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総理大臣、中学生になる。〜悪行教育現場をぶっ壊す最強の生徒会長〜  作者: まこーぼ


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第5部:革命と再生編

第58話:魔物の棲む館と、一人の少年


 国会招致当日。

 水曜日の朝、私は学校には行かず、東京行きの電車に乗っていた。

 黒塗りのハイヤーでもなければ、SPに囲まれた公用車でもない。通勤ラッシュに揉まれる満員電車。

 だが、私の心は不思議と穏やかだった。

 車窓を流れる景色を見ながら、私はかつての記憶を反芻していた。

 総理大臣として、この国の頂点に立っていた日々。重圧、孤独、そして妥協の連続だった日々。

 それに比べれば、今の方がよほど自由で、生き生きとしている。

 守るべき派閥もなければ、しがらみもない。あるのは、学校で待っている仲間たちとの約束だけだ。


 永田町駅で降りると、冷たい秋風が吹き抜けた。

 地上に出ると、そこには圧倒的な存在感を放つ石造りのピラミッド――国会議事堂が鎮座していた。

 灰色の巨塔。

 かつての私の「職場」であり、同時に私の命を削った「魔物の館」。

 通用門には、既に無数の報道陣が待ち構えていた。

 私が姿を現すと、フラッシュの嵐が巻き起こる。

「神条くん! 今の気持ちは!?」

「大河内議員と対決するつもりですか!?」

「勝算はあるんですか!」


 私は足を止めず、無言で歩き続けた。

 制服のポケットには、一通の手紙が入っている。一ノ瀬が今朝、駅で渡してくれたお守りだ。

 『私たちは見ているよ。行ってらっしゃい、会長』

 その言葉だけで、私は無敵になれる気がした。


 参議院別館。

 控室に通されると、そこは無機質な白い部屋だった。

 パイプ椅子と長机。お茶のペットボトルが一本。

 まるで取調室だ。

 そこに、ノックもせずに一人の男が入ってきた。

 大河内重徳。

 テレビで見る好々爺の笑顔はどこにもない。冷徹で、獲物を見下ろす捕食者の目をした老人が、そこに立っていた。


「やあ、よく来たね。逃げずに来たことは褒めてやろう」

 大河内は私の対面に座り、足を組んだ。

「お招きいただき光栄です、先生。中学生が国会見学できるなんて、素晴らしい社会科見学ですね」

 私が皮肉で返すと、大河内は鼻で笑った。

「減らず口を。……いいか、坊主。今日の委員会は、お前のためのステージじゃない。お前が公開処刑されるための断頭台だ」


 彼は身を乗り出し、声を低くした。

「シナリオは決まっている。お前は私の質問攻めに遭い、答えに窮し、泣きべそをかいて謝罪する。全国民の前で『私は間違っていました』と頭を下げるんだ。そうすれば、私の温情で、お前の将来は保証してやる」

「……飼い犬になれ、ということですか?」

「そうだ。優秀な犬には、最高の餌と寝床を与えよう。だが、牙を剥くなら……殺処分だ」


 強烈な殺気。

 普通の中学生なら、この時点で失禁しているかもしれない。

 だが、私は総理大臣だ。いや、元総理大臣だ。この程度の恫喝は、野党のヤジより可愛いものだ。


「残念ですが、私は犬派ではなく猫派でしてね。首輪は肌に合いません」

 私はにっこりと笑い返した。

「それに、先生。断頭台に誰が首を乗せるか、まだ決まったわけではありませんよ?」


 大河内の顔色がさっと変わった。

「……フン、強がりもそこまでだ。本会議場でお前の化けの皮を剥いでやる」

 彼は捨て台詞を吐いて部屋を出て行った。


 一時間後。

 委員会室。

 重厚な扉が開く。

 テレビカメラの放列。議員たちの視線。傍聴席のざわめき。

 その全てが私に集中する。

 私は参考人席の中央に座った。

 正面の委員長席には、大河内重徳が座っている。彼は不敵な笑みを浮かべ、木槌ガベルを手にした。


「これより、文教科学委員会を開会します。本日の案件は、教育現場における生徒主体の改革について。参考人として、県立北中学校生徒会長、神条湊くんにお越しいただきました」


 カーン!

 乾いた音が響く。

 ゴングが鳴った。


 大河内がマイクを握る。

「さて、神条くん。君は学校で『教員評価ランキング』なるものを導入し、教育現場を混乱させた張本人と言われていますが……それは事実かね?」

 最初の質問から、いきなりのジャブだ。「混乱させた」という前提で話を進めようとしている。


 私はマイクを引き寄せ、ゆっくりと口を開いた。

「委員長のご指摘には、一部事実誤認があります。『混乱』ではなく『正常化』の過程であります」

 私の声は、全国ネットの電波に乗って日本中に届けられた。

 教室で見守る仲間たちへ。

 そして、この国で理不尽に耐えているすべての子供たちへ。


「正常化だと? 教師が過労で倒れ、学級崩壊が起きている現状を、君は正常だと言うのかね!」

 大河内が声を荒げる。演出だ。怒れる正義の政治家を演じている。

「それは過渡期の痛みです。長年蓄積されたうみを出すには、多少の出血は避けられません。むしろ、その膿を放置し、隠蔽し続けてきた教育行政の責任こそ問われるべきではありませんか?」


 私は真っ直ぐに大河内を見据えた。

 委員会室がどよめく。中学生が国会議員に反論した。しかも、堂々たる論理で。

 大河内の目が細められる。

 『生意気なガキめ』

 彼の心の声が聞こえるようだ。


 さあ、来い。

 もっと攻めてこい。

 お前の攻撃を受け流し、その勢いを利用して、お前自身の首を絞めてやる。

 柔道で言えば『巴投げ』。

 私の準備は万端だ。懐には、高村から託された「爆弾」が入っている。

 魔物の棲む館で、一人の少年が巨悪に牙を剥いた瞬間だった。

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