な人権侵害や不正があった場合のみ発動する『緊急通報ボタン(レッド・アラート)』だ。これは生徒会役員とPTA会長に直通し、即座に第三者委員会を招集する権限を持つ。このボタンがある限り、教師は独裁者には戻れない」
飴と鞭。
信頼をベースにしつつ、最悪の事態への備えは怠らない。
これが、私が辿り着いた「統治」の結論だった。
「なるほど。完璧ですね」
田中先生が感心したように言った。
「これなら、僕たち教師も背筋が伸びます。……神条くん。君は本当に、教育者に向いているかもしれないな」
「勘弁してください。私は政治家志望ですから」
私は苦笑した。
数日後。
全校集会で新制度が発表された。
生徒たちは静かに聞き入り、最後には大きな拍手が起きた。
かつてのような熱狂的な「教師を吊るし上げろ」という空気はない。
成熟した、大人の空気だ。
彼らはもう、誰かに煽動される暴徒ではない。自分たちで考え、判断できる市民になったのだ。
そして、次期生徒会長選挙の告示。
私は立候補しなかった。
「えっ? 神条先輩、出ないんですか?」
1年生の女子生徒が驚いて聞いてきた。
「ああ。私の役目は、壊して、更地にすることだった。その上に新しい建物を建てるのは、君たちの世代の仕事だ」
私は彼女に、生徒会室の鍵を渡すような仕草をした。
「期待しているよ」
次期会長には、1年生の男子が立候補した。かつて理科室で不良たちに立ち向かい、声を上げたあの少年だ。
彼なら大丈夫だろう。
桐島や西園寺先輩も、彼を支えると約束してくれた。
私は荷物をまとめた。
生徒会室の私物は少ない。
紅茶のティーセットと、数冊の専門書だけ。
ガランとした机を見て、少しだけ寂しさを感じた。
だが、それ以上に達成感があった。
私は、この学校を変えた。
そして、学校もまた、私を変えてくれた。
冷徹な政治マシーンだった私に、「仲間を信じる」という人間らしい感情を教えてくれたのだ。
窓の外を見ると、雪が降り始めていた。
季節は巡る。
もうすぐ卒業だ。




