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総理大臣、中学生になる。〜悪行教育現場をぶっ壊す最強の生徒会長〜  作者: まこーぼ


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第5部:革命と再生編

第61話:崩れ落ちる巨像と、未来への演説


 高村玲子の告発が終わった瞬間、委員会室はカオス(混沌)の極みに達していた。

 怒号、悲鳴、そしてカメラのシャッター音。それらが混ざり合い、耳をつんざくような不協和音となって空間を支配していた。

 野党議員たちは一斉に立ち上がり、「委員長辞任!」「議員辞職勧告だ!」と叫びながら委員長席に詰め寄る。与党議員たちは呆然として立ち尽くすか、あるいは自分たちにも火の粉が降りかかるのを恐れて顔を伏せている。

 衛視たちが「静粛に!」「席に戻ってください!」と叫んでいるが、もはや誰の耳にも届かない。


 その混乱の中心で、大河内重徳は椅子にはりつけにされたように動かなかった。

 目は虚ろで、口元はだらしなく開き、小刻みに震えている。

 数分前までこの場の絶対君主として振る舞っていた威厳は、霧散していた。彼を守っていた権力の鎧は、一人の女性の勇気ある告発と、一人の少年の策略によって剥ぎ取られたのだ。

 彼は、自分が築き上げてきた政治生命が、砂の城のように崩れ去っていく音を聞いていたに違いない。


「……先生。聞こえていますか?」

 私はマイクを通して、彼に呼びかけた。

 大河内がゆっくりと顔を上げる。焦点が合わない目で私を見る。

「……神条……くん……」

 掠れた声。

「貴方の敗因は、たった一つです。子供を侮ったことではありません。教育を、自分の私腹を肥やすための道具だと思い込んだことです」


 私は、高村が置いていった黒いノートを手に取った。

「このノートに書かれたことは、貴方にとっては単なる数字の記録かもしれません。ですが、ここにある一円一円は、現場の教師たちが汗水垂らして働き、保護者たちが子供のために必死で捻出したお金です。それを貴方は、料亭の酒代や、次の選挙のための裏金に変えてしまった」


 私はノートを掲げた。

「教育とは、未来への投資です。貴方は、この国の未来を食い潰したのです。万死に値する罪だ」


 大河内はガクリと項垂れた。

 その姿は、あまりにも小さく、老いていた。

 かつて私が総理大臣だった頃、政敵として戦った彼。あの頃の彼は、強敵ライバルと呼ぶにふさわしい知性と胆力を持っていたはずだ。

 権力とは、かくも人を腐らせるものか。

 私は哀れみにも似た感情を抱いた。だが、ここで慈悲をかけるわけにはいかない。


 私は視線をカメラに向けた。

 レンズの向こうには、数千万人の国民がいる。そして、教室で見守る仲間たちがいる。

 私は彼らに向かって、最後の演説を始めた。


「テレビをご覧の皆さん。これが、今の日本の教育行政の実態です。

 学校では、いじめや体罰、不登校が蔓延しています。教師たちは疲弊し、心ある者は去り、残った者は保身に走る。

 なぜか?

 それは、現場の声が届かないからです。

 政治家や官僚が、現場を見ずに机上の空論でルールを押し付け、予算を中抜きし、自分たちの都合のいいように教育を歪めているからです」


 私は深呼吸をした。

 かつて総理大臣として所信表明演説を行った時よりも、言葉に熱がこもる。


「私は、北中学校で一つの実験を行いました。

 『ランキング制度』。

 それは劇薬でした。教師を傷つけ、学校を混乱させました。私は多くの批判を受けました。『子供が生意気だ』『秩序を乱すな』と。

 ですが、その混乱の中から、私たちは学びました。

 評価とは、一方的に断罪することではない。対話し、理解し合い、共に成長するためのプロセスなのだと」


 脳裏に、仲間たちの顔が浮かぶ。

 一ノ瀬の涙。影山の笑顔。桐島の怒り。西園寺の決意。そして、田中先生の握手。

 彼らが私をここまで連れてきてくれた。


「教育を変えるのは、偉い政治家ではありません。新しい法律でもありません。

 現場の教室にいる、一人一人の教師と、生徒です。

 教師の皆さん。生徒を恐れないでください。そして、生徒を支配しないでください。貴方たちは、未来を育てる庭師なのです。

 生徒の皆さん。大人を恐れないでください。おかしいと思ったら声を上げてください。貴方たちは、この国の主権者なのです」


 私は、カメラを指差した。

 かつて大河内が私にしたように。だが、その意味は全く違う。


「私は、今日ここで全ての責任を取ります。

 ですが、私の蒔いた種は、必ず芽吹きます。

 全国の学校で、第二、第三の神条湊が現れるでしょう。

 その時、大人たちは覚悟してください。

 私たちはもう、黙って従うだけの羊ではありません。

 未来は、私たちの手の中にあります」


 演説が終わった。

 静寂が訪れた。委員会室の喧騒が嘘のように止んだ。

 誰もが、私の言葉を反芻していた。

 数秒後。

 傍聴席から拍手が起きた。

 一人の記者が手を叩いた。それに続いて、野党議員が、そして与党議員の一部までもが、拍手を送り始めた。

 拍手は波紋のように広がり、やがて委員会室全体を包み込むスタンディングオベーションとなった。

 それは、私個人への称賛ではない。

 腐敗した政治への決別と、新しい時代への期待の拍手だった。


 大河内は、衛視に抱えられるようにして退室していった。

 彼の背中は、もう二度とこの場所に戻ってくることはないだろう。

 高村が私に近づいてきた。

 彼女の目には涙が光っていた。

「……やったわね。完勝よ」

「ええ。貴女のおかげです」

「私のキャリアは終わったわ。でも、後悔はない。最後に、教育者としての仕事ができた気がする」

 彼女は清々しい顔で笑った。

「ありがとう、神条くん。……いえ、元総理大臣閣下」

 彼女は小声で囁いた。

 私は驚いた。彼女は気づいていたのか? それとも冗談か?

 どちらでもいい。今は、ただの戦友だ。


 私は一礼し、委員会室を後にした。

 重厚な扉が閉まる。

 廊下に出ると、窓の外には青空が広がっていた。

 長い、長い戦いが終わった。

 携帯を見ると、数百件の通知が来ていた。

 一番上には、一ノ瀬からのメッセージ。

 『お疲れ様。早く帰ってきて。みんな待ってるよ』


 私はスマホを握りしめ、歩き出した。

 足取りは軽い。

 国会議事堂の赤絨毯よりも、学校の埃っぽい廊下の方が、今の私にはずっと輝いて見えた。

 さあ、帰ろう。私の学校へ。

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