第5部:革命と再生編
第62話:凱旋と、日常への帰還
国会での激闘から数日後。
私は久しぶりに、いつもの通学路を歩いていた。
季節は冬へと移ろい、街路樹の葉は落ちていたが、空気は澄んでいて心地よい。
校門前には、もうマスコミの姿はない。大河内議員の逮捕と、それに伴う教育委員会の大規模な汚職捜査という巨大なニュースに飛びつき、一介の中学生のことなど忘れてしまったのだろう。
だが、それでいい。私は有名人になりたかったわけではない。
校門をくぐると、そこには見慣れた風景があった。
ジャージ姿の生徒たちが朝練に励み、登校する生徒たちが談笑している。
だが、一つだけ違うことがあった。
私が姿を見せると、彼らが一斉に足を止め、こちらを向いたのだ。
緊張が走る。また「独裁者」を見る目で見られるのか?
身構えた私の耳に、予想外の声が届いた。
「おはようございます! 会長!」
「神条先輩! テレビ見ましたよ! すげえカッコよかったです!」
「お疲れ様でした!」
笑顔。
屈託のない、心からの笑顔。
1年生も、2年生も、受験を控えた3年生も。
彼らは私を避けることなく、駆け寄ってきてくれた。
「会長のおかげで、先生たちが変わりました」
「部活の予算が増えて、新しいボールが買えました!」
「ありがとう、神条くん」
私は呆気にとられた。
かつて総理大臣時代、選挙に勝ってもこれほどの温かい出迎えを受けたことはなかった。支持率は数字でしかなかった。
だが、ここにあるのは「温度」だ。
私は込み上げてくる熱いものを飲み込み、照れくさそうに頭を掻いた。
「……ああ。おはよう。みんな、元気そうで何よりだ」
昇降口で靴を履き替えていると、背後から声をかけられた。
「遅いよ、ヒーロー。待ってたんだから」
振り返ると、一ノ瀬玲奈が立っていた。彼女の目元は少し赤い。泣いていたのかもしれない。
その隣には、影山透。彼はタブレットではなく、自分の目で私を見て笑っている。
「お帰り、会長」
「ただいま。留守を頼んで悪かったね」
「全くだよ。教頭先生が毎日『神条くんはまだか』ってうるさくてさ。君がいないと何も決められないんだって」
影山が呆れたように言う。
教頭は改心した……というか、私に完全に依存してしまっているようだ。まあ、悪巧みをするよりはマシか。
「さあ、行こう。生徒会室に山ほどの書類が溜まってるわよ」
一ノ瀬が私の背中を押す。
その感触が、私が学校に戻ってきたことを実感させてくれた。
教室に入ると、桐島が机に座って待っていた。
「よう、神条。大河内のおっさん、泣かしたらしいな。傑作だったぜ」
「泣かしてはいないよ。少し説教しただけだ」
「へっ。相変わらずだな」
桐島はニカっと笑い、ハイタッチを求めてきた。
パァン! と乾いた音が響く。
クラスメイトたちが集まってくる。かつては遠巻きに見ていた彼らが、今は輪を作っている。
平和だ。
ランキング制度の混乱も、外部からの圧力も、全て過去のものとなった。
父の会社への税務調査も、大河内の失脚と共に打ち切られ、逆に「調査の適正性」が問われているという。
全てが、あるべき場所に戻った。
だが、これで終わりではない。
私には、最後にやるべき仕事が残っている。
私が作った「ランキング制度」というシステムを、私の手で完成させ、次世代に引き継ぐことだ。




